
事例紹介
事例紹介▶︎宝塚市 (兵庫県)「ひとづくり」から始める自治体DX
NEW地方自治
2026.10.21
目次
この記事は5分くらいで読めます。
★「事例紹介」は「月刊 J-LIS」で連載中です。本誌はこちらからチェック!

月刊 J−LIS 2026年7月号
特集:DXを成功させる組織づくりと人材育成 編著者名:ぎょうせい/編
販売価格:990 円(税込み)
詳細はこちら ≫
この資料は、地方公共団体情報システム機構発行「月刊 J-LIS」2026年7月号に掲載された記事を使用しております。
なお、使用に当たっては、地方公共団体情報システム機構の承諾のもと使用しております。
事例紹介 宝塚市(兵庫県)
「ひとづくり」から始める自治体DX
宝塚市企画経営部課長(経営改革推進担当)吉川 達
宝塚市総務部情報政策課係長 蘆田 知也

自治体DXというと、多くの職場でまず話題に上がるのは、システム導入や新たなデジタルツールです。
しかし、ツールを導入しただけで業務が変わるわけではありません。現場の課題を見つけ、目指すべき業務フローを描き、その実現に有用な手段であれば、デジタル技術を活用する。この順番を守らなければ、DXは単なるデジタル化で終わってしまいます。
宝塚市が重視してきたのも、まさにこの点です。本市では、「データ利活用」と「業務改革」をDX推進の両輪としながら、その中心に「ひとづくり」を据えてきました。課題解決を軸にしたゼミで変革を担う人材を育て、その人材を実践の場であるDX推進ワーキンググループSHIFT1)へつなぎ、さらに全庁へ広げていく。こうした循環によって、DXを一部の職員の取り組みから組織全体の動きへと変えていこうとしています。
1)DX推進ワーキンググループSHIFT:庁内公募で組織した部局横断のチーム。原課からの業務課題に関する相談やその解決へ向けた伴走支援などを実施。『推せるまち たからづかDXであなたの毎日をHAPPYに(特に月曜日)』をビジョンに掲げ取り組む。
一部の挑戦で終わらせないために
宝塚市は、DX推進ビジョンを掲げ、その実現に向けて取り組みを進めています(図-1)。
図-1 宝塚市が掲げるDX推進ビジョンの概要

これまで本市では、「データ利活用」と「業務改革」を進める先行チームを組成し、現場に寄り添いながら、スモールスタートで改善を積み重ねてきました。一方で、こうした先行的な活動には、一部の意欲ある職員へ負荷が集中しやすいという課題がありました。
当初は、先行チームのメンバーを毎年募集して新たなメンバーを加え、チーム卒業生が各部署でDXの中核人材として役割を果たす、そうした循環を目指していました。ところが、新規メンバーを募集した際、応募はありませんでした。周囲の職員には、先行チームが高度なことを進めているように映り、「自分には難しい」「一部の先駆者が進めるものだ」と受け止められていたのです。
このままでは、取り組みを組織全体の力に変えることはできません。担当者が異動すれば取り組みが停滞しやすくなり、改善の知見も組織に蓄積しにくくなります。そこで本市は、特定の人の頑張りに頼るのではなく、変革を担う人材を広げ、挑戦の裾野を拡大する必要があると考えました。そして、DX推進の土台として「ひとづくり」を据えることにしたのです。
「自分にもできそう」と思える仕組みこそが第一歩
本市が重視したのは、いわゆる「デジタル人材」を狭い意味で育てることではありません。育てようとしたのは、現場の課題を捉え、業務のあり方を見直し、変革を前へ進める人材です。ここに、宝塚市のDX推進の特徴があります。
そのきっかけとして企画・実施したのが、ビジネススキルアップゼミ2)です。このゼミは、単なるツール研修ではありません。目指したのは、課題そのものを解決する力を養うことです。問題の明確化、原因の特定、課題の設定、アプローチの検討といった課題解決に必要な思考を研修の基盤に据えました。どのツールを導入するかではなく、まず何を、なぜ変えるのかを明確にし、その上で手段を選ぶ。この考え方こそがゼミで大切にしていることです。
2)ビジネススキルアップゼミ:日本DX大賞2025ポスターセッションで優秀賞を受賞。
ここで重要だったのは、募集の段階から「高度なDX人材の募集」という打ち出し方を避け、職員が自分ごととして参加を考えられる入口を作ったことです。実際の募集資料では職員の目線に立ち、「自分にも関係がある」「ちょっと受けてみようかな」と思えるよう工夫しました。何かに取り組みたくても一歩を踏み出せない職員に寄り添い、参加への心理的ハードルを下げることを意識しました(図-2)。
図-2 ビジネススキルアップゼミ募集資料①

この打ち出しの転換は、成果につながりました。先行チームへの公募では応募がなかった一方で、初回となる2024年度のゼミには18名が参加しました。ゼミは、参加者のスキルアップや所属を越えた人脈づくりを後押しするとともに、学びを進める中で浮かび上がった自らの業務課題を、実際の業務改革へとつなげ、解決に結びつけることができました。さらに、修了後には12名の職員が先行チームへ合流しました。こうした取り組みを単年度で終わらせるのではなく、2025年度には11名が参加し、2026年度も継続実施を予定しています。変革につながる人材を育て続ける仕組みとして、市に根付かせようとしているところです。
段階的に学び、実践へつなげる仕組み
募集段階で関心を集めるだけでは、継続的な参加や成長にはつながりません。大切なのは、「自分にもできそうだ」「ここなら安心して挑戦できそうだ」と感じてもらうことです。そこで本市は、ゼミが安心して参加でき、段階的にスキルアップしていける場であることを、参加者への案内の段階から丁寧に伝えました(図-3)。
図-3 ビジネススキルアップゼミ募集資料②

