事例紹介▶ 千葉市(千葉県) 市民に時間を返す取り組み「あなたが使える制度お知らせサービス」
地方自治
2024.04.08
この資料は、地方公共団体情報システム機構発行「月刊J-LIS」2023年10月号に掲載された記事を使用しております。
なお、使用に当たっては、地方公共団体情報システム機構の承諾のもと使用しております。
事例紹介▶︎千葉市(千葉県) 市民に時間を返す取り組み「あなたが使える制度お知らせサービス」
(特集 こども子育てDX)
千葉市総務局情報経営部業務改革推進課課長補佐 山崎 直樹
1 はじめに
新型コロナウイルス感染症の拡大により、世の中の働き方や人とのかかわり方が大きく変わりました。千葉市では、人々の行動が制限される中でも社会経済活動を維持するための意思表明として、2020年3月に「ちばしチェンジ宣言!」を発出し、その一環として行政手続の原則オンライン化を目指すなどの取り組みを実施しています。
また、2022年3月には、本市における行政デジタル化の基本的な考え方や分野ごとの取り組み方針、推進体制等を示す「千葉市行政デジタル化推進指針」を策定し、その中で「あなたに寄り添うデジタル化」を掲げました。このキャッチフレーズを基に、デジタル技術を活用することにより「利用者の視点に立ち、個々のニーズを踏まえた行政サービスを提供する」ことを目指しています。今回ご紹介する「あなたが使える制度お知らせサービス」(以下「サービス」という。)もその一例であり、利用者の視点に立ち「市民に時間を返す」ことを目的としてサービスを提供しています。
2 導入経緯
(1)「市民に時間を返す」取り組み
市が取り扱う制度は多岐にわたっており、市民からすれば、自らがその制度の受給対象となっているかの判断が難しいという課題があります。市では各種制度について、ホームページ、市の広報紙、SNSやチラシの配布等により周知を行っていますが、それでも市民に対して十分に情報を届けることは難しく、市民が情報収集や電話等での問い合わせに時間を要しているという現状にありました。特に、子育て世帯の方は、日々の育児等が忙しく制度について調べる時間もないものと思われました。
そこで、「市民に時間を返す」取り組みとして、市民に関する世帯や所得等の情報をお預かりしている立場の市が、誰がどの制度の対象となるかを分析し、適切なタイミングで受給可能な制度をお知らせするサービスについて、その実現方法を検討することとしました。
(2)サービス実現方法の検討
サービスの実現方法を検討するために、2015 年度にSMS(ショートメッセージサービス)を使った通知テストを実施しました。2016 年度から2017 年度には国の実証事業へ参加し、2019年度には事前に世帯情報等を登録していただいた市民に対して、対象制度を抽出してメールで通知する実証を行いました。これらの実証を行った結果を基に、システム構成や通知方法の検討を行い、サービスの実現に向けた効果を確認しました。
(3)検討結果について
実証の結果に基づき、課ごとに管理されている世帯情報や所得等の情報を集約する仕組みを構築しました。この仕組みにより集約されたデータを分析し、受給対象者の抽出とメッセージ送信を容易に行うことが可能となります。
通知方法においては、平日におけるメールとソーシャルメディアの利用時間に大差がなく、休日はソーシャルメディアの方が長く使われていること、そしてソーシャルメディアの中でもLINEの利用率が高いという調査結果1)を基に、LINEを利用することとしました。
1)「 平成30年度情報通信メディアの利用時間と情報行動に関する調査報告書」(令和元年9月総務省情報通信政策研究所)
https://www.soumu.go.jp/menu_news/s-news/01iicp01_02000082.html
なお、通知対象制度の選定については、個別に通知することによって申請率(受給率)の向上など効果が見込める制度を中心に選定しました。例えば、乳児一般健康診査では、受診票(母子健康手帳別冊)を母子健康手帳交付時にお渡ししていますが、お子さんが受診できる時期まではある程度の期間が空くため、受診を忘れてしまう可能性があります。そこで、本サービスを使ってお知らせすることで、受診率の向上が見込めると考えました。
このような検討を経て、2021年1月から本サービスを開始いたしました。
3 サービスの概要・仕組み
(1)サービスの利用開始
ここからは、本サービスの仕組みについてご説明します(図-1)。
本サービスは、ちば電子申請サービス2)を用いて、原則オンラインでの利用申請を受け付けています。なお、転居等で住民異動届を提出される際は、本サービスについてのご案内をした上で、希望者に対し、窓口での利用申請を受け付けています。利用希望者は、千葉市公式LINEアカウントと友達登録をした上で、住所・氏名・生年月日等の必要事項を入力し、利用申請を行います(手順①)。
2) 行政手続等をオンラインで行うことができるサービス。千葉県及び千葉県内の一部市町でシステムを共同利用している。
その後、職員が、申請内容と市が保有している住民情報が一致しているかを確認し、申請内容に不備がなければ、利用希望者が住民登録している住所宛に「登録番号」を記載したはがき(転送不要)を郵送します(手順②)。
