政策トレンドをよむ 第8回 ロジック・モデルを用いた教育事業の評価
地方自治
2023.12.08
目次
※2023年10月時点の内容です。
政策トレンドをよむ 第8回 ロジック・モデルを用いた教育事業の評価
EY新日本有限責任監査法人 CCaSS事業部
岡本 祥平
(『月刊 地方財務』2023年11月号)
前号では、PFSの基本的な考え方及び事業計画の骨格となりうるロジック・モデルの考え方等を紹介した。本稿では、より具体的な例として、前号で言及した岐阜県の教育系ベンチャー企業である株式会社Edo(注)の事業成果測定支援業務で作成したロジック・モデルの内容や作成の背景、作成手順や活用のメリット等について紹介する。
Edoは、岐阜県飛騨市を拠点に「教育や学びを通じて持続可能な社会をつくる」をミッションに掲げて活動する教育事業会社である。同社では、本稿で紹介する「EdoNewSchool」の他にも、飛騨市教育委員会が取り組む飛騨市の教育魅力化プロジェクト「飛騨市学園構想」のプロジェクトマネージメント業務や、「SDGsを活用した課題解決ワークショップ」を企業や行政向けに開発・提供している。
EdoNewSchoolは中高生を対象とした探究特化型のスクールであり、「『やってみたい』を見つけ『やれる!』と思える自分になる」をテーマに、Edoが培ってきた知見や地域資源をフル活用し、体験型・通塾型の様々なプログラムや地域内外と連携した伴走体制を提供している。なお、同事業は、「飛騨市ふるさと納税活用ソーシャルビジネス支援事業」で寄付された寄付金を原資として実施されている。
Edoでは、事業の見直しや、行政の教育予算拡充、民間投資を呼び込むために、教育効果の可視化を行い、ステークホルダーの方々の理解を一層深める必要性を感じていた。このような背景を踏まえて、弊チームによる支援のもと、ロジック・モデルを導入し、EdoNewSchoolにおける成果への道筋や成果の可視化に取り組むこととなった。ロジック・モデルを通して、事業の成果への道筋や成果が可視化されることで、事業の目的に対して事業が適切に進んでいるかを評価したり、資金提供者である飛騨市を含むステークホルダーへの説明責任を果たしたりすることができる。また、将来的に民間投資を呼び込む際にも、事業に関する理解を促すためのコミュニケーションツールとして使用することができる。
続いて、昨年度の事業成果測定支援業務で作成したロジック・モデルの内容や作成手順、その活用方法等について紹介する。図表は、昨年度事業において、EdoNewSchoolおよび同事業に関連する「伴走者育成プログラム」に関して作成したロジック・モデルである。
前号では、ロジック・モデルのフレームとして、インプット(資金、人員、場所・施設等、事業の実施に必要な投入物)、アクティビティ(事業者が実際に従事する具体的業務)、アウトプット(事業者の活動により生み出されるサービス等の結果)、アウトカム(アウトプットにより生み出される社会的・環境的な価値)の順で紹介した。ロジック・モデル作成の際には、インプットからアウトカムに向けて作成する方法と、アウトカムから逆算する形で作成する方法がある。EdoNewSchoolでは、長期的に達成したいアウトカムは明確になっていたが、そこに至るまでの経路が明確になっていなかったため、アウトカムを時系列順に初期・中期・長期に分け、また、アウトカムより長期的かつ広範囲に達成したい変化・効果であるインパクトに至るまでの経路を明確にすることを目指した。
これにより、長期アウトカムが明確になり、そこに至るまでの中期アウトカムとして、同事業において向上を目指す児童の資質・能力が言語化され、より明確になった。
ロジック・モデルは事業評価のみならず、資金提供者を含むステークホルダーとのコミュニケーションツールとしての役割も有している。Edoにおいても、ステークホルダーとロジック・モデルを示しながら双方向の意見交換を行ったり、事業報告の場において、地元企業に対してロジック・モデルを示して事業の説明を行ったりしている。このように、ロジック・モデルを活用した意見交換を行うことで、地域に根差した社会課題の解決に取り組む企業への理解促進や、自治体と地元企業が取り組んだ事業の成果を可視化することが可能になる。地域課題の解決に向けた自治体と地元企業の連携に向けて、将来的にこうした取組がより重要になるなかで、より一層のロジック・モデルの活用が求められる。
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