
事例紹介
事例紹介▶︎葛飾区(東京都) 全国初! AIが窓口対応を変える~行政特化型AIエージェントシステム導入への挑戦~
地方自治
2026.07.08
目次
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この資料は、地方公共団体情報システム機構発行「月刊 J-LIS」2026年5月号に掲載された記事を使用しております。
なお、使用に当たっては、地方公共団体情報システム機構の承諾のもと使用しております。
事例紹介 葛飾区(東京都)
全国初! AIが窓口対応を変える
~行政特化型AIエージェントシステム導入への挑戦~
特集 AI活用で広がる自治体DXの新展開
葛飾区政策経営部DX 戦略課

葛飾区生成AI を導入するに至った背景・経緯
2022年11月にOpenAI社が「ChatGPT」を発表して以降、多くの人々が生成AIを利用するようになりました。サービス開始後、わずか5日で利用者数が100万人を超えたとも言われています。こうした社会的動向を受け、「葛飾区においてもChatGPTを業務で活用できないか」とのトップダウンによる検討指示がありました。
検討にあたり、サービス利用型の生成AIを導入し、デジタル推進担当課(現DX戦略課)が所属する政策経営部で試行を行いました。試行参加者に「生成AIに対する要望・改善点」を尋ねたところ、「葛飾区に関する質問に回答できなかったり、事実と異なる回答を生成したりしてしまう。葛飾区の情報を踏まえた回答をしてほしい。」といった意見が多く寄せられました。これらの結果から、葛飾区の情報を踏まえて回答が可能な、葛飾区独自の生成AI「かつしかChat」を構築することとしました。
(図-1)が、葛飾区生成AIにログインした後の画面です。「Chat」は通常のChatGPTのように一般的なやり取りができるものとなっています。一方、「かつしかChat」には区の例規集、基本計画及び議会議事録などの区独自の情報を取り込んでおり、これらの情報を踏まえて回答を生成することができます。「かつしかChat」は、①資料・マニュアルの問い合わせ、②議会議事録の抽出、③起案文書の作成・添削、④PR文の作成、⑤過去の事業施策の課題検討、⑥関連文書を踏まえた新施策提案の六つの用途から適切なパネルを選択して利用します。「かつしかChat」では、利用者の入力したプロンプトを「葛飾区生成AI」のシステムであらかじめ用意している用途ごとのプロンプトテンプレートに埋め込んで、生成AIに問い合わせを行います。
図-1 葛飾区生成AI利用画面①

「資料・マニュアルの問い合わせ」以外の五つの用途については、特定の用途に特化したプロンプトテンプレートを用意しており、利用者は最低限のプロンプト入力で利用できるようにしています。
「資料・マニュアルの問い合わせ」では、用途を指定していないため、比較的自由に文章の生成を指示することが可能になります。
ハルシネーション対策・セキュリティについて
「かつしかChat」は、 RAG1)を利用した内部文書を参照し、その文書を根拠として提示することで、ハルシネーション対策をとるとともに、バイアス、著作権侵害といったリスクを回避することができると考えています(図-2)。
1) 「RAG」とは、「Retrieval-Augmented Generation」の略で、生成AIが外部データベースや知識ベースから必要な情報を検索し、その情報をもとに回答や文章を生成する技術のこと。
図-2 葛飾区生成AI利用画面②

質問を入力する(①)と、画面左側に回答が表示される(②)。右側にナレッジ詳細が表示され、特に該当する部分の背景に色がつく(③)。答えと同時に根拠を示し、ハルシネーション等のリスクを防ぐ仕組み。
また、「生成された回答について最後に職員自身の目で確認すること」など、注意点をまとめた「葛飾区生成AI利用ガイドライン」を策定しました。誤った情報(偽情報)やバイアス、著作権侵害といったリスクが内包されることについて記載しており、ガイドラインを順守するよう職員に周知しています。また、個人情報漏洩の対策としては、前述のガイドライン順守のほか、Azure OpenAI Serviceのオプトアウト(入力情報を学習目的で再利用しない)申請を行っています。
職員への研修や利活用促進についての実施
2023年11月には、「葛飾区生成AI利用ガイドライン」に基づく研修を実施しました。また、2024年度及び2025年度には、新規採用職員必修の研修において、生成AIの概要や活用事例を紹介するなど、生成AIを業務で活用できる職員の育成に取り組んでいます。さらに、2024年11月には「葛飾区生成AI活用事例集」を作成し、通常のChatGPTの活用事例に加え、「かつしかChat」におけるユースケースを取りまとめ、全職員が業務において積極的に活用できるよう周知を行っています。
しかし、積極的に利用する職員は安定して活用する一方で、なかなか新規利用者の利用率が伸びていかない現状がありました。その理由として、上記活用事例集は多くの情報が網羅されているものの、分量も多く、新しいツールへの抵抗感がある職員にとっては、活用のハードルが高いのではないかという懸念がありました。そのため、生成AIの効果的な活用方法について、イラストやイメージ画面を多く用い、わかりやすく、よりコンパクトな形で紹介する庁内報「生成AIの秘密基地」を発行し、2週間に1回ほどのペースで周知することを始めました(図-3)。2026年2月から開始し、今後も定期的に発行していく予定です。
図-3 庁内報「生成AIの秘密基地」イメージ