登録番号とは、本サービスでのみ使用する、市民ごとに附番される番号のことで、インターネット環境にあるLINE でメッセージ送信をするために用います。登録番号で利用者の情報を管理することにより、住民情報を外部に持ち出すことなく、メッセージを送信することができる仕組みとなっています。この登録番号を受け取った利用希望者が本サービスの利用画面(千葉市公式LINE よりアクセス)にて登録番号を入力することで本人確認としています(手順③)。
(2)メッセージの送信
次に、メッセージの送信方法についてご紹介します。本サービスでは、各制度の対象となる市民の情報(千葉市が保有する住民基本台帳、住民税、手当の受給状況など)を住民情報系システムから抽出し、解析サーバーにて管理しています(手順④)。
職員は、システム画面にてメッセージを送信する制度の条件を設定し、解析サーバーから対象となる住民を抽出します(手順⑤、⑥)。
メッセージは、各制度を所管する課の職員が作成し、即時又は送信時刻を予約して送信します(手順⑦)。また、本サービスは利用者全体へメッセージ送信をすることも可能で、アンケート調査の案内などにも活用しています。
(3)個人情報の取扱い、税情報の利用の同意
本サービスにおいて職員が住民情報を閲覧することは、住民基本台帳法第1条に基づく住民に関する事務であると整理しており、メッセージ送信の対象者を抽出するために住民情報を使用することは、個人情報の保護に関する法律第69条の目的の範囲内であるとしています。
また、一部の制度においては、本サービスの利用画面にて利用者より税情報利用の同意を得た上で、メッセージを送信しています。
送信されたメッセージは千葉市公式LINE を通じて利用者に届けられます(手順⑧)。メッセージには本サービスからの通知であること、制度名、制度の内容、問い合わせ先や関連リンクなどを記載しています(図-2)。
4 今後の展望
(1)これまでの実績、評価
本サービスは運用を開始してから約2年6ヵ月が経過し、これまでの送信メッセージは合計212 件(3万6,493人へ送信)、利用申請者数は約1万800人となっています3)。
3) いずれも2023年7月末現在。
市民からは、「通知が届いたことにより、予防接種や健康診断などの予約手続きがスムーズに行えた」「個人に合わせた情報がLINEで届くため、大変助かっている」といった声をいただいています。
また、職員からは、メッセージ送信をした直後から問い合わせ件数・申請件数が増加したという報告を受けております。これは、市民が自ら郵便やホームページ等で情報収集するよりも早く必要な情報を提供できていることや、今まで各制度に対して興味を持っていなかった市民に対してのアプローチとしても有効であると推察しています。
(2)利用者の拡大
本サービスが幅広い世代で活用されるためには、通知の対象となる制度を増やすことが必要だと考えています。例えば、本サービスの特色である、住民情報を解析して個別に通知するという機能を生かして、「対象者の絞り込み」が可能なイベントや給付金に関する情報を通知することなどについて検討していきます。
また、多くの市民に本サービスを知ってもらうため、広報活動を積極的に行っています。今年度は、従来のチラシの配架や各公共施設での動画配信のほか、地方公共団体関連の展示会での講演を行うなど、媒体を問わず情報発信を行うことに努めています。
(3)新たな機能の構築
本サービスの機能面での課題は、以下2点であると認識しています。
① 各制度の通知を受け取るサービスであって、別途申請手続きを行わなければならない ②サービスを利用するにはLINE のアカウントが必要である
これらの課題については、それぞれ以下の方針での対応を検討しています。
①マイナンバーカード等の活用も見据えながら、制度を通知するだけにとどまらず、通知後の相談、申請、給付までワンストップで行えるようにするなど、サービスの高度化に向けた対応 ②2022 年4月に行った市民へのアンケート調査において、多くの方が電子メールでの通知を希望されているという結果を受け、2023 年度中にメールでのメッセージ送信機能を構築
②のメールでのメッセージ送信機能の構築については、LINEに何らかの障害が発生し、サービスの継続が困難になった場合のリスク回避策にもつながると考えています。
5 おわりに
本サービスの名称については、千葉市公式Twitter(現X)で公募を行いました。多くの応募をいただき、「自分にぴったりな制度のお知らせを受け取れる」というメリットをわかりやすく伝える名前にしたいという思いから、いくつかの名称案を組み合わせて、決定しました。さらに、本サービスにより親しんでいただけるよう「For You」(Friendly Online Reminder service of Your Own Useful information / あなたに有益な情報をお届けする、寄り添ったオンラインのリマインドサービス)という略称も作成しました。
現在も登録者は着実に増加しています。より多くの、特にこども子育て世帯の市民に本サービスを利用していただけるよう、機能面では「通知対象制度の拡充」「通知後手続のワンストップ化」「受信方法の拡充」、また、本サービスの存在を知ってもらうための広報活動等を積極的に行っていきます。
Profile
山崎直樹 やまざき・なおき
民間企業へ就職した後、2008 年に入庁。情報システム課、給与課、介護保険管理課を経て、業務改革推進課へ配属。2020 年に「あなたが使える制度お知らせサービス」の導入を担当。