
ガバナンスTOPICS【イベントレポート】
【第40回自治体学会横浜大会】「自治体学」を語り合う2日間/イベントレポート
NEW地方自治
2026.10.20
出典書籍:『月刊ガバナンス』2026年10月号
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【ガバナンス・トピックス】
「自治体学」を語り合う2日間
──第40回自治体学会横浜大会
市民・自治体職員・研究者のネットワークである自治体学会(阿部昌樹理事長)は8月21・22日の2日間(23日にはエクスカーションも開催)、横浜市で第40回自治体学会横浜大会を開催した。22日には第40回の記念フォーラムを実施。「『自治体学』 未来─横浜で語り合う市民自治とまちづくり─」の統一テーマのもと、多彩な議論が展開され、交流を深めた。
設立の地で開催
自治体学会は、「地方の時代」といわれていた、40年前の1986年5月23日に設立総会を開催し、市民・自治体職員・研究者らで構成され誕生しました。「市民的視野に立ち地域に根ざした実践的な研究及び会員相互の交流をとおし、地域ごとの研究活動を促進し、自治体の自律的政策形成を促し、もって自治体学の創造と地域自治の発展に寄与すること」(規約第2条)を目的に設立されました。今年、第40回目を数えた大会は、設立の地・横浜で開催されました。

初日は、40年前に設立総会が行われた横浜市開港記念会館を会場に、記念フォーラムと会員らによる研究セッションが行われた。
開催に先立ち、阿部理事長が挨拶。「当学会は1986年に設立し、『地方の時代』とともに歩んできた。振り返ると、この40年で地方自治は様々なことが起こってきた。自治体、地域として向き合わなければならない課題がたくさんあった。それぞれの現場での経験や悩み、解決策を共有する場として40年間続いてきた。地域の課題はなくならない、地方自治は完全に出来上がったものではない。そういう考えに立てば、自治体学会もなくてはならない存在なのだろう。これからも発展させていく場になれば」と参加者らに呼びかけた。

初日の会場は、40年前に自治体学会設立総会が行われた横浜市開港記念会館
40周年記念フォーラム:「自治体学」の未来を語る
続いて、40周年記念フォーラムが行われた。フォーラムは、人口減少やAI化が進む中で、どう「地域自治」を進め、「自治体学」の未来を切り拓くべきか。「自治体学」と自治体学会のこれまでとこれからを語り合う──という趣旨のもと、「『自治体学』の未来~横浜で語り合う市民自治とまちづくり~」をテーマに設定。パネリストとして、土山希美枝さん(法政大学法学部教授)、金井利之さん(東京大学大学院法学政治学研究科教授)、西村幸夫さん(東京大学名誉教授・國學院大學名誉教授)、小塩優也さん(三重県政策企画部(全国知事会派遣))らが登壇した(コーディネーターは礒崎初仁さん(中央大学法学部教授))。
『自治の現場の学の会』にいたるまで
最初にパネリストらが報告(問題提起)。まず、土山教授が「『自治の現場の学の会』にいたるまで」と題して、自治体学会設立時の時代や現場の背景について紹介。松下圭一氏の回顧から「現場を持たない学者が中心になる学会は、現場のない学会になりかねないという問題意識があったようだ」と紐解き、現場の自治体職員や市民、研究者の“共同作業”として自治体学会を形成された、と歴史を振り返った。
地方自治と自治体学会の歩み
次に金井教授が、地方自治と自治体学会の歩みについて発表した。金井教授は、「自治体職員は、基本的には権力主体。自治体学会というのは、『その権力を持たずしてどう政策を変えていくのか』という知恵の場だったのではないか」と学会の意義を語り、「権力を取ることで政策を実現するという従来の政治のあり方ではなく、政策を変えることで事実上の自治を実現していくこと、トップという権力者のフレームに依存せずに、学会という知的フレームでどう活動していくのかという『知的自治』が重要だ」と語った。その上で、「分権改革の副作用をもう一度見つめ直し、国や省庁に頼りきりの体質から知的な独立性、自治を取り戻していくのか。自治体学の未来は、ある意味でこの“永遠の未完”の中にあり、完成した段階でそれは自治体学ではなくなる。知的格闘としての自治体学を追求し続けたい」とこれからを見据えた。
まちづくりの実践と学会の役割
西村名誉教授は、まちづくりの実践と学会の役割について語った。都市計画やまちづくりが専門の西村名誉教授は、入会当初を振り返り「会員のみなさんが非常に真面目なことに感心した」という。
「研究者の学会は、同業者同士との付き合い。自治体学会は職員、議員、市民、研究者が集まり熱心に活動し、他の学会にはあまり見られない光景だ」と語った。
そして、「学会を通じ様々なフィールドにいろんな主体が集まってくる。自治体職員が、自治体職員であると同時に一人の市民として、どう地域に関わっていくかを考えることで、新しい『パブリック』が見えてくる。オンラインの時代であっても、リアルな『場』としての自治体学会の役割は大きいのではないか」と意義を述べた。
自治体現場と自治体学会の未来
最後に自治体職員の立場から、小塩さんが、自治体現場と自治体学会の未来について発表した。
小塩さんは、自身の自治体職員としてのキャリアと学会とのつながりについて紹介。その上で、「今非常に深刻なのは若手職員の離職だ。『公務員は安定している』というイメージがあるが、実際には膨大な業務量、メンタルヘルス、そして『やりがい』をどこに見出すか──といった現実もある。単なるルーチンワークではなく、知的な興奮、知的な刺激を現場でどう見つけるか。自治体学会は、そうした現場の課題を持ち寄り、多様な視点で議論できる場だ。ネットワークを作り、情報を交換する。そして、若手が参加しやすい環境を作っていくことが、これからの自治体学会の発展につながるのではないか」と自治体現場の立場から今後、果たすべき学会の役割を語った。
そして、「自治体学と何かを、この学会で議論し続けること自体が自治体学そのものではないか。未来に向けて対話を続けていきたい」とこれから先を見据えた。
その後、パネリストらが相互で質問をしてクロストーク。会場からの質問にも答えた。

