デジタル改革関連法 自治体との関わり
地方自治
2021.09.09
この資料は、地方公共団体情報システム機構発行「月刊J-LIS」2021年7月号に掲載された記事を使用しております。
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デジタル改革関連法 自治体との関わり
(よく分かる情報化解説 第76回)
元横須賀市副市長 HIRO研究所 廣川 聡美
学ぶべきPOINT
新たに成立したデジタル改革関連6法について、自治体との関わりをふまえて考えてみましょう。
1 はじめに
去る5月12日、デジタル改革関連6法が可決・成立しました。本稿においては、これら6本の法律を概観するとともに、自治体との関わり、課題、今後の対応等について考察します。
2 法律の概要
■デジタル社会形成基本法
本法は、名前のとおり、デジタル社会の形成に関し、基本理念や基本方針、国・自治体及び事業者の責務等について定めた「基本法」です。法の目的は、経済の持続的かつ健全な発展と国民の幸福な生活の実現に寄与すること。目標とする「デジタル社会」とは、インターネットなどの高度情報通信ネットワークを通じて、多様な情報や知識を入手、共有、発信、活用することにより、あらゆる分野における創造的かつ活力ある発展が可能となる社会と定義されています。
施策の策定に係る基本方針(第4章)については、情報交換システムの整備やデータの標準化、外部連携機能の整備等により、多様な主体による情報の円滑な流通を確保すること(第22 条)、アクセシビリティの確保(第23条)、教育及び学習の振興(第24条)、人材の育成(第25条)、規制の見直し等による経済活動の促進等(第26条)が規定されています。自治体行政に関わりの大きい部分としては、行政の情報システムの共同化・集約(第29条)、マイナンバーの利用範囲の拡大、オープンデータの推進(第30条)、公的基礎情報データベースの整備(第31条)、サービスの多様化及び質の向上(第32条)等が挙げられます。
なお、公的基礎情報データベースとは、国や自治体が保有する情報のうち社会生活や事業活動に伴い必要とされる手続きの処理の基礎となる情報を、適切な制御のもとで検索できるようにするためのデータベースで、詳細は今後示されます。
■デジタル庁設置法
これらの事務を迅速かつ重点的に遂行するためにデジタル庁を設置することが上記基本法第36条で定められ、本法で詳細が規定されました。デジタル庁が所掌する事務は、デジタル社会形成のための基本的方針に関する企画立案及び総合調整に加えて、自治体に関わる部分では、マイナンバー制度に関する企画・運用、公的個人認証、データ標準化、自治体等が整備する情報システム整備・管理に関する基本方針の作成等に加えて、前述の公的基礎情報データベースに関する政策の企画立案等が対象となります。国の各省庁が整備する情報システムについての予算計上、管理等も行うこととされました。
昨年策定されたIT新戦略の検討過程の中で明らかになった「縦割り」等の課題を克服するための組織です。このような役割を持った組織を設置する自治体は増えています。DX推進課などの名称で、DX政策の立案、調整、気運醸成などがミッションです。既存の情報システム部門の職員に、企画や行革等の経験者を加え、新組織として立ち上げると良いと思います。
■デジタル社会の形成を図るための関係法律の整備に関する法律
本法は、基本法に基づき、デジタル社会形成のために、関係する法律の条文を一括して改正するための法律で、自治体に大きく関わるのは、次の4点です。
1点目は、個人情報保護制度の見直しです。その1つは、個人情報保護法、行政機関個人情報保護法、独立行政法人等個人情報保護法の3本の法律を1本の法律に統合したことです。もう1つは、自治体の個人情報保護制度について、個人情報保護法に一本化したことです。自治体の個人情報保護(条例制定)の取り組みは国よりも早かった歴史的経緯があり、これまで自治体ごとに条例で規定してきましたが、条例ですので自治体ごとに微妙な違いがありました。データの利活用や連携の視点から、自治体によってルールが異なるのは好ましいとは言えず、共通化を図るため、個人情報の適正な保護とデータ流通の両立を図るための改正です。なお、制度全体の所管は、個人情報保護委員会に一元化されます(自治体関係の施行日は公布日から2年以内)。
