月刊「税」

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巻頭言 税制鳥瞰図 第二の人生と地域経済の活性化

時事ニュース

2021.09.03

巻頭言 税制鳥瞰図
第二の人生と地域経済の活性化

税理士法人コスモ総合会計事務所 税理士 冨永 昭雄

『月刊 税』2021年5月号

高齢者と共に地域を支えられるように

 新年度がスタートし各種法制度も新しくなったが、とりわけ注目すべきは高年齢者雇用安定法の改正(以下「改正高齢法」)だ。2021年4月から改正施行された同法は、高齢者の積極的な就労を後押しし、さまざまな働き方を示すことにより高齢者の社会への関わり方の変化を促すことになるだろう。(※本稿では高齢者とは65歳以上としているが、65歳以上を一律に高齢者とするのは現実的にはそぐわなくなりつつある)

 改正高齢法の内容を簡素に述べると「65歳までの雇用確保の義務」と「70歳までの就業確保の努力義務」の2つについて事業主は対応しなければならないことになる。そしてこの努力義務については、①「70歳までの定年の引き上げ」、②「定年制の廃止」、③「70歳までの継続雇用制度の導入」、④「業務委託契約制度の導入」、⑤「社会貢献事業支援制度の導入」の5つの選択肢が示されている。

 特に業務委託契約(フリーランス等)と社会貢献活動支援は、雇用によらない働き方(社会での活躍のやり方)となるので非常に面白い項目だ。65歳以降も同じ会社に所属し同じ形態で仕事を続けるということだけではなく、または、単なる業務でなく社会全体の利益に資する活動をするなど、社会との関わり方の仕組みが多様化している時代の流れを感じる。

 高齢者に限ったことではないが、最近では、社員を個人事業主化して業務委託契約制度を導入したタニタや副業により外部人材を募集したヤフーが話題になるなど、働き方を選択できるようにする企業は今後増えて来ることだろう。一方、働き手の個人にあってもフリーランス、起業、副業、社会貢献は高い関心がある。

高齢者の就業意欲は高い

 筆者は税理士として、高齢者の方が起業してフリーランスになることや会社設立を支援する業務も行っているが、その際に感じていることがある。それは、皆さん共通して「今までの経験を活かしたい、それにより社会の役に立ちたい」と強く思っていることだ。私が関わらせていただいている方はほんの一部なので、世間にはこのような想いを抱いている高齢者は潜在的に多いに違いない。しかし、起業などの具体的な行動に移せず想いを描いているだけの方々もいる。そのような方々は、あと一歩踏み込む「きっかけ」がないだけなのだ。きっかけさえつかめれば行動につながることだろう。

 昨今、SDGsなど「持続可能」という言葉がキーワードになっているが、高齢者の就労についても同様だ。人生100年時代となった今、65歳くらいではまだまだ将来を見据えて継続的に活躍できる自分の居場所を社会の中に作る環境整備が重要となる。日本は国際的に見て高齢者の就業意欲は高いとされている。高い就業意欲と起業、社会貢献という時代の流れが上手く融合すれば、高齢者の活躍により日本経済は活性化していくに違いない。

 ここで出番となるのが行政だ。既に「シニア事業推進課」を作って高齢者の地域社会への参画をサポートしている自治体もあるが、一歩踏み込んだ取り組みが期待される。冒頭の改正高齢法では、企業側の努力により企業が高齢者に対して就労機会確保の道筋を作ることになる。つまり、企業の用意した器の中で高齢者が就労継続する仕組みだ。しかし、行政としてはこれに止まらず「高齢者が今まで勤めてきた企業に頼らずとも、自らの手で起業や社会貢献活動をすること」を地元の居住地域で行う支援をするのはどうだろうか。例えば「シニアアントレプレナー育成課」を立ち上げるのである。自分でゼロから事業を起こす高齢者のための相談窓口が各地域に数多くできてほしいと考える。高齢者が第二の人生で主体的に活躍していける「場」ができれば、地域経済も活性化することだろう。行政はその場作りの支援をすることにより、いかにして高齢者と共に地域を支えるかが重要課題となる。私自身、税理士業務を通じて高齢者を応援し、地域経済の発展に貢献しようと思う。

 

 

Profile
冨永 昭雄 とみなが・あきお

税理士法人コスモ総合会計事務所 税理士
 1968年生まれ。2001年税理士登録。2002年独立開業。税理士業の傍ら大学、高校で「景気指標で読み解く日本経済」、「脱どんぶり経営(キャッシュフロー経営)」などの講師を務める。著書に『フリーランス1年目の経理』(WAVE出版、Amazonランキング所得税部門1位獲得)。共著に『税制改正Q&A』(ビジネス教育出版社)などがある。現在、月刊税理(ぎょうせい)にて「新経営のヒント」を共同連載中。

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