初日は40周年を記念したフォーラムが開催された。
研究発表セッション
フォーラムの後は、学会賞表彰式に続き、会員らによる研究発表セッションに移った。
A:都道府県と基礎自治体
B:自治体議会改革
C:条例と政策形成
D:地域づくりと住民自治
E:特色ある自治・政策
の5つのセッションに分かれ、発表、討論が行われた。
8つの分科会で自治を議論
2日目は、会場を関東学院大学横浜・関内キャンパスに移し行われた。
午前・午後でそれぞれ4分科会が開催された。分科会は次のとおり。
①自治体における独自事業と「無償化」~実務上の意義と課題~
②自治を支える人材の空洞化に立ち向かう~地域ぐるみで育て合う「地域内人材循環」の試み~
③(地元企画)転換期のまちづくり~協働・共創時代のまちづくりへ~
④(公募企画)一極集中の諸問題と自治体政策
⑤人口減少社会における自治のこれから~事務の広域・標準化を越えて、自治体の『核』を再考する~
⑥「社会教育」の新地平~自治の未来を拓く学び・つながり~
⑦地域における移動手段の多様化~行政と民間の役割を再考する~
⑧(公募企画)議会基本条例制定20年の歩みとこれからの地方議会~分権時代における個性豊かな自治の実現に向けて~
分科会②:「地域内人材循環」について議論
このうち、午前に行われた分科会②では、昨今の自治体職員の人材確保・育成をめぐる困難に言及。特に地方の中小都市や町村部における状況は年々深刻化し、試験の前倒しなど採用の改革は進むものの、逆に入庁後の育成や定着に課題を生じるなど根本的な解決にはつながっていない現状を踏まえ、この課題を自治の持続性の観点から捉え、行政の壁を越えた官民・広域連携により人材をシェアし、共に育て合う「地域内人材循環」についての議論がされた。
パネリストとして、石井大一朗さん(宇都宮大学地域デザイン科学部教授)、小野寺憲一さん(宮城県気仙沼市総務部長)、越尾淳さん(内閣府公益認定等委員会事務局次長(前総務省自治行政局公務員部公務員課長))らが登壇した(コーディネーターは役重眞喜子さん(岩手県立大学総合政策学部准教授))。
公務員就職の接続についての実践例
石井教授は大学教員の立場から、公務員就職の接続について実践例を発表。大学と自治体との連携した取組みを紹介した。栃木県内のいくつかの自治体と学生らが協働するプロジェクトを支援する石井教授は、「学生を受け入れる側の行政職員には、教える・教えられるの関係ではなく、部活動のコーチや顧問のような関わり方が求められる」と指摘。また、「学生時代に地域で信頼関係や効力感を実感できるポジティブな印象を持つことが、将来の地域人材確保の鍵になる」と説いた。
気仙沼市のまちづくり
小野寺さんは、自身も経験してきた気仙沼市のまちづくりについて紹介した。「まちづくりを語る上で、東日本大震災とその後の復興事業は大きな経験」とし、突然降りかかってきた、復興事業という1兆円規模の事業をこなす過酷な環境が、「否応なく職員の調整能力や住民への説明能力を鍛えました」と振り返った。その上で、復興が落ち着いた現在は「環境だけに頼って職員を育てるのは限界である」とし、未来に向けて官民のベクトルを合わせた「総働(そうどう)」のまちづくりの重要性を語った。
地域内人材循環というサイクルを回すための考察
越尾さんは、長らく公務員制度に関わってきた立場から、私見として「地域内人材循環というサイクルを回すための考察」を語った。
国の立場から、地方との取組みを見てきた越尾さんは、「各自治体が、人材確保のために創意工夫を凝らした取組みを進めているが、最初は先進的取組みであっても、フォロワーが出てくればすぐに陳腐化してしまい『事例集』を作るのも悩ましい」と吐露。人材循環として、「兼業の弾力化」「国家公務員の連携」「『地方創生伴走支援制度』からのインスピレーション」──などを挙げ可能性を紹介。その上で、人材循環を加速化するために、「自治体人事当局の進化」「中高年齢層の中途採用」「総務省による伴走支援やコーディネート機能」などを挙げた。また“妄想”として、「ノマド地方公務員」(技術職を念頭に、手に職のある職員が、ワーキングホリデー的に自治体をわたり歩く)のも良いのではないか、と私案も提案した。