2点目は、マイナンバーの利用範囲の拡大等で、医師等の国家資格等関係事務を個人番号利用事務に加えることなどです。
3点目は、マイナンバーカードに関することです。スマホに電子証明書の登載を可能とし、スマホだけで手続きを行うことが可能となります。また、マイナポータルで転出届、転入予約を行うことで、手続きの時間短縮とワンストップ化を図ることも可能となります。
4点目は、押印の見直しと、書面による手続きの見直しです。押印については、戸籍法(第29条等)における届出の際、従前は届出者の署名と押印が必要だったものが、署名のみで良いこととなりました。書面の見直しとは、宅地建物の売買契約に係る重要事項説明書等のように、当事者の承諾がある場合、書面に代わり電子ファイル等による提供を可能にするものです。押印、書面の双方に該当している法律もあるため、合計では48の法律が、今回改正の対象となりました。
■公的給付の支給等の迅速かつ確実な実施のための預貯金口座の登録等に関する法律
預貯金口座の情報を、マイナンバーとともにマイナポータルにあらかじめ登録し、本人同意のもとに、行政機関等が当該口座情報の提供を受け、特定公的給付の支給のために管理できることとしたものです。なお、特定公的給付とは、国民生活等に重大な影響を及ぼす災害や感染症が発生した場合等に支給されるもので、迅速かつ円滑な支給を可能とするための措置です。
■預貯金者の意思に基づく個人番号の利用による預貯金口座の管理等に関する法律
預貯金口座へのマイナンバーの付番は、金融機関ごとに行われることになっていますが、実際の対応は、各金融機関の判断に委ねられています。これを、預貯金者の意思に基づき、預金保険機構を介することにより、複数の金融機関の預金口座に付番できるようにしたのが本法です。災害時や相続時に、金融機関から、預貯金に関する情報の提供を受ける仕組みの創設を図ることとしています。
■地方公共団体情報システムの標準化に関する法律
本法は、上記基本法第29条に規定された「地方公共団体の情報システムの共同化又は集約」等を推進するために、自治体の基幹系情報システムについて、国が基準を策定し、当該基準に適合したシステムの利用を促進することにより、自治体の行政運営の効率化並びに住民の利便性の向上を進めることを目的としています。
自治体の業務の多くは、住民基本台帳法や地方税法などの法律に基づいて執行されますので、それらの業務の内容や事務執行のプロセスは、基本的に同じで良いはずなのですが、自治体ごとに微妙な違いがあります。それは、事務の手順の細かな相違で、いずれも間違いではないのですが、その僅かな違い故に、自治体ごとに個別の情報システムを整備導入していたのです。システムが異なるだけでなく、データ形式や文字コードなども異なり、これが自治体システムの整備運用経費の高止まりの要因となっていました。言ってみれば、特注のシステムを使い続けていたため、システム経費は高く、他社の製品に乗り換えるにもお金がかかるという状態だった訳です。お金がかかるだけではなく、データの連携や共有の阻害要因ともなっていました。こうした事態から脱却するために、システムの共同化やクラウド化の動き(自治体クラウドなどの)が、進められてきましたが、自主的な取り組みには限界があり、時間もかかるため、国が主導して標準化を進めることとなった訳です。
本法第4条において、国は、自治体情報システム標準化の推進に関する施策を総合的に講ずることとされ、自治体は標準化を実施する責務を有することが規定されました。政令により対象と定められた事務について、所管省庁が基準を策定し、自治体はその基準に適合したシステムを利用することが求められます。当該システムについては、国が整備する全国的なクラウド環境(基本法第29条)において利用するよう努めることとされ、国は、標準化のために必要な財政措置を講ずるよう努めるものとされています。基準に適合するシステムかどうか確認できるような措置も講じられます。システムの機能の改変もしくは追加(いわゆるカスタマイズ)は、最小限度認められる可能性もありますが、基本的に行わないと考えておいた方が良いと思います。なお、基準の策定その他に関して、国は自治体の意見を丁寧に聴取し、反映させることとなっています。
