仕事がうまく回り出す!公務員の突破力

安部浩成

『仕事がうまく回り出す! 公務員の突破力』(安部浩成/著)―誰でもムリなく現状突破できるスキルが身につく!

地方自治

2023.06.07

【新刊紹介】スーパー公務員でなくても大丈夫! 誰でもムリなく現状突破できるスキルが身につく!

『仕事がうまく回り出す! 公務員の突破力』安部浩成/著)

(株)ぎょうせいは令和2年12月、『仕事がうまく回り出す! 公務員の突破力』(安部浩成/著)を刊行します。「仕事に行き詰まった…」「現状を変えたい…」など、職場環境にある問題にかぎらず、税収や人口減といった社会情勢など、さまざまな要因が重なって、いまひとつ現状を打開できないという感覚に悩んでいる方も多いのではないでしょうか。そこで求められる「公務員の突破力」について、理論となる考え方や具体的な進め方も含めてわかりやすく解説した1冊です。ここでは本書の狙いを概説した上で、本書 Chapter1-1 より「なぜ「突破力」が 求められるのか―人口減少・税収減をどう乗り越える?」を掲載します。ぜひ業務のご参考にしていただけますと幸いです。(編集部)

本書で紹介する「突破力」とそのポイント

「突破力」とは日々の仕事の中で陥る様々な閉塞状況を乗り越える力です。

●仕事に行き詰まり、現状を変えたいけれど、なかなかうまくいかない・・・
 ⇒そんな人の悩みを解決するのが本書です!
 ⇒第一歩を踏み出すノウハウを職場の具体事例を交えてわかりやすく解説します!

■前例踏襲にサヨナラ!改革した方が楽になる!
 “変えた方が楽になる” 誰でもムリなくできる現状を変える手順や方法を提供します。

■こんなカベにぶつかっている人におススメ!
 ◇制度や政策のカベ ◇セクショナリズムのカベ ◇前例踏襲のカベ ◇上司のカベ ◇部下のカベ

なぜ「突破力」が 求められるのか―人口減少・税収減をどう乗り越える?

 わが国は既に人口減少時代に突入している。このことはネガティブな文脈で語られることが多いが、人口減少そのものは決して悪い側面ばかりではなく、良い効果ももたらす。たとえば、道路や電車などの交通機関の混雑が緩和される。この結果、目的地への到達時間が短縮されたり、より快適に移動できたりするようになる。

 それでは、人口減少時代は何が課題なのだろう。実は、有史上、人口減少期に経済成長した国はない。経済成長がないということは、抜本的な税制改正をしない限り税収も減るということだ。これに加え、わが国では少子高齢化も進んでおり、生産年齢人口がより一層減少していく。これは担税者の減少に直結する。これに伴い、より限られた財源で行政サービスを展開していかなければならないということが課題なのである。このため、人口増加・税収増の時代に構築した事業を全て継続していくことは不可能であり、見直しが必須となる。しかし、事業には全て、何らかのステークホルダーが存在する。このステークホルダーの納得性を獲得しながら変革していかなければならない。これは大変難しく、職員にとって気が重い仕事だ。

 しかし、いかに難しくともこれに屈することなく、人口減少「時代」には、それに見合った人口減少「社会」を築いていかなければらない。繰り返すが、人口減少・税収減という時代の到来は不可避である。そうした時代が到来することを前提とした、人口減少・税収減でも持続可能な社会を構築していくことが求められる。先に挙げたインフラを例にとれば、渋滞を緩和するための道路整備やラッシュ対策としての鉄道整備といった「新たな整備」から「既存インフラの維持」へ、さらには、「維持すべきインフラの取捨選択」へと重点を変えていく。橋梁や上下水道管の新設から、老朽化したそれらの維持管理へとシフトしていくこと、そして、集約型都市構造を目指して、居住促進区域・都市機能誘導区域を設定し、立地適正化へと導いていくことがその好例といえよう。

 ところで、経営資源には、カネのほか、ヒト・モノ・情報もある。限られた財源(カネ)を有効に活用する一方、それ以外の取組みで、心豊かな人口減少社会を構築していくこともできる。

 たとえば、花々の手入れやまちの美化に関心を持ち、これを一つの生きがいとする人々が存在する。人は社会的な生き物であり、承認欲求を持っている。こうした人たちの中には、社会貢献意欲の高い人も存在する。このような人々が輝けるフィールドを開放するのである。花々の手入れが好きな人には公園の花々の手入れに、まちの美化に関心のある人には道路の清掃などに取り組んでもらえれば、本人の人生が輝くとともに、公園や道路の維持管理にかかる支出の削減にもつながる。このような対象は個人に限らない。社会貢献を掲げる民間事業者も増えてきている。

