議会局「軍師」論のススメ

清水 克士

議会局「軍師」論のススメ 第94回 なぜ「会議規則」が法を超越するのか?

地方自治

2024.09.12

本記事は、月刊『ガバナンス』2024年1月号に掲載されたものです。記載されている内容は発刊当時の情報であり、現在の状況とは異なる可能性があります。あらかじめご了承ください。

 

 昨年9月、大森彌・東京大学名誉教授が逝去された。言うまでもなく、先生は行政学、地方自治論の大家であり、大津市議会に招聘したご縁で、個人的にもご指導いただいた。

 今号では、特に先生の著書(注1)でも評価された大津市議会の「会議規則の条例化」について述べたい。ただ、紙幅の制限上、条例化の目的全般については別稿(注2)に譲り、本稿では規則による住民の権利義務規制の是非に論点を絞る。

注1 大森彌『自治体議員入門』(第一法規)147頁
注2 清水克士『「市民に開かれた議会」を目指して〜議会運営ルールの「見える化」という論点から〜』(議員NAVI Vol.48、 第一法規)

■議会例規改革の概要

 大津市議会では2014年2月に、「地方自治法(以下「法」)120条に規定する会議規則の内容を条例において定める」と目的規定に定めて「会議規則」を廃し、本会議に関することを中心に住民の権利義務に関する重要事項は「会議条例」、委員会に関する重要事項は「委員会条例」、それぞれの下位規定としての「会議規程」と「委員会規程」に再編した。法130条に規定する「傍聴規則」も、本会議の傍聴に関する「傍聴条例」と「委員会等傍聴条例」に再編し条例化した。

■会議規則の自治法上の課題

 法14条2項では「普通地方公共団体は、義務を課し、又は権利を制限するには、法令に特別の定めがある場合を除くほか、条例によらなければならない」と定めている。規則は外部からの制定・改廃を認めない法形式であるが、条例は首長以外にも住民に制定・改廃の直接請求権が認められており、住民の権利保全を制度的に担保している。

 ところが、大半の自治体議会では、標準会議規則に準拠し、憲法16条を根拠とする「請願」に関する要件事項について会議規則で規定するとともに、傍聴時のルールについても、住民に対して拘束力を及ぼす事項を含めて「傍聴規則」として定めている。だが法的には、最低限、住民の権利義務に関することは、会議規則や傍聴規則から分離し、条例化することが必要ではないか。

 規則を中心とする例規構成は、外部からの干渉を排除し、改正権限を議会に専属させる「議会の自律権」を根拠とする論もある。だが、法90・91条では議会の根幹的事項である議員定数さえ条例で定めることとされ、二元的代表制の下で独立・対等関係にある首長からの提案権も認められている。そのような現状に鑑みると、その他の事項をあえて規則に定め、「議会の自律権」によって外部からの干渉を排除する実利や必要性が、どれほどあるのか疑問を感じる。

 いずれにしても議会内部の利益と市民利益の競合による比較衡量では、市民利益を優先すべきであることは明らかであろう。

■地方分権改革と議会改革

 議会例規がこのような矛盾を内包するのは、議会が地方分権改革と主体的に関わってこなかったことにもよるだろう。地方分権改革によって議会の関与を排除する機関委任事務が廃止され、規則による権利義務規制も廃止されたにもかかわらず、議会では抜本的な見直しを行わなかったことが一因になっている。その意味からは、現在の議会改革の潮流は、遅れて始まった議会の地方分権改革ともいえるだろう。

 大森先生は、一貫して大津市議会の議会例規改革を好意的に評価された、数少ない有識者の一人であった。そのような個人的背景もあり、まだ、心の拠りどころを失った悲しみは癒えないが、先生のご冥福を心よりお祈り申し上げたい。

第95回 『議長選挙が「談合」 でいいのか?』 は2024年10月10日(木)公開予定です。

 

 

Profile
早稲田大学マニフェスト研究所招聘研究員・前大津市議会局長
清水 克士 しみず・かつし
 1963年生まれ。同志社大学法学部卒業後、85年大津市役所入庁。企業局総務課総務係長、産業政策課副参事、議会総務課長、次長、局長などを歴任し、20233月に定年退職。著書に『議会事務局のシゴト』(ぎょうせい)。

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清水 克士

大津市議会局長・早稲田大学マニフェスト研究所招聘研究員

しみず・かつし 1963年生まれ。同志社大学法学部卒業後、85年大津市役所入庁。企業局総務課総務係長、産業政策課副参事、議会総務課長、次長などを経て2020年4月から現職。著書に『議会事務局のシゴト』(ぎょうせい)。

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