自治体債券運用のイマ

月刊「地方財務」

【自治体債券運用のイマ 第9回】安全性、流動性、効率性で確かな債券運用をめざす/東京都品川区

NEW地方自治

2026.10.01

≪ 前の記事 連載一覧へ

★「自治体債券運用のイマ」は「月刊 地方財務」で連載中です。本誌はこちらからチェック!

月刊 地方財務 2026年10月号

月刊 地方財務 2026年10月号
特集:2027年度省庁別重点施策をよむ
編著者名:ぎょうせい/編
販売価格:1,870 円(税込み)
詳細はこちら ≫

【自治体債券運用のイマ 第9回】
安全性、流動性、効率性で確かな債券運用をめざす/東京都品川区

 近年、SDGs債の市場は拡大し、国、自治体、政府系金融機関などが発行していることなどから、公金運用の選択肢として注目を集めている。特に、SDGsや社会課題解決に資する債券となっていることから、自治体行政と連動させた債券運用が目立ってきた。

 東京都品川区は、内閣府から「SDGs未来都市」の指定を受けており、SDGs債の購入も行っている。特に注目されるのは、その運用の手法だ。常に金利動向などを見据えながら、年度予約やバッファーオーダーなどの手法を駆使し、安全性と効率性に加え、高い収益性を実現している。

 社会貢献と効果的な公金運用を両立させている同区の取組を聞いた。

東京都品川区

人口約40万3,500人(令和8年4月1日時点)。東京都の南東部に位置し、羽田空港へのアクセスに優れ、品川駅周辺など交通・商業の拠点として発展している。旧東海道の宿場町「品川宿」の歴史が残る一方、大崎・臨海部には最新のオフィス街が広がる。戸越銀座などの活気ある商店街や、目黒川の桜並木も親しまれている。財政規模は、令和6年度一般会計決算は約2,097億円、令和8年度一般会計当初予算は約2,369億円。

品川区役所の写真
本庁舎外観。右は議会棟。

SDGs施策と連動した債券購入

 品川区は、ゼロカーボンに向けた温室効果ガス半減を目指す2030カーボンハーフなど、SDGsの目標達成に向けた取組が高く評価され、内閣府から2024年度の「SDGs未来都市」などに指定された。

 品川区では、SDGs債としては、高速道路(東日本・西日本)ソーシャルボンドのほか、東京ソーシャルボンド、日本学生支援機構債、東京都住宅供給公社債などに投資を行っている。例えば、首都高速ソーシャルボンドは、品川区を含む都の高速道路の新設・改築による渋滞緩和や、災害復旧を通じた危機管理や防災対策の強化など社会的課題の解決に資する事業資金として充当されることにより、社会的に意義のある取引であると考えている。

 投資表明についても、単なる債券購入の公表としてでなく、SDGsや社会貢献への取組を資金面から支援していることを発信する機会として位置付けている。

 投資対象全体としては、国債、地方債、政府保証債、財投機関債等となっており、年限は10年まで、運用額は令和6年度末時点で計590億円となっている。

 同区の債券運用を担っているのが会計管理室。地方自治法に基づく会計管理者の事務、基金に関する事務、指定金融機関に関することなどがその業務であり、会計管理者1名、会計管理係6名、資金担当3名、審査担当5名からなるチームとなっている。債券運用を行う担当者3名は、各基金の所管課との調整や基金の管理・運用全般を執り行っている。

柔軟な意思決定と運用手法の工夫

 会計管理室では、基金運用について所管の各局課からその管理について依頼を受けており、一定のイニシアチブをもって意思決定を行っている。そのために、買付や満期のタイミングについては細心の注意を払っているとのこと。

 具体的には、毎年の運用計画を立て、基金の目的と買い付ける債券の内容や金利などを吟味し、投資する債券を決定していくが、時に発行見通しが急に変更になったりすることもあり、運用計画も状況に応じて随時変更する。また、所管課による事業の実施や繰延などにも対応できるよう、運用などのタイミングを一日単位で調整するなど、高度で細かい運用を行っている。

 こうした運用について、「買付手法に柔軟性を持たせている点が最も特徴的」と大和証券㈱公共法人部次長の阿部咲子さんは指摘する。「運用計画の完遂という目標に対し合理的な意思決定をしていく点は、他の自治体にも参考になる」とのこと。この計画完遂を可能にしているのは、運用の柔軟性に加え、その手法にもある。

 その一つが年度予約。前年度までに基金の運用や資金繰りなど資金計画を策定しておき、証券会社などを通じて購入予定の債券の銘柄や金額などを確保・予約する方法だ。これにより、購入債券のタイミングを調整でき計画的に買付・運用を行えるため資金が活用されず金利を生まない預金のままとなることを回避できる。また、人気のある短期債券の運用も計画的に行えるという側面をもっている。

