自治体の防災マネジメント
自治体の防災マネジメント[90]ボランティアの意義を考える
地方自治
2024.05.08
※写真はイメージであり、実際の土地とは関係ありません。
本記事は、月刊『ガバナンス』2023年9月号に掲載されたものです。記載されている内容は発刊当時の情報であり、現在の状況とは異なる可能性があります。あらかじめご了承ください。
ボランティアの活動状況
今年の大雨被害の後、多くのボランティアが被災地で活動している。8月5日時点で、秋田県秋田市、五城目町、富山県高岡市、小矢部市、石川県津幡町、島根県大田市、福岡県うきは市、久留米市、那珂川市、広川町、東峰村、佐賀県佐賀市、唐津市、熊本県益城町、山口県美祢市でボランティアセンターが開設されている。
ボランティアセンターが開設されたということは、その先にボランティアを必要とする被災者がいるということだ。
自宅が被災した場合は、自力救済が原則であるが、高齢者世帯などが水害後の泥出しや家財道具の搬出などを自力で行うことはできない。かといって、公的支援制度はない。そこをボランティアが補っており、被災者支援に不可欠な役割を担っている。
災害ボランティア活動とボランティアセンター
災害ボランティアが注目されたのは、1995年の阪神・淡路大震災である。1年間で137万人(兵庫県推計)ものボランティアが活動し、日本における「ボランティア元年」と言われるようになる。
2004年の中越地震以後、被災地の市区町村社会福祉協議会が中心となって災害ボランティアセンターを設置し、ボランティアのマッチングを行うのが一般的になっていく。2011年に発生した東日本大震災では、全国で196か所の災害ボランティアセンターが自治体の社会福祉協議会を中心として設置され、被災地支援活動が展開された。
災害ボランティアセンターの設置・運営の3原則は「被災者中心」「地元主体」「協働」である。生活支援という福祉の視点をもちながら、被災者に寄り添い、日々の困りごとの解決に、ボランティア・NPO、行政や関係機関・団体と協働しながら取り組むとしている。
もちろん、このようなボランティアセンター以外にも、団体、企業、個人が様々なボランティア活動を行ってきた。私たち(一社)福祉防災コミュニティ協会のような小さな団体も、熊本地震以降、主に企業の支援を得て福祉施設や避難所への物資支援や相談活動を行っている。被災地に行くと、ボランティアセンターを通さない支援活動が数多く行われている。このような、名もない無数のボランティア活動が、社会の底力と感じている。
アンダーマイニング効果
なぜ、私たちは災害ボランティア活動をするのだろうか。それは、一言でいえば「楽しい」からだ。被災地で「楽しい」とは不謹慎な言い方かもしれないが、災害で困っている人を支援させてもらえるのは、心の底から誇らしく思え、役立ったという充足感が得られる。よくテレビでボランティア活動をしている人が笑顔で話すシーンが出てくるが、その気持ちはよくわかる。
しかし、もしこれが有償の活動だったらどうだろうか。1970年代前半にアメリカの心理学者エドワード・L・デシらが行った研究によると、好奇心や関心など内発的意欲から行っていた行為に、金銭的報酬などで外発的に意欲づけると、内発的な行動意欲が下がる現象を見出した。この現象は「アンダーマイニング効果」と呼ばれる。人がいったん、報酬に関心を向けると、報酬を獲得するための最短のやり方を選ぶようになりがちだという。災害ボランティアはこの点、被災者からの金銭的報酬を期待することはできないので、かえって内発的な意欲が維持できる。
ボランティアの起源と発展
ボランティアは、人間社会が成立してからずっと行われてきたはずだが、その言葉が意識的に用いられたのは17世紀半ばのイギリスだ。清教徒革命時の混乱した社会にあって家族や仲間を守るために立ち上がった自警団に始まる。その後、フランス革命、アメリカ独立戦争への志願兵を指すようになる。
19世紀になると社会問題の解決に自主的に取り組む人々を指す言葉となり、特に19世紀後半、イギリスで労働者の貧困問題を解決するために知識人、学生らが自ら参加したセツルメント運動が始まる。貧困は個人の問題ではなく、社会の構造的な問題であるとの理解のもと、自ら貧しい労働者が住むスラム地区に住んで体験活動を行いながら、教育や地域改良に取り組んでいった。その情熱と行動が現代のボランティア活動の原点といわれる。すなわちボランティア活動とは単に自発的な無償の活動を指すのではなく、社会の課題解決に率先して取り組むという社会性を持ったものになる。この点で、かつて東京都立高校で必修とされた「奉仕」には自発性、社会性の観点からボランティア学習とは言い難いものがある。
無償性の意義
無償であることの意義は他にもいくつかある。たとえば友人関係を考えると、困ったときに助け合える、信頼して本音トークができる、ともに成長し合えるなどの特徴がある。しかし、これに金銭が介在すると、金銭目的で親切にしているのではないか、何か金銭的負担を求められるのではないか、など疑心暗鬼になるだろう。被災者と支援者の関係でも、一定程度の片づけが終わった後に、「〇〇円になります」などと金銭的要求をすれば、良好な信頼関係は崩れてしまう。つまり、金銭が介在しないことによって、私たちはより良好な人間関係を築きやすくなる。
また、無償で私欲のない行動は、強い発信力を持ちやすいという利点もある。他者や社会全体のために行っている行動と受け止めてもらえるからである。見返りを求めない姿勢は、難しい課題の解決策をまとめたり、妥協点を見出したり、多くの共感を広げたりする効果を生む。
ボランティア活動に関心のある方は7割を超えるのに、実際に活動する人は2割にも満たないのが現状だ。できるだけ多くの方に、災害ボランティア活動に参加頂き、充実感や達成感などボランティア活動の素晴らしさを感じて頂きたいと願っている。
【参考文献】早瀬昇、筒井のり子『ボランティアコーディネーション力 第2版:市民の社会参加を支えるチカラ』2017年4月、中央法規出版
Profile
跡見学園女子大学教授
鍵屋 一(かぎや・はじめ)
1956年秋田県男鹿市生まれ。早稲田大学法学部卒業後、東京・板橋区役所入区。法政大学大学院政治学専攻修士課程修了、京都大学博士(情報学)。防災課長、板橋福祉事務所長、福祉部長、危機管理担当部長、議会事務局長などを歴任し、2015年4月から現職。災害時要援護者の避難支援に関する検討会委員、(一社)福祉防災コミュニティ協会代表理事、(一社)防災教育普及協会理事なども務める。著書に『図解よくわかる自治体の地域防災・危機管理のしくみ』(学陽書房、19年6月改訂)など。