知っておきたい危機管理術/酒井 明

酒井明

危機管理術 新型コロナウイルスと自然災害という複合リスクへの対応

地方自治

2021.01.07

知っておきたい危機管理術 第51回 新型コロナウイルスと自然災害という複合リスクへの対応
東京福祉大学 酒井 明

『地方財務』2020年8月号

① 年々更新する〝未曾有の豪雨〟への対応は。

 九州地方を50年に一度の豪雨が襲った。「50年に一度」「観測史上いまだない」といった言葉を毎年のように聞いている。そもそも「50年に一度」が常態化しているのに基準を変える必要があるのではないのか。毎年多くの犠牲者を出し諦めに似た気持ちを我々は持っていないだろうか。住民の防災に対する認識や防災リテラシーの向上を図っていく必要があるのではないか。自治体からの情報を住民はどの程度の危険と理解しているのか。今回の犠牲者の中に情報を楽観的に考え逃げ遅れた人がかなりいるのではないか。すでに地球温暖化は制御できないところまできてしまっているのではないか。温暖化で海水温が上がってしまっているので、線状降水帯による豪雨や台風の大型化などにより毎年被害が大きくなっていく。大げさに言えば、国民はこの日本でこれから生活を続けるのなら生き残るための「サバイバル」の認識を持たなければならないのではないか。国家も災害対策基本法の枠組みだけでよいのか。憲法上きちんと「緊急事態条項」を規定し、国として「危機管理省」または「防災省」を設置し、人材と予算に裏図けられた組織体制を整備するべき時がきているのではないか。

② コロナ禍で自然災害を乗り越えるには。

 新型コロナウイルスの感染拡大が続いている中でも、これからも自然災害が日本列島を容赦なく襲ってくる。ワクチンや治療薬ができるまでは各地で洪水、土砂崩れ、地震等の自然災害と感染症の重複したリスクに同時に対応しなければならない。感染症の脅威がなければ、自然災害を避けるために自治体が指定した避難所に避難すればよかった。しかし、密閉、密集、密接の「3密」を避けるためには以前よりも広いスペースが要求される。東日本大震災や熊本地震の時、避難所ではインフルエンザの流行やノロウイルスの感染を招いており、現状の避難所は感染症には脆弱である。そこで避難所以外へ避難すること、すなわち、分散避難が新型コロナウイルスの感染リスクを下げるために有効である。分散避難できる者は日頃から、避難の方法を決めておくべきである。いつ、どこへ、誰と、どうやって避難するか考えておくことが重要である。安全な地域にいる親戚や友人・知人などと、災害時にお互いに避難を受け入れることもあらかじめ話し合っておくことが大事である。もちろん、災害時には危険な場所にいる人は避難することが原則であるが、感染の危険性が残る避難所が唯一の逃げ場ではない。避難とは「難」を「避」けることであり、安全な場所にいる人までわざわざ避難所に行く必要はない。むしろ、自宅に残った方がよい場合もあり、近所のビルに避難させてもらう方がよい場合もある。状況によっては地元のコミュニティーを離れて、他県への早めの避難も選択肢の一つである。新型コロナウィルスの感染が心配な場合は車中泊も考えられるが、ただ、豪雨の中、そのような手段がとりうるかは周囲の状況判断が必要である。一般的には豪雨時の夜の移動は車を含めてやめた方がよいだろう。

 避難所では感染者と一般の避難者で対応が異なる。避難所に行く際にはすべての人がマスク、体温計、消毒液等の準備が不可欠だろう。避難所の運営では体温計や、できればレンタルのサーモグラフィーを準備し、受付はビニールシールドを設置することが望ましい。

 一般的には体温の測定、マスクの着用、手洗い、発熱がでたらすぐに申告することの基本的な対策は避難者に十分周知させておくべきである。感染症対策として一人一人に十分なスペースを確保する。できれば発熱や咳の症状がある人向けの隔離したスペース、個室と専用のトイレが望ましい。もちろん、トイレのドアノブを消毒し、定期的な換気をするほか、避難者が集まらないように工夫するなど気配りが欠かせない。予算的に限りがある場合には段ボールを使った簡易ベッド、診療室等も可能であり、いわゆる従来型の雑魚寝タイプは好ましくない。コロナ感染者が入所したらどうするか。軽症者であっても感染拡大を防ぐため、ホテルや旅館等の宿泊療養施設に滞在することが原則であるが、宿泊療養施設に入れず、一般の避難所に避難する場合も考えられる。災害対策本部及び保健所に連絡して、対応可能な宿泊療養施設を捜してもらうのがよいが、それまでは避難所はコロナ感染者と一般の避難者を別の建物とすべきである。別の建物が確保できず同一建物の場合は、動線を分けて、コロナ感染者用の専用のスペース、トイレを準備する。避難所ではこのことを入所者全員に周知させる。

 ワクチンや有効な治療薬の早期の開発を願うとともに、日本はもとより世界中に広がる、この閉塞感を打破し明るい未来が早期に訪れることを祈ってやまない。

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酒井明

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東京福祉大学特任教授

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