政策トレンドをよむ 第12回 自治体×インパクトスタートアップの協働・連携が域内活性と社会課題解決の起爆剤に
地方自治
2024.04.05
目次
※2024年2月時点の内容です。
政策トレンドをよむ 第12回
自治体×インパクトスタートアップの協働・連携が域内活性と社会課題解決の起爆剤に
EY新日本有限責任監査法人 CCaSS事業部
プリンシパル
中務 貴之
(『月刊 地方財務』2024年3月号)
社会的課題を成長のエンジンに転換して持続可能な経済社会を実現する担い手となるキープレイヤーがスタートアップである。2022年11月に策定された「スタートアップ育成5か年計画」では、スタートアップへの投資額を2027年度に10兆円規模(現在の約10倍)にするという目標が掲げられた。さらに翌年6月には、「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画2023改訂版」において、インパクトスタートアップ(社会的起業家)に対する総合的な支援策が記載された。環境問題や子育て問題等の社会的な課題解決や、さらに広く社会の役に立ちたいと考えて起業する起業家が多いことも鑑みると、都心だけでなくそれぞれの地域の実情に合わせて、実証含めた活動を通し地域課題の解決や地域活性に繋げていくための取組は非常に有効である。最近では、このようなスタートアップの誘致や連携を通じて、社会課題解決や地域活性化を目指す自治体も増えている。
既に福岡市や仙台市をはじめとしてスタートアップ・エコシステム構築に取り組んでいる先進自治体もあるが、自治体とスタートアップの協業・連携が発展していくにはまだ課題も多い。
昨年11月に金融庁にてインパクトコンソーシアムが設立され、その発起会合が行われた。インパクト(環境・社会的効果)実現を図る多様な取組を支援し、インパクトの創出を図る投融資を有力な投資手法・市場として確立していく観点から、幅広い関係者が協働・対話を行う場として設立されたものである。その分科会の1つとして、「官民連携促進」をテーマとした分科会があり、まさにこの分科会において自治体とスタートアップの協業・連携発展について、協働・対話しながら、課題の洗い出し、解決に向けた取組、さらには実際の協働が進んでいくことになろう。
自治体とスタートアップの協業・連携の課題について、各所で指摘されているところではあるが、以下筆者なりに簡単に整理する。
■解決したい社会課題に適したサービス・ソリューションの不足やマッチング機会の欠如
・自治体の抱える課題は多様であることから、サービス提供者のソリューションが単独ではマッチしないこともあり、組み合わせが必要なケースも多いが、担い手となりうる民間事業者(インパクトスタートアップ、NPO、公益法人、大企業の社会課題関連部門など)の数・規模が不足している
・需要(自治体)と供給(民間事業者)の出会う場がない(多様化する社会課題に対し、それぞれに解決策を持つ民間事業者がどこにいるかが可視化されていない)
・社会課題解決にスタートアップ企業のノウハウを活用したいと考える自治体は多いとみられるが、そのようなスタートアップ企業を容易に特定できないことやその逆(このような自治体をスタートアップ企業が特定することが困難)
■スタートアップの規模・性質に起因するもの
・スタートアップの人材・資金といったリソースの制約により、ニーズのある自治体に広く対応していくことが困難であることや、自治体とのマッチングから事業実現までの期間の長さなどが原因となりスタートアップに負担となる
■入札制度等現行制度における課題
・既存の制度では、従来型の製品やサービスを前提としたものもあり、新しい製品やサービスの参入が難しい側面がある
・現行の入札においては、組織規模の要件や過去の実績等が求められることも多く、スタートアップ企業の新規参入が難しいことや、仕様書等で実施事項が細かく規定されるケースもあり、創意工夫が難しいといったこともある
■事業や成果における評価の困難さ
・民間事業者同士の事業の「質」を評価する指標が確立しておらず、事業者側も開示していない
このように大小様々な課題はあるものの、自治体にとっては、スタートアップとの協働や連携によって、地域の活性化や行政サービスの改善、住民の満足度向上といった効果をもたらす可能性がある。また、管内のスタートアップが成長し、規模が拡大していけば雇用の増加も見込める。さらに、インパクトスタートアップは資金面での支援だけでなく、自治体との協働や連携によって、社会的信用力の向上にも繋がることから、将来的な成長をしていくうえで重要なことといえる。
既に色々と取組をはじめている自治体と、スタートアップの協働や連携に関する事例紹介や、協働や連携を進めるにあたっての困難さ、課題、またそれを乗り越える上でのポイント等について自治体関係者とスタートアップ双方の目線からそれぞれ紹介するようなセミナーも開催されるなどしている。
前述した課題(他にも多くあると思われるが)を皆で乗り越えていくために同じ目線・目的を持った対話が必要であり、そうした動きは各所でみられていると感じる。このような動きが我が国全体に広がっていき、どこの地域でも当たり前のようにスタートアップと協働・連携していけるようになることを期待する。
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