仕事がうまく回り出す!公務員の突破力
【仕事がうまく回り出す!公務員の突破力】前例踏襲のカベ
地方自治
2021.01.08
仕事がうまく回り出す!公務員の突破力
【新刊紹介】スーパー公務員でなくても大丈夫! 誰でもムリなく現状突破できるスキルが身につく!
(『仕事がうまく回り出す! 公務員の突破力』安部浩成/著)
(株)ぎょうせいは令和2年12月、『仕事がうまく回り出す! 公務員の突破力』(安部浩成/著)を刊行しました。「仕事に行き詰まった…」「現状を変えたい…」など、職場環境にある問題にかぎらず、税収や人口減といった社会情勢など、さまざまな要因が重なって、いまひとつ現状を打開できないという感覚に悩んでいる方も多いのではないでしょうか。そこで求められる「公務員の突破力」について、理論となる考え方や具体的な進め方も含めてわかりやすく解説した1冊です。ここでは、Chapter4:組織内のカベをうまく打破する「突破力」より「前例踏襲のカベ」を掲載します。ぜひ業務のご参考にしていただけますと幸いです。(編集部)
魔のマジックセンテンス
「前例踏襲」と聞いて良いイメージを持つ人は少ないだろう。しかし、「伝統の継承」であればイメージはがらっと変わる。その違いは、前者は思考停止状態でただまねるだけなのに対し、後者は、世の中から認められ先代から受け継がれたという重みをしっかりと認識し、これを努力してマスターし、ときに今の世にも認められるように改善を加え、自らのものとした上で後世へと受け継いでいくというたゆまぬ努力を含意しているからではないだろうか。
実際のところ、行政が実施する事業のほとんどは前年度と変わらない。むしろ、安定性・継続性の観点から、毎年度激変するような事業は混乱を招く。しかし、それが単なる前例踏襲によるものなのか、十分に検討を加えた上で前年度の執行方法と同じであることがベストと判断した結果によるものなのかで、その意味合いは大きく異なる。
ところが、前例踏襲に陥る、魔のマジックセンテンスがある。「前年度と同じです」と言えば、一般的に上司も素通りできるし、何より自分が楽できる。
私には、このことに警鐘を鳴らされた苦い経験がある。
20代のとき、ある起案文書を係長に上げた。私にはルーティンに見えた仕事で、多忙な部署であったため、前任者が作成した前年度の決裁文書を見て「平成X年度」を「平成X+1年度」に変えただけの起案だった。係長はこれを一瞥するや否や、一言「やり直し」と言って、当時は紙であった起案文書を私の目の前で真ん中からきれいに二つに破いた。
「前年度と同じ」でよいのか
この教えは貴重であった。この起案文書には「あなたの考え」が入っていないということを指摘してくれたのである。そこで、前年度と同じ結論に今年度も至ることとなった理由を付記して再度起案したところ、スムーズに決裁された。
「前年度と同じです」では、あなたが携わっている存在意義がない。前年度をトレースするだけであれば、誰がやっても同じ、場合によっては職員がやる必要のないもの、自動化、機械化、委託化の対象である。
だから、係長以上の職員は、「前年度と同じ」でよいのかに注意しなければならない。この言葉に安心しがちな自分を戒めなければならない。この言葉が出てきたら、前年度と同じとなった理由を部下に問い掛けなければならない。部下としては、上司からの問い掛けが、調査研究、資料作成、理論武装のOJTとして機能し、自らの頭で考えることができる自立した職員への第一歩となる。
Chapter3で挙げた敬老祝い金見直しの事例は、平均寿命が延び、高齢化社会への兆しが見えてきた時点で、当時の担当者が事業の在り方を検討し、出口戦略を立てておくべきものであった。毎年度メスを入れておくべきこうした努力を怠り、前例踏襲を続けると、ステークホルダーと財政とのひずみを生み、後輩たちに大きなツケを回すこととなる。
前例踏襲とは責任逃避である。そして、思考停止の中で、自らの、自らの部下の、自らの自治体の突破の機会をも奪い去ってしまう。