自治体の防災マネジメント

鍵屋 一

自治体の防災マネジメント[88]令和5年梅雨前線による大雨及び台風第2号災害

地方自治

2024.03.13

※写真はイメージであり、実際の土地とは関係ありません。
本記事は、月刊『ガバナンス』2023年7月号に掲載されたものです。記載されている内容は発刊当時の情報であり、現在の状況とは異なる可能性があります。あらかじめご了承ください。

水害被災地の現状

 令和5年台風第2号が梅雨前線に湿った空気を大量に送り込むことにより6月3日、4日に四国、近畿、中部地方を中心に線状降水帯が発生し、大雨をもたらした。被災された皆様に、心からお見舞いを申し上げます。

 住宅地で床上床下浸水、川の氾濫、道路の冠水、土砂崩れなど広範囲に多くの被害が出てしまった。土砂崩れで道路が使えなくなった場合、集落の孤立化を招いたり、避難支援が滞るために最優先で土砂の撤去作業を行う。しかし、土中に雨の量が多い時に強い雨が降ったり、その雨が収まった後でも土砂災害が発生する可能性がある。復旧活動をされている方々も発注者も、くれぐれも慎重に安全第一で作業をされるようお願いしたい。

 床上床下浸水の被害に遭われた方々は呆然とされるだろう。そして、できるだけ急いで片付けようと考えるかもしれない。しかし、心身が疲れているときに、泥出しや家具の処理など辛い作業をすると、ますます疲れがひどくなる。こういうとき、支援者が「片付けは少し落ち着いてからで大丈夫です。近所の方と話をされながら、ゆっくりと進めましょう。急いでやるべきことは、家の四方から被害の写真を撮り、証拠を記録することですよ」などと伝えることが大事だ。

 また、自宅の片づけは原則として自助で行う必要があるが、高齢者の一人暮らしではとても大変だ。一方で、高齢者は、人に迷惑をかけたくないと、支援を求めない傾向がある。そこで自治会、民生委員、社会福祉協議会、地域包括支援センター、福祉事業者などが、安否確認を兼ねて訪問し、「ボランティアが駆けつけてくれますので、遠慮なく支援をお願いしてください」と話していただきたい。

メディアの役割

 以前は、水害で死者、行方不明者が出ると、自治体の避難指示等の発令タイミングが適切だったかどうかをメディアが取り上げることが多かった。たしかに制度上は自治体の首長が避難指示の発令権者であるが、実際には専門家でもなんでもない。補佐する防災危機管理部署の職員もほとんどローテーション勤務で、やはり専門家ではない。このため、タイミングを外すこともよくあったが、近年は地方気象台や国交省河川事務所など専門機関が積極的に自治体と連携するため、警報発令タイミングの問題は少なくなっている。

 私は、いつもメディアの方々には被災者、被災自治体支援の観点からの報道をお願いしている。災害直後は、自治体は事前の対策がどうだったかなど検証している場合ではない。二次被害を防ぎ、被災者への適切な支援、復旧活動を早期に実施するため、全力を尽くさなければならないからだ。

 万一、メディアが自治体の適切でない事例をあげつらえば、自治体と住民の信頼関係が弱くなってしまうだろう。それは、住民の協力が得にくくなり、復旧復興の遅れに直結しかねない。検証は、ある程度災害対応が落ち着いた段階で、しっかりと行えばよいのだ。

要配慮者への支援

 ある水害の被災地で、床上浸水なのに、高齢者が床にビニールシートを敷いて、わずかなスペースに布団を敷いて暮らしているという話を聞いたことがある。水害でも高齢者を中心に関連死が出るほど過酷な生活を自宅で過ごしているかもしれない。

 そこで、自治体、福祉関係者、自治会、民生委員等の支援者の方には、在宅高齢者、障がい者等の早期見守りと支援活動に取り組んでいただきたい。災害直後から、高齢者、障がい者等の見守り支援により災害関連死の防止に努めるのが最も重要な応急対策だ。

 また、居宅支援の福祉関係者は高齢者等の体調の変化を気遣い、支援物資などを届けながら、具合が悪そうならすぐに保健師などに連絡をお願いしてほしい。落ち着いたら、生活支援や再建に関する重要情報を在宅避難者らに伝えることが重要になってくる。

被災後の生活再建のチラシと冊子

 災害に遭わないように避難を推奨するニュースはたくさんあるが、被災してしまった場合の対策はほとんど知られていない。そこで、「震災がつなぐ全国ネットワーク(震つな)」作成「水害にあったときに〜浸水被害からの生活再建の手引き〜」を紹介したい。

 これは、日常生活を取り戻そうと考え始めたときに有効なチラシ、冊子だ。私も監修で多少お手伝いさせていただいた。イラストが多く、保険の請求、浸水した家屋の泥出し・乾燥などのポイントがとても分かりやすい。

「水害にあったときに〜浸水被害からの生活再建の手引き〜」チラシ版

(出典)震災がつなぐ全国ネットワークHP

○チラシ版(A4判4頁)
 水害被害にあった際の必要最低限の情報を掲載している。まずはこれを印刷して配布をお願いしたい。

○冊子版(A5判32頁)
 冊子版では、写真やイラストを用いて、①まずは落ち着いて(ある程度の期間がかかるので慌てずに)②必要な手続き(役所や保険会社、税務署など手続きもいろいろ)③家屋のかたづけと掃除(何をどうすればいいのか写真とイラストで解説)④水害からの生活再建「私の場合」(被災者の生の声を掲載)、という構成で、水害にあった際の対応について情報を掲載している(注1)。

 上記のいずれも、「震災がつなぐ全国ネットワーク(震つな)」ページからダウンロードできるので、活用いただきたい(注2)。

注1  冊子・チラシを補完する「水害後の家屋への適切な対応」(A4判4頁)もある。これまでの冊子・チラシを補完するため、より具体的な水害後の家屋への適切な対応が書かれている。直後の応急対応にはとても役立つものだ。

注2 震災がつなぐ全国ネットワーク(震つな)ホームページ https://shintsuna.org/tools/
    震災がつなぐ全国ネットワーク(震つな)ブログ https://blog.canpan.info/shintsuna/archive/1420

 

 

Profile
跡見学園女子大学教授
鍵屋 一(かぎや・はじめ)
1956年秋田県男鹿市生まれ。早稲田大学法学部卒業後、東京・板橋区役所入区。法政大学大学院政治学専攻修士課程修了、京都大学博士(情報学)。防災課長、板橋福祉事務所長、福祉部長、危機管理担当部長、議会事務局長などを歴任し、2015年4月から現職。災害時要援護者の避難支援に関する検討会委員、(一社)福祉防災コミュニティ協会代表理事、(一社)防災教育普及協会理事なども務める。著書に『図解よくわかる自治体の地域防災・危機管理のしくみ』(学陽書房、19年6月改訂)など。

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鍵屋 一

跡見学園女子大学教授

(かぎや・はじめ) 1956年秋田県男鹿市生まれ。早稲田大学法学部卒業後、東京・板橋区役所入区。法政大学大学院政治学専攻修士課程修了、京都大学博士(情報学)。防災課長、板橋福祉事務所長、福祉部長、危機管理担当部長、議会事務局長などを歴任し、2015年4月から現職。避難所役割検討委員会(座長)、(一社)福祉防災コミュニティ協会代表理事、(一社)防災教育普及協会理事 なども務める。 著書に『図解よくわかる自治体の地域防災・危機管理のしくみ』 (学陽書房、19年6月改訂)など。

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