議会局「軍師」論のススメ
議会局「軍師」論のススメ 第83回 議会局による「補佐の射程」はどこまでか?
地方自治
2023.10.19
本記事は、月刊『ガバナンス』2023年2月号に掲載されたものです。記載されている内容は発刊当時の情報であり、現在の状況とは異なる可能性があります。あらかじめご了承ください。
先月、廣瀬克哉・法政大学総長と土山希美枝・法政大学法学部教授が主宰する現代法研究所プロジェクトに招聘された。主題は「議会改革における議会事務局の機能」で、研究会における発表も含め、今号では標題に関する私見を述べたい。
■議会(事務)局の多様性
最初に、私が知る他の議会(事務)局(以下「局」)における、様々な実態について、自治体規模、議員気質、議長任命権の実質性、局職員気質などの要件別に具体例を話した。
ある離島の局長からは、「局職員は総勢2名だが十分」と言われ、「大津市議会局は何故そんなに忙しいのか」と不思議がられたことがある。最初に定例的な議事運営だけが守備範囲と思い込むと、政策立案の補佐などは担うべき仕事とは認識され得ないのである。
その意味で、議会の政策立案機能に、局としてコミットする共通理解の有無が、「補佐の射程」を決める一つの要件といえるだろう。
■「政治的中立性」の曖昧さ
二つ目の要件は、議会の政策立案に関与する際に、しばしば課題とされる局職員の「政治的中立性」の解釈である。それは、局職員の議会、議員に対するスタンス、内面的な距離感覚にも大きな影響を与えるからである。
局職員の中立性に関する比較対象としては、地方公務員の範疇では執行部職員との比較、他には国会における議院法制局も比較対象とされ論じられてきた。
だが、後者の比較論はともに合議制機関における補佐組織という共通項はあるものの、そもそも国は議院内閣制、自治体は二元的代表制と、前提となる制度が根本的に異なる。また、国会運営に地方議会が準拠しなければならない法的根拠もないことに鑑みると、比較対象としての妥当性に疑問が残る。
しかし、公務の「政治的中立性」に関しての司法判断も乏しいが、国と地方、政と官、それぞれの相場観に大きな違いがあることは事実である。そして、それこそが議論がかみ合わない原因でもあるため、今回は国の機関も含めて考察することにした。
■「補佐の射程」を定めるために
考察に際しては嶋田博子・京都大学大学院公共政策連携研究部教授の論文(注)を参考に、国の省庁職員、議院法制局職員、自治体の執行部職員、局職員の立場の相関関係を整理した。区分は自律性と政策関与度を軸に分類された、「A超然性」「B政治的影響の遮断」「C政権への誠実」「D従属性」「E逃避性」の『5つの「中立性」の含意』に拠った。
(注)『公務の「中立性」はどう理解されてきたか』(立命館大学政策科学24 2017年3月4日)
ここで詳細を述べる余裕はないが、政策立案にコミットするという意味での議会局職員、執行部職員、国の省庁職員はC、国の議院法制局職員はD、政策立案に関与しない議会事務局職員はEに分類した。そのうえで各々が抱く主観的な中立性を前提としたイメージ的議論ではなく、中立性を具体的に定義するための法的議論や、議会職員と行政職員が想定する中立レベルを均一化させることが必要と結論付けた。
もちろん、課題の源流には、我が国の公務員法制が、旧憲法下ではドイツ型官吏制を採用しながら、戦後はアメリカ型の政官分離の建前を導入した歴史的経緯によって生じた混乱があり、一朝一夕には解決できないだろうが、局による「補佐の射程」を確定するためには、避けられない議論だと考えている。
*文中、意見にわたる部分は私見である。
第84回 「チーム議会」の広がりに必要なものは何か? は2023年11月9日(木)公開予定です。
Profile
早稲田大学マニフェスト研究所招聘研究員・前大津市議会局長
清水 克士 しみず・かつし
1963年生まれ。同志社大学法学部卒業後、85年大津市役所入庁。企業局総務課総務係長、産業政策課副参事、議会総務課長、次長、局長などを歴任し、2023年3月に定年退職。著書に『議会事務局のシゴト』(ぎょうせい)。