連載 コミットメント ── 他責から自責文化の自治体職員 第16回 市民の信頼を得る【鳥羽嘉彦(長野・塩尻市職員)】
地方自治
2022.04.22
本記事は、月刊『ガバナンス』2017年9月号に掲載されたものです。記載されている内容は発刊当時の情報であり、現在の状況とは異なる可能性があります。あらかじめご了承ください。
所属等は執筆(掲載)時点のものです。
※本コラムは主に早稲田大学マニフェスト研究所人材マネジメント部会の修了生(マネ友)のメンバーがリレー形式で執筆します。
市民から貰う『ありがとう』の言葉が私たちの勲章
「市民から貰う『ありがとう』の言葉が私たちの勲章」
4年前、私が人事課長だった時、人材マネジメント部会に参加し、その時の市長への提言により誕生した塩尻市の経営理念である。
市役所には毎日いろいろな市民が訪れる。手続き、相談、苦情、要望など目的は様々であるが、通常はスムーズに要件が満たされれば、多くの場合、納得して帰っていく。マニュアルに基づいた対応としてはそれが模範的と言える。しかし職員に感謝してまで帰っていくケースはほとんどない。市民にとっては、やってもらうことが当然であり、感謝の対象としてまでは捉えていない。
市の施策指標のひとつに「職員の対応に好感を持つ市民の割合」というものがある。「窓口対応への満足度」ということであれば、接遇研修等の充実により確かに数値は上がるが、職員の対応に関する好感度は、職員個人の問題解決能力なども関係するため、努力だけではなかなか数値に反映しない。
「ありがとう」という言葉は、「想いのキャッチボールから生まれるもの」だと言われたことがあり、日頃、市民への対応の中で試みている。決してマニュアルどおりにはいかないが、相手が何故わざわざ来庁したのか、立ち位置を変えることによりその真意をつかむことができれば、案外スムーズな展開が得られることが多い。多様な価値観を持つ市民が相手であるため、会話の中に「自分自身」が存在していなければ誠意は伝わらない。加えて多少の知恵を活かしたプラスアルファのサービスを駆使することにより、信頼関係が生まれてくる。
冒頭の経営理念の後段には、「1年間に貰う勲章の数が成功体験であり、自らの人生を豊かにしてくれる」とある。市民から貰う感謝は、市役所職員それぞれの「生きがい」になっていくことだろう。
市長がよく引用する、「市の職員には、市民を幸せにする義務がある」という言葉は、地方創生にのぞむ私たちへの自戒となっている。
(長野・塩尻市職員/鳥羽嘉彦)