分科会2では、地域内人材循環について様々なアイディアが出された。
自治体の「核」とは
分科会⑤:「選択的自治」の可能性と「求められる自治体職員像」を考える
午後に行われた分科会⑤では、人口減少社会での事務の広域・標準化を越えた、自治体独自の意思決定と対話のためにリソースを捻出する「選択的自治」の可能性、そして「求められる自治体職員像」を考える機会となった。
パネリストには、土山希美枝さん、日野稔邦さん(佐賀県SSP総括監)、田中逸郎さん(NPO政策研究所理事)が登壇、コーディネーターは大杉覚さん(東京都立大学法学部教授)が務めた。
「責任の分担」という視点
第34次地方制度調査会委員でもある土山教授は、広域連携や事務の標準化の議論に対して「広域を創るイニシアチブを絶対に現場から離なさいことが重要」と述べ、単なる役割の切り分けではなく「責任の分担」という視点を強調した。
佐賀県の“生存戦略”
日野さんは、自身のキャリアを振り返りつつ、現在取り組んでいる、佐賀県の“生存戦略”について紹介。県立大学新設による人材の「内製化」や、スポーツを産業化する「SSP構想」などについて紹介。
「地域ごとに打ち込むべき戦略は異なる」とし、DXやAI活用などで生み出された余力を固有の課題や独自の政策に注力させるべき」と話した。また、事務の標準化についても、自治の後退ではなく、地域が独自性を発揮するためのリソースを生み出す“手段”として再定義する視点を示した。
豊中市の公共下水道事業
元大阪府豊中市副市長の田中さんは、長年の実務経験に基づき発表。事務の国や都道府県が市町村を助ける「垂直補完」、それから隣接する市町村が横同士でつながる「水平連携」は昔からやっていたと振り返り、豊中市が呼びかけて始まった公共下水道事業の事例を紹介。「団体自治を水平補完し強化することで住民自治力がアップした。これこそがあるべき姿なのでは」と語った。そして、「“自治体発”の広域標準化を進めることが重要ではないか。それには必ず情報公開、住民参加のもとでやらなければならない。一旦動き出すとイニシアチブがいつの間にか奪われてしまって、離軌道修正が効かなくなる恐れがある。しっかりとした仕組みの上で進めて欲しいというのが現場からの思いだ」と主張。
そして、議論を振り返り、「あらためて地方自治の現場が一番大事だと感じた。現場ファーストでやっていくことで、魂は細部に宿る」と力強く語り、分科会を締めた。

分科会5。地方自治の現場で失ってはならないものを考える時間となった。
*
エクスカーション
分科会の終了後には、エクスカーションも実施。横浜市内のみなとみらい21地区や黄金町、団地コミュニティの再生に取り組む竹山団地や独自の「美の基準」の取り組む真鶴町のまち歩きなどが行われた。参加者らは、学会はじまりの地・横浜で、これからの地方自治のあり方を考える時間を過ごした。
(本誌/浦谷 收)
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