ゼミではまず、課題を設定し、その課題を深掘りしていくプロセスを通じて、課題発見や整理・検討に必要なビジネススキルを体系的に学びます。その上で洗い出した課題を解決する手段として、必要なツールスキル(ノーコードツール、生成AIツール、表計算ツール、プレゼンテーションツール、BIツールなど)を身に付けていきます。つまり、課題を明らかにするビジネススキルと、解決策を具体化するツールスキルを学ぶ構成です。
こうした取り組みを進めるにあたっては、SHIFTや業務改革推進担当・経営改革推進担当が伴走し、課題解決に向けた困りごとに対応する体制も整えています。月1~2回程度の研修に加え、欠席時のフォローも行い、本来業務と両立しながら学び続けられるよう工夫しています。メンターや事務局による支援に加え、チャットツールやホワイトボードツールで情報共有を行うことで、ゼミ生同士がつながりながら取り組める仕組みも用意しています。
さらに、ゼミのプログラムを修了した職員は、希望に応じてSHIFTへとつながっていきます。学びを学びのままで終わらせず、実践へと直結させるためです。ゼミで育った人材が、今度は現場の課題解決を支える側に回ることで、庁内の変革は着実に広がっていきます。
送り出す側も支える側も、ともに評価される仕組みへ
とはいえ、ビジネススキルアップゼミにおける個人の挑戦も、組織として支える仕組みがなければ長続きしません。そこで本市は、挑戦を制度で後押しする推進体制を構築しました。
ゼミでは、CXO補佐官3)が1on1の実施や研修講師を担い、業務改革推進担当・経営改革推進担当が企画・運営やメンター・研修講師・ゼミ全体への伴走支援を担います。さらに、人材育成課がその取り組みを人事評価制度に反映する役割を担い、育成・実践・制度を切り離さず、それぞれの役割分担を明確にしています。
3)CXO補佐官:CXO(Chief Transformation Officer:変革推進最高責任者)である副市長の補佐官。宝塚市では2022年度より外部人材を登用している。
とりわけ重要なのは、参加者本人だけでなく、所属長や所属課の職員も含めて職場全体で支える体制を整えたことです。本市は募集の段階で、ゼミへの参加が人事評価に反映されるだけでなく、所属長は課員の育成を支援する点を、所属課の職員はゼミ生が不在となる時間の業務をチームとして補う点を、それぞれ評価対象とすることを明記しました。こうして、挑戦する本人に加え、送り出す側・支える側にも意義を持たせ、職場全体で支える仕組みとしています。
また、ゼミ生の支援体制として、CXO補佐官によるキャリアカウンセリングに加え、SHIFTのメンバーによるメンター制度も整えました。受講中の不安や課題に対応しながら、学びを実践へとつなげる後押しをしています。
個人の挑戦を、全庁の力へ
ここまで記したように、本市は、「関心を持ってもらう」「安心して学べる」「実践につなげる」「制度で支える」という流れを、一つの仕組みとして組み立ててきました。そしてこの取り組みは、DXを一部の職員だけの活動にとどめるのではなく、前向きに課題へ向き合う人材を育て、その人材が全庁横断的な業務課題に伴走していく活動へと発展しています。
最初は、「少し学んでみようかな」と思える入口から始まります。そこから実践の場へつなぎ、さらに制度で支えることで、個人の挑戦は組織の力へと変わっていきます。本市が形にしてきたのは、まさにその流れです。
もちろん、今後の課題もあります。自治体では、前向きな挑戦や成果が、必ずしも職員のエンゲージメント(仕事への意欲や職場への愛着)向上に結び付くとは限りません。DXを持続可能なものにするには、人材育成に加え、やりがいに報いる組織としての仕組みも必要です。「ひとづくり」を軸とした取り組みは、人事や組織経営の改革と結び付いてこそ、本当の意味で定着していきます。
それでも、本市の取り組みは着実に次の段階へ進んでいます。今後も、SHIFT・ビジネススキルアップゼミ・外部人材であるCXO補佐官の3者が連携し、全庁という歯車を回しながら、DX推進の両輪であるデータ利活用と業務改革を前へ進めていきます(図-4)。人を育て、実践につなぎ、それを制度で支える。その積み重ねが、本市のDXを一過性の取り組みではなく、組織全体で持続する変革へと育てていきます。そして、課題を捉え変革を担う人材は、AX4)の時代にあっても、変わらぬ土台となるはずです。
4)AX:AIトランスフォーメーション。AIを活用して業務や組織を変革する取り組み。DXの次の段階として注目されている。
図-4 DXを支える推進体制のイメージ

Profile
吉川 達 きっかわ・とおる
民間企業で8年間、半導体製品のフロントエンド設計に従事後、2016年度に入庁。2019年度より、経営改革推進のほか、BPRやデータ利活用の推進、推進チーム組成、ビジネススキルアップゼミなどの仕組み構築・運営に携わる。2026年度より現職。
蘆田 知也 あしだ・ともや
民間企業で7年間、食品メーカーの営業職として勤務後、2017年度に入庁。2023年度より業務改革推進課で、BPRの推進、SHIFTやビジネススキルアップゼミの運営に携わる。組織改編に伴い2026年度より現職。
★「事例紹介」は「月刊 J-LIS」で連載中です。本誌はこちらからチェック!

月刊 J−LIS 2026年7月号
特集:DXを成功させる組織づくりと人材育成 編著者名:ぎょうせい/編
販売価格:990 円(税込み)
詳細はこちら ≫





















