時事問題の税法学
時事問題の税法学 第1回 相続税法の改正
地方税・財政
2019.06.05
時事問題の税法学
第1回 相続税法の改正
(『月刊 税』2015年11月)
改正相続税法
本年1月1日から施行された改正相続税法も、この時期になれば定着してきたような気がする。そうはいっても書店の棚には、相変わらず相続税関係の書籍が平積みになっている。相続税対策本の出版ブームといえるが、筆者も便乗して入門書を出したクチであるから、文句をいえる立場ではない。
相続税法改正の骨子は、 ①基礎控除額の縮小、②税率の改定、③相続時精算課税の緩和、④小規模宅地特例の対象拡大などアメとムチであったが、やはり増税傾向は否めない。そこで相続税対策の話題が尽きないのである。
相続税対策はーというテクニックがあるとしてー極めて単純である。課税対象となる相続財産を減らせばいい(相続人を増やすという対策は、すでに養子の人数が制限されている)。財産を減少させる方法は、贈与と譲渡しかない。贈与には贈与税、譲渡には所得税がそれぞれ課税されるから、節税とはならない。
もっとも相続の開始がいつなのかは誰にもわからないから、せっかくの節税策も税制改正で封じ込められてしまうこともある。相続税対策は、時間が一番のリスクともいえなくもない。ただ、不謹慎なことをいうようで恐縮であるが、昨年、平成26年12月13日までに開始された相続は、節税になった。除夜の鐘を複雑な想いで聴いた事例もあったことであろう。事実、今年に入ってから相談された相続税事案では、このことが話題になった。
相続税の負担が話題になるのは都市圏だけの現象という指摘もある。確かに、相続財産の評価で重要な路線価は、今年も7年連続の下落となったが、東京都、大阪府、愛知県の大都市圏で昨年に引き続き上昇したのをはじめ、全国10都道府県で昨年より上昇している。つまり大都市圏では、相続税の不安が増加したことになる。
相続税対策
それに合わせたように、最近、不動産会社による相続税対策の広告が目立つ。財産を減らすことはなかなか難しいから、2世帯住宅による小規模宅地の特例や賃貸住宅による土地の評価減などがメインである。建築資金については、住宅資金に係る贈与の特例、住宅ローン控除なども紹介されることも多い。なかには銀行融資による資金調達が債務控除の効果があることを説くものもあるが、返済資金に家賃を充当することのリスクまで解説する例は少ない。ただささやかな対策として浸透していることは否定できない。
富裕層向け対策として、手持ち資金と銀行融資で、タワーマンションを所有する法人を設立し、その株式を贈与することで贈与税を軽減し、その結果、相続財産が減少することで、相続税対策となるという記事があった(『朝日新聞』平成27年9月7日)。その記事の影響も大きい。
ただ、富裕層は、相続税対策を国内レベルで考えていない。非居住者に国外資産を贈与する場合には非課税となることを踏まえて実行された行為の是非が争点となった武富士事件に対する第1審判決が、平成19年5月だったことを考えると、すでにこの分野もグローバル化している。国税当局は、遅れを取っていた。
遅ればせながら、国外への財産流出には厳しいチェックが実施されている。平成24年度税制改正で導入された「国外財産調書制度」は、平成26年1月から実施された。この制度は、その年の12月31日においてその価額の合計額が5千万円を超える国外財産を保有する居住者は、翌年の3月15日までに当該国外財産の種類、数量及び価額その他必要な事項を記載した「国外財産調書」を、所轄税務署長に提出しなければならない。
さらに、平成27年度税制改正で、俗に出国税と称されている「国外転出時課税制度」が始まった。本年7月1日以後に国外転出をする一定の居住者が1億円以上の対象資産を所有等している場合には、その対象資産の含み益に所得税及び復興特別所得税が課税されることになった。効果に注目したい。