 もう一つが、ラダー運用だ。短期の債券運用を繰り返すことによって毎年債券が満期を迎え、金利を柔軟に活用したり、利回りのよい長期債へ投資したりといった、“投資の循環”が実現でき、各局課の資金需要に柔軟に対応することを可能としている。

 このように、金利の確保と再投資の循環によって元本を確保し効率的な利回りを追求しているのが品川区の債券運用の特徴といえよう。

品川区が投資表明をしている債券一覧(令和5年度以降)

No. SDGs債 債名 発行体 投資表明日
1 ソーシャルボンド 日本学生支援機構債 独立行政法人日本学生支援機構 令和5年9月7日
2 ソーシャルボンド 西日本高速道路債 西日本高速道路株式会社 令和5年10月13日
3 ソーシャルボンド 中部国際空港債 中部国際空港株式会社 令和6年2月22日
4 ソーシャルボンド 首都高速道路債 首都高速道路株式会社 令和6年2月22日
5 ソーシャルボンド 東京ソーシャルボンド 東京都 令和6年7月5日
6 グリーンボンド グリーンボンド 兵庫県 令和6年7月17日
7 ソーシャルボンド 西日本高速道路債 西日本高速道路株式会社 令和6年12月12日
8 ソーシャルボンド 東日本高速道路債 東日本高速道路株式会社 令和7年7月31日
9 ソーシャルボンド 西日本高速道路債 西日本高速道路株式会社 令和7年10月17日
10 ソーシャルボンド 国際協力機構債券 独立行政法人国際協力機構 令和8年8月24日

令和8年8月31日現在

○大和証券 担当者より
品川区様は、基金ごとの性質や将来の資金需要を踏まえ、安全性・流動性を確保しながら収益性の向上を図る運用を実践されています。特に、年度予約等の柔軟な運用手法を活用し、市場環境や資金需要の変化に対応しながら運用計画を着実に遂行している点が特徴です。
こうした取組は多くの自治体にとって参考となる事例であり、大和証券としても各自治体の基金特性や運用方針に応じた情報提供を通じ、効果的な資金運用を支援してまいります。

 

安全性、流動性、効率性そして収益性で堅実な運用

 緻密で柔軟な債券運用を進める品川区だが、その特徴は、「安全性と基金の性格に応じた効率的な運用」であると会計管理室資金担当主査の大貫文子さんは言う。

 安全性の確保については、国債、地方債など確実性の高い債券を中心に選定し、運用効率については、所管部局の事業展開に合わせた基金の積立や取り崩しに対応し、必要な時に現金化できるような運用を行っている。また、財政調整基金など、緊急出動が求められるものには現金比率を高くする一方、事業化などのための資金調達として、基金の多くを短期債等に投入し金利動向を見据えた運用を行うことで、元本割れを起こさず、金利による収益を最大化する工夫も行われている。

 この「安全性」「流動性」「効率性」、さらには「収益性」が品川区の債券運用を特徴付けるキーワードとなっているようだ。

 このような運用を可能にしている背景には、金融政策の変更により、金利上昇となっている状況がある。以前は10年債でなければ利率がとれなかったが、現在では2年債でも1.5%程度の利率がとれる銘柄も増えてきた。このことにより、運用益を見据えた短期の投資ができるようになり、区の事業動向などに応じた柔軟な運用が可能となってきた。

 また、品川区の債券運用を支える基盤として、財政の“体力”の強さも指摘できよう。

 同区では、令和6年度の区債残高は144億円で、東京都23区平均の210億円を大きく下回っている(品川区HP「令和6年度決算のあらまし」)。また、同区では、一般会計、特別会計等すべての会計で黒字となっており、借金や退職手当予定額など自治体が将来に持つ負債である将来負担比率もゼロ以下となっている。こうした盤石な財政状況もダイナミックな運用を支えている。

品川区会計管理室資金担当主査・大貫文子さんの写真
品川区会計管理室資金担当主査・大貫文子さん。

証券会社を伴走者に資金活用

 こうした自治体における債券運用には、証券会社などプロのサポートは欠かせない。

 大和証券では、品川区の年間運用計画の進捗状況について逐次聞き取りをしながら、同区のニーズに合った債券の起債見通しを伝えたり、年度予約やバッファーオーダー(オーダー額に対して部分的な金額を確約することでより大きな金額を確保できる方法)など、通常手続とは違う手法も提案し、運用計画の完遂をサポートしている。