3 自治体の対応
■個人情報保護制度について
今後、策定されるガイドラインに従って、条例を廃止し、法律により定められた共通ルールに移行する準備や手続きを進める必要があります(公布後2年以内)。個人情報保護制度の趣旨は、適切な保護と、データの流通の両立にあります。基本的に、法の定める共通ルールを受容することとし、何らかの事情により独自の規律や手続きを設けることについては、法律の範囲内で必要最小限度の保護措置に限ることとされています。当面は、ガイドラインの策定を待つことになりますが、事前準備として、個人情報保護法と条例を比較し、過不足や相違点の洗い出しを行っておく必要があります。なお、個人情報保護審議会等の役割も変化することになりますので、留意が必要です。
■情報システムの標準化・共通化
法(標準化に関する法律)の成立により、自治体の基幹系業務(当面は住民記録や税等の17業務)について、2025年度までに「(仮称)Gov-Cloud(ガバメント・クラウド)」上で、標準化の基準に適合した情報システムをクラウド利用する形態に移行することを目指すこととなりました(デジタル・ガバメント実行計画(2020年12月25日閣議決定))。その経費については、国費(10/10)によりJ-LISに基金が造成され、当該基金から自治体に必要な経費が手当てされるスキームとなっており、2020年度第3次補正予算において、「(仮称)Gov-Cloud」への移行に要する経費について措置がなされたところです。なお「(仮称)Gov-Cloud」とは、国の情報システムの共通クラウド基盤として、国が構築し、自治体も利用することとなります。
今後、国(所管省庁)において、システムの標準仕様の策定及び調整(機能要件、データ要件、連携要件等)が行われ、その仕様に基づいて、ベンダー各社がシステム開発を行い、別途構築が行われる「(仮称)Gov-Cloud」上にシステムが実装されることになります。その後、自治体は、基準を満たしたシステムの中から、最も適当と思われるシステムを選定し、契約、移行を進めることになります。なお、仕様が同じでも、画面遷移等は独自の工夫が施されることと思いますので、既存システムからの移行のしやすさ等を考慮して選定されることになるでしょう。
自治体が、今のうちに行っておくべき準備作業は、現行システムの分析調査と移行計画の策定です。現行システムの分析調査とは、17業務について、現在の業務プロセス(作業手順等)を、現場の職員へのヒアリング等により詳細に把握し、BPMN(ビジネス・プロセス・モデリング表記法)などの手法を用いて、記録することです。標準システムのプロセスも、基本的にBPMNを用いて整理されているので、移行の際に比較が容易です。次に、現状のプロセスに手戻りや重複、ミスの頻出などの問題がないか、調査します。問題がなければ、そのプロセスが移行のベースになりますし、問題があれば、それを改善したプロセスを作成し、図上等で試してみて、移行のベースとなるプロセスを用意します。そのプロセスをベースにして、実装されたシステムのプロセスに移行、すなわちプロセスの変更を行うことになります。
もう1つ大事なことは、移行のスケジュールの目安を立てることです。現行システムのリプレース時期を考えて、スケジュールを想定します。移行に要する期間は、以前よりはるかに短縮できると思いますが、それでも、業務プロセスの分析、データ移行、文字の標準化などを考えるとそれなりの時間と負荷はかかると思います。また、間もなくリプレースの時期が来てしまう場合には、やむを得ず、その次のリプレース時期まで待つという選択も必要になるかもしれません。また、各事業原課には、以上のような状況を説明し、次期リプレースは、基本的にノンカスタマイズで行かざるを得ない旨の説明をし、十分に理解を得ておく必要があります。
従来とは全く異なる方法で、情報システムの再構築を行うことになるわけですが、各事業原課とコミュニケーションを密にしながら、早期に準備を進め、最適な答えを導き出していただきたいと思います。