区民サービス向上に係る取り組み
(1)かつしかChat(窓口対応版)の導入
葛飾区生成AIの次の展開として、窓口職場において若手職員とベテラン職員の間で対応レベルに差が生じているという課題に対し、生成AIを効果的に活用することで区民サービスの向上に取り組めないか検討を開始しました。具体的には、窓口職場で扱っている業務手引きや業務マニュアルに加え、出版社が発行している専門書籍などのデータを生成AIに登録し、来庁した区民からの相談内容を入力し、生成された回答を踏まえて職員が適切に応対できる仕組みについて検証を行いました。検証にあたっては株式会社ぎょうせいと、葛飾区生成AI環境の保守委託事業者であるNTTアドバンステクノロジ株式会社と秘密保持契約を締結し、戸籍住民課及び区民事務所職員に、よくある問い合わせを入力してもらう形で実施しました。検証結果としては、問い合わせによってそもそも投入したマニュアルに回答がなかったり、職員と書籍の間で用語の表記が異なる場合があり、誤った回答を生成することがありましたが、その結果を踏まえ事業者にチューニング作業を行ってもらい、2025年7月に「かつしかChat(窓口対応版)」として全庁に向けてリリースしました。
(2)行政特化型AIエージェントシステム2)
2) 窓口でのやり取りに音声認識による業務AIを取り入れた事例及び行政事務の出版物を窓口音声認識による業務AIに取り入れた事例としては全国初(葛飾区の調査による)。
葛飾区「令和7年度第2回 区長定例記者会見」(令和7年9月3日)
https://www.city.katsushika.lg.jp/_res/projects/default_project/_page_/001/039/745/r7syuzaimemo2.pdf
「かつしかChat(窓口対応版)」の運用開始により、窓口で応対する若手職員が先輩職員に確認したり、マニュアルを参照したりするためにバックヤードへ戻る時間を短縮できるなどの効果が見込まれています。一方で、窓口でキーボード入力を行う場合、来庁者と会話をしながら生成AIへの入力を行わなければならないことから、入力ミスや聞き漏れが生じる可能性があるほか、入力に時間を要してしまうことも想定されました。
そこで次の段階として、窓口にマイクを設置し、区民との対話音声をそのまま生成AIに入力できる仕組みを導入することで、さらなる窓口対応時間の短縮を図る行政特化型AIエージェントシステムの検討を進めています(図-4)。2025年9月に戸籍住民課、2026年1月に子育て応援課において実証実験を実施し、その結果を踏まえ、2026年6月の本格導入を目指しています。
図-4 行政特化型AIエージェントシステムイメージ

課題と今後の展望
行政特化型AIエージェントシステムの実証実験では、利用した職員から、「窓口での対話内容をAIが要約してくれるため、複数の疑問点や確認事項に対する回答をまとめて確認できる点が助かる」といった声や、「複数のマニュアルを同時に検索し、回答を即座に作成してくれる点が助かる」といった肯定的な意見が寄せられました。
一方で、「窓口での対話をマイクが十分に認識しない場合がある」といった声や、「短い単語による確認のやり取りが多く、長文で質問する機会が少ないため、要約した質問を送信する意味をあまり感じない」といった意見もありました。
これらの結果から、そもそものマイクの認識精度の向上や、「短い単語による確認のやり取りが多い窓口部署」にも適した活用方法の検討、もしくは「ある程度時間をかけた相談が寄せられるような窓口部署」に対して導入を検討するなど、引き続き改善すべき課題があると認識しています。
行政特化型AIエージェントシステムについては、将来的にすべての窓口部署への設置を目指していますが、まずは来年度の本格導入に向け、実証実験において戸籍住民課及び子育て応援課から寄せられた意見を反映しながら、段階的に取扱窓口を拡大していく考えです。特に、「専門外の職員が一次受付を行う部署」や「相談履歴を残しておく必要がある部署」において需要が高いことが明らかとなったことから、今後は子育て分野や福祉分野の窓口での活用が有効であると考えています。
また、葛飾区生成AIに投入する資料についても、今後拡大していければと考えています。書籍によって著作権者への許可を取る必要があることや、文書だけでなくフローチャートや図表などを学習させることの難しさなど、資料を増やしていくことへの課題もあり、一つずつ調整を進めながら、より多くの部署で使用できるツールに育てていければと考えています。
特に生成AIについては、常に新しいモデルが発表されるなど、進化のスピードが速く、日々目まぐるしく状況が変わる現状にあります。職員や部署によっては、日々の業務に追われ、新たなツールを活用することに対し抵抗感があることも往々としてありますが、「まずはやってみる。その中で試行錯誤して改善を図っていく。」という視点を持って、今後も生成AIを活用した業務改善に取り組んでいきたいと考えています。
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