寺本英仁の地域の“逸材”を探して
寺本英仁の地域の“逸材”を探して 第6回|県産食材にこだわった古民家イタリアン【PizzeriaGufo(栃木県塩谷町)】
地方自治
2025.09.01

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出典書籍:月刊『ガバナンス』2025年9月号 【WEB限定連載】
◆「いつか」でなく「今」始める
今回ご紹介するのは、栃木県塩谷町でイタリアンレストランPizzeriaGufo(ピッツェリアグーフォ)を開業した高村夫妻だ。


PizzeriaGufoを営む高村夫妻。
夫の高村亮さんは、早稲田大学で建築を学んだバリバリの理系脳の持ち主。卒業後は首都圏でサラーリマンをしていたそうだが、2011年の東日本大震災をきっかけに、「一度きりの人生、したいことがあればしたほうがいい。いつかやるんじゃなくて、今やろう」と、一念発起。28歳で料理人の世界に飛び込んだそうだ。
未経験でも比較的求人が多かったイタリアンを選び、銀座・新宿・大宮・浦和など、複数の店舗で10年間修行を積んだ。2014年に桂子さんと結婚したことをきっかけに桂子さんの実家がある塩谷町を訪れた際、天井の梁が黒くて太いことに驚き、ここで飲食店を開きたいと考えたという。そうして、塩谷町への移住を決意したそうだ。
印象的な天井の梁は、店の内装に生かされている。
しかし、塩谷町でいきなり飲食店を開業することは、様々な面でハードルが高かった。いろいろと悩む中、町で有機農業を推進する地域おこし協力隊が公募されていることを知り、応募したそうだ。
僕は、彼へのインタビューの中で、「『有機農業』という募集テーマは、飲食店の開業を目指す高村さんの目的とは少しズレているのではないか」と尋ねた。すると高村さんは、「有機農業の推進を行ううえで、販路(出口)の部分は絶対必要になると考え、料理人である自分を町に積極的にPRした」と自信を持って回答した。
地域おこし協力隊の応募時には、料理人としての強みをアピールしたという亮さん。
◆町の魅力を循環させる
僕も邑南町役場職員時代、「A級グルメ構想」を掲げた際に、軸に置いたのは総務省の地域おこし協力隊制度を活用した「耕すシェフ」の研修制度であった。
地方の自治体の基幹産業の多くは農業で、生産者の支援メニューはたくさん用意がある。だが結局、農産物が生産されたときの販路に、手をこまねいているケースが非常に多く、邑南町も当時、例外ではなかった。それならば、わざわざ都会へと物量の少ない産品を出荷するより、町の中に飲食店を開き、その飲食店が地元の農産物を直接購入するほうが効率的ではないか、というシンプルな発想に至ったのだ。
僕も頭の中は理系脳で、物事にシンプルさと効率性を求めてしまうので、高村さんも同じ思考だと感じて少し嬉しくなった。そして、このシンプルな逆提案を受け入れた塩谷町も、僕は凄いと思った。高村さん曰く「その当時、自分を含めて2人が採用されたが、もう1人の彼が本気で有機農業の生産を学びたいと希望していたので、僕も採用されたのだと思う」と、当時を冷静に分析していた。
それから、2年間、塩谷町の地域おこし協力隊として有機農業の推進を目的に活動をしていたそうだが、町の人から「いつ店をオープンするのか」と尋ねられることが次第に多くなり、任期の3年を待たずして、2年で協力隊を終了。妻の実家を改修して、店舗をオープンした。
お店の内装には建築を学んだ経験が存分に生かされており、さすがの印象だ。特徴ある柱を際立たせることを大前提に、和モダンを上手に演出している。古民家好きにはたまらない空間であると感じた。
料理も、ニラを使ったピザが特徴的で、栃木県、宇都宮の代表的料理である餃子を上手くイタリアン風にアレンジしている。「栃木に来たな」と、県外から訪れた僕を大満足させた。
見た目にも美しい料理の数々。
地域に根づいた食材を、既存の調理法の枠に縛られることなく、おいしい法則のレシピで挑む高村シェフと、あたたかい雰囲気で接客してくれる桂子さん、そして、滞在時間を忘れてしまうほど落ち着く古民家のたたずまいに、全国から多くの人に足を運んでほしいと感じた。
おいしい料理はもちろん、2人のあたたかい人柄、店の雰囲気あるたたずまいも大きな魅力だ。
●PizzeriaGufo(※完全予約制)
住所:栃木県塩谷郡塩谷町熊ノ木478
TEL:090-8305-8342
公式HP:https://pizzeria-gufo.owst.jp/
Instagram公式アカウント:

著者プロフィール
寺本英仁(てらもと・えいじ)
㈱Local Governance代表取締役
1971年島根県生まれ。東京農業大学卒業後、石見町役場(現邑南町)に入庁。「A級グルメ」の仕掛け人として、ネットショップ、イタリアンレストラン、食の学校、耕すシェフの研修制度を手掛ける。NHK「プロフェショナル仕事の流儀」で紹介される。著書に『ビレッジプライド~「0円起業」の町をつくった公務員の物語』、藻谷浩介氏との対談本『東京脱出論』など。22年3月末で役場を退職し、㈱Local Governance 代表取締役に就任。海と食を旅する地方創生プロデューサーとして活動中。
★この記事は、月刊「ガバナンス」のWeb限定連載です。本誌はこちらからチェック!

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