 しかし、行政が往々にして陥りやすい誤りとして、「行政ではもうできないので皆さんでお願いします」と持ち掛けることが挙げられる。行政の肩代わりをさせられることを望む人はいないだろう。肩代わりではなく、各々の主体の存在意義や利益にかなっているということが起点であり、住民・団体・民間事業者と行政とがWIN-WINの関係に基づく必要があることはいうまでもない。

 この結果として、国民・住民は、「担税者・サービスの享受者」という側面に加え、「協働者・サービスの提供主体」へとシフトし、国→地方への団体自治の強化としての分権から、地方→住民への住民自治の強化としての分権へと深化していくのである。

 これまで暗黙のうちに行政の守備範囲ととらえてきた事業を見直すことは、人口減少社会をデザインしていくことであり、社会を変えていくことでもある。このように、人口減少時代に最適な社会の構築に取り組むことこそが、これからの公務員のやりがいであり、醍醐味だ。つまり、盲目的にサービスをバラまく・前例踏襲すれば事が足りる時代は終焉し、これからの公務員は、財源・人材・事業者といったわがまちの資源を的確に測り、身の丈に合った行政運営をプランニングするプロデューサーへと変容していくのである。

 こうした観点から自分自身の仕事をチェックしてみよう。たとえば、新年度予算要望の際に、前例踏襲、ましてや増分主義の要望をしていないだろうか。人事要望の際に、安易な増員要望を行っていないだろうか。予算要望や人員要望を行うまでの上半期に、既存の事業、また、その執行方法が最善であるか検討を行っただろうか。

 最少の経費で最大の効果を挙げることは地方自治法で要請されているが、この法の趣旨に立脚した突破は、時代の画期には特に強く求められる。これは未曽有のことのように思われるかもしれない。しかし、歴史を振り返ってみると、こうした突破に果敢に取り組んだ人物は江戸時代にも存在した。米沢藩第 10 代藩主・上杉鷹山である。

 上杉謙信を先祖とする上杉家は、かつて会津120万石の大藩であった。しかし、関ケ原の合戦で石田三成に味方したため、徳川家康によって米沢 30 万石に減封された。すなわち、歳入が 4 分の 1 となった。しかし、その際に、家臣の人員整理を実施しなかった。さらにその後 15 万石に減らされているが、 15 万石のうち 13 万3000石、収入の実に 88 %を家臣の給与に充てていた。

 このような最悪の財政状況の下、家督を相続したのが上杉治憲(後の鷹山)であった。養子として迎えられ、 17 歳で家督を相続した鷹山は、前例のない藩政改革に取り組んでいくのだが、守旧派の抵抗はすさまじく、改革は決して一筋縄に行ったわけではない。しかし、城中に自ら桑を植え、米沢織による殖産興業を行うなど率先垂範し、改革の火種を少しずつ起こしていった。有名な
「なせば成る なさねば成らぬ 何事も 成らぬは人の なさぬなりけり」
は鷹山の言葉と伝えられている。

 守旧派やステークホルダーの考えに変容をもたらし、これらと合意形成の上で人口減少社会にふさわしい行政サービスの展開へと突破すること。これは公務員にしかできない。そしてこのことに成功できたときこそが、公務員としての無上の喜びの瞬間であり、これまでの自分自身を突破する瞬間といえよう。

(*『仕事がうまく回り出す! 公務員の突破力』(安部浩成/著)より)

アンケート

この記事をシェアする

  • Facebook
  • LINE

スーパー公務員でなくても大丈夫! 誰でもムリなく現状突破できるスキルが身につく!

注目の1冊

仕事がうまく回り出す! 公務員の突破力

2020/12 発売

ご購入はこちら

すぐに役立つコンテンツ満載!

地方自治、行政、教育など、
分野ごとに厳選情報を配信。

無料のメルマガ会員募集中

関連記事

すぐに役立つコンテンツ満載!

地方自治、行政、教育など、
分野ごとに厳選情報を配信。

無料のメルマガ会員募集中

安部浩成

安部浩成

千葉市中央図書館長/元市町村アカデミー教授

1969年生まれ。明治大学政治経済学部卒業。1993年千葉市役所に入庁。税務課、保健医療課、都市総務課、教育委員会企画課、行政管理課、総務課、政策法務課、障害者自立支援課などを経て、人材育成課課長補佐、業務改革推進課行政改革担当課長、人材育成課担当課長、海辺活性化推進課長などを歴任。2019年より現職。厚生省(当時)や千葉大学大学院、市町村アカデミーへの派遣を経験。市町村アカデミーでは教授として、講義や研修企画等を通じた人材育成に携わる。人材育成と行政改革がライフワーク。著書に、『はじめて部下を持ったら読む 公務員のチームマネジメント』(学陽書房)、『市町村職員研修 いちからわかる! 地方公務員仕事のきほん』(共著、ぎょうせい)、雑誌寄稿に「新任昇任・昇格者の行動力」(月刊『ガバナンス』2020年3月号)ほか。

閉じる