【特別企画】ペーパーレスを組織文化にする金沢市の実践とDX推進のポイント

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2025.09.01

★この記事は、月刊「ガバナンス」2025年9月号に掲載されています。本誌はこちらからチェック!

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【特別企画】
ペーパーレスを組織文化にする金沢市の実践とDX推進のポイント


多くの自治体がDXに取り組む中、狙い通りの成果が出ないといった声も多く聞かれる。全国でも有数の「DX先進自治体」である石川県金沢市では、19年度からDXを段階的に進めてきた。デジタル活用による業務効率化をはじめフリーアドレスの導入、ペーパーレス原則への転換など様々な取組みの結果、職員の働き方や庁内の様子は大きく様変わりした。市ではどのようなビジョンでDXに取り組み、成果を出してきたのか。DX推進における重要ポイントを、都市政策局デジタル政策課・担当課長兼課長補佐の北野大介さんに取材した。

■市が抱える課題とDX推進計画

 まず、金沢市が抱える課題とDXに取り組んだ経緯について尋ねた。「我が国では少子高齢化による労働力不足が進行し、自治体職員の確保が難しくなると予想されます。市ではそうした事態に備えて、2019年度に『金沢市ICT活用推進計画』を策定し、22年度までの4年間で、情報通信技術(ICT)を活用した行政サービスの効率化を進め、市民の利便性向上に繋げる取組みを始めました」(以下、「」は北野さん)

 ところが、20年にコロナ禍が始まり、リモートワークや非接触による行政サービスの提供などが喫緊の課題となった。これに対応するため、市では計画を見直し、21年3月に「金沢市デジタル戦略」を打ち出す。21年度からの2年という短期間で集中的にデジタル化を進める計画だ。

「これまでシステム部署である情報政策課がICTを主導してきましたが、新計画でDXを推進するにあたり、デジタル行政戦略課が発足しました。DXの「X」は変革を意味することから、情報システムの知見だけでなく行政改革の視点も必要であると考え、行政経営課と合体したのです。そして、市長をトップとするデジタル戦略推進本部が組織され、有識者や民間企業と連携しながら急ピッチでDXを進めていきました」

 23年度には新たな計画「金沢市DXアクションプラン」がスタート。産業・地域・文化・教育の4分野で重点的なデジタル化施策が展開されている(図参照)

図 「金沢市DXアクションプラン(2025年2月改訂版)」より
図 「金沢市DXアクションプラン(2025年2月改訂版)」より

■フリーアドレスの導入でペーパーレスが促進

 様々な取組みがある中で、本稿では金沢市のデジタル化においてStage1に位置づけられる「金沢市デジタル戦略」において重点施策とされた「ペーパーレス原則への転換」に注目したい。市では23年度実績(前年度比)で紙使用量を513万枚削減することに成功している。どのような取組みをしたのだろうか。

「2020年の第2庁舎完成に合わせて、フリーアドレスを導入したことが大きな転機となりました。固定の事務机や棚をなくし、自由に席を選ぶことで職員間のコミュニケーション促進を図ったのですが、これが結果的にペーパーレスに繋がりました。フリーアドレスでは引き出しのない机と小さなロッカーしかないので、物理的に書類を置いておくことができません。不要な紙は処分し、必要な書類は電子化して保存することになります。各課にドキュメントスキャナーを配置したことで、書類の電子化が捗りました」

 ちなみに、各部局の紙削減率・量を見える化して比較できるようにしたり、ある課では書類棚をなくす“キャビネットゼロ作戦”をしたりなどの工夫も見られたそうだ。

 ペーパーレスが進まない課については、デジタル行政戦略課が相談に乗り、アドバイスを行った。また、もともとプリンターとコピー機があった課では、ペーパーレス化に伴い印刷頻度が下がることを見越して、複合機に機能を集約した。

 それ以外にも、大型モニターを導入して資料を投影することで「ペーパーレス会議」を実現したり、決裁や財務のシステムを電子決裁対応のものに入れ替えるなどした。このように、様々な取組みを組み合わせることで、庁内全体が「ペーパーレスが当たり前」の文化になってきたと北野さんは言う。

金沢市都市政策局デジタル政策課・担当課長兼課長補佐の北野大介さん。
金沢市都市政策局デジタル政策課・担当課長兼課長補佐の北野大介さん。

■DX推進のポイント1:人材育成

 ただし、ペーパーレスもDXも継続して定着させることが重要だ。そのためにはDX人材の育成が不可欠となる。市では全職員向けとリーダー向けの2つの研修を実施。全職員に向けた研修ではデジタル用語の解説やExcel・Wordの使い方など基本から学び、組織全体のITリテラシーの底上げを目指す。

 デジタル行政推進リーダー育成では、自主学習も含めて年間100時間の研修が行われる。集合研修ではツールの使い方などの実践的なスキルからDXの考え方、BPR、デザイン思考までを幅広く養う。

「年間20人、5年で100人のリーダーを育成する計画で、今年度で目標達成の見込みです。育成されたリーダーは既に各課でDXを推進する役割を担っており、リーダーが開発したアプリによる業務効率化などの実績も現れてきています」

■DX推進のポイント2:強いリーダーシップ

 他にも、市がDXで躍進できたポイントが2つある。1つは、市長による強力なリーダーシップだ。前市長がDXを市の重要施策の一つに位置づけ、明確な方向性を示したことで、合意形成が迅速化し、組織が一丸となってDXに取り組むことができた。現市長も、あらゆる分野におけるデジタル化の推進を政策に掲げ、市政全体でDXを推進している。

■DX推進のポイント3:システム×行政改革による化学反応

 もう1つは、システムを所管する部署と行政改革を所管する部署を合体させたことだ。
 
「システム畑の方々は、リスク管理を重視するため、どうしても新しい取組みについては慎重に進める傾向があります。システム部署単体ではDXは進まなかったでしょう。行政改革という革新的な取組みを得意とする部署と融合したことで、良い意味での化学反応が起こり、業務改革や意識改革を効果的に進めることができました」。

■来年度からは新たなステージへ!

 さて、23年度から始まった「DXアクションプラン」も今年度で終わり、26年度からは新計画が始動する。新計画では、その方向性を現計画の「デジタルの社会浸透」から「デジタルの社会浸透+デジタルの社会実装」として、さらなるデジタル化へ踏み出す。

 北野さんは「現在、リーダー活動を専門的見地から支援するDXアドバイザー職員の配置を進めています。そういったDX人材職員からの提案を、新計画に積極的に取り込み、デジタルによる市民サービスの向上と一層の業務効率化を進めていきたい」と意気込む。金沢市が目指すビジョンは「全ての人が便利に暮らし、幸せを実感するまち」だ。その実現に向けて、市のDXは着実に進化していく。

▼自治体での活用方法をご紹介
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【企画提供】
株式会社PFU
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URL:https://www.pfu.ricoh.com/fi/

 

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