 また、大貫さんによると、発行体のIRを受ける機会を案内してもらえることもメリットという。

 これは、発行体が直接投資家などに自らの財務状況や事業戦略について情報提供するための説明会で、これにより「発行体と直接コミュニケーションがとれることで、発行体への理解が深まり、債券購入を検討する上で大変参考になっています」(大貫さん)とのことだ。

 このような自治体へのサポートについては、「自治体ごとに資金の性格や運用方針が異なるので、他自治体の運用動向やマーケット動向などを含めた情報提供を行いながら、その自治体に合った運用を一緒になって検討していくことが、証券会社として重要なことと考えています」と阿部さんは言う。複雑な世界情勢などもあり、債券運用を取り巻く状況変化も激しくなっていることを踏まえ、「これまで以上に情報収集の重要性が増してくる。今後とも最新の情報提供をお願いしたい」と大貫さんは“伴走者”に向けた期待を語った。

大和証券(株)公共法人部次長・阿部咲子さんの写真
大和証券(株)公共法人部次長・阿部咲子さん。

資金担当は学びの連続

 大貫さんは、令和5年、会計管理室に異動し資金担当となった。通常の役所業務とは異なるため、これまでの経験や前職の知見は役に立たない上に、赴任早々、証券会社の担当者から「金利変動の時代に入り、今までの方法では債券を購入するのは難しい」と言われた。そこで、証券会社の研修や情報提供を通じて、債券運用について一から勉強し、実務を通じて市場動向や債券購入の様々な手法を学んだ。「銘柄や条件によって買い方は変わってきます。日々更新される情報に対しどのような購入方法をとるかの判断は重要。常に情報に追いついていくよう勉強は欠かせません」。

 そんな大貫さんだが、「計画通り運用を行えた時が一番達成感を感じます」とのこと。試行錯誤の積み重ねが、現在の品川区の債券運用を支えている。

主体的な取捨選択が鍵となる自治体の資金運用

 大貫さんに今後の抱負を聞くと「高い金利を背景に、基金運用における債券投資の有効性は高まっています。自治体として安全性や流動性を前提に、今後も信用性の高い発行体を中心に、基金の性質や資金需要に応じた運用をしていきたい」との答えが返ってきた。

 資金運用担当としては「証券会社からの助言や提案は不可欠ですが、すべてを受け入れるのではなくて、自治体としてできることできないことを考えて取捨選択することが大事」と語った。

 公共施設の老朽化、大規模災害への備えなど財政需要が増加する中で、収益性を見据えた戦略的な債券運用の取組は今後も続く。

上田真理子さん、大貫文子さん、阿部咲子さんの写真
(左から)品川区会計管理室資金担当付主査・上田真理子さん、同会計管理室資金担当主査・大貫文子さん、大和証券(株)・阿部咲子さん。

 

もっと詳しくクローズアップ!

 

【企画提供(大和証券株式会社)】
 円貨建て債券を募集・売出し等により、又は当社との相対取引により売買する場合は、その対価(購入対価・売却対価)のみを受払いいただきます。円貨建て債券の価格は金利変動等により上下いたしますので、途中売却する場合には損失が生じるおそれがあります。円貨建て債券の発行者または保証者の業務又は財務状況等の変化およびそれらに関する外部評価の変化等により、損失が生じるおそれがあります。お取引に当たっては、目論見書、債券内容説明書、契約締結前交付書面等を十分にお読みください。目論見書等のご請求は大和証券まで。

加入協会:
日本証券業協会、一般社団法人日本投資顧問業協会、一般社団法人金融先物取引業協会、一般社団法人第二種金融商品取引業協会、一般社団法人日本STO協会

商号等:
大和証券株式会社 金融商品取引業者 関東財務局長(金商)第108号

<問い合わせ先>
 大和証券株式会社 03-5555-2111

 

★「自治体債券運用のイマ」は「月刊 地方財務」で連載中です。本誌はこちらからチェック!

月刊 地方財務 2026年10月号

月刊 地方財務 2026年10月号
特集:2027年度省庁別重点施策をよむ
編著者名:ぎょうせい/編
販売価格:1,870 円(税込み)
詳細はこちら ≫

 

≪ 前の記事 連載一覧へ

アンケート

この記事をシェアする

  • Facebook
  • LINE

すぐに役立つコンテンツ満載!

地方自治、行政、教育など、
分野ごとに厳選情報を配信。

無料のメルマガ会員募集中

関連記事

すぐに役立つコンテンツ満載!

地方自治、行政、教育など、
分野ごとに厳選情報を配信。

無料のメルマガ会員募集中

月刊「地方財務」

月刊「地方財務」

閉じる