寺本英仁の地域の“逸材”を探して

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寺本英仁の地域の“逸材”を探して 第1回|愛情を注ぎつくられる、麹の魅力【みかさぎ麹屋(岐阜県恵那市)】

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2025.03.18

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出典書籍:月刊『ガバナンス』2025年4月号  【WEB限定連載】

◆公務員から麹屋に!?

 今回ご紹介するのは、「みかさぎ麹屋」の和田友美さんだ。

「みかさぎ麹屋」の看板。
和田友美さんの写真。

「みかさぎ麹屋」の和田友美さん


 彼女の住む岐阜県恵那市は県南東部にあるまちで、寒暖の差が激しく、細寒天の生産量が日本一である。

 僕は公務員の人材育成研修のため、2年前から毎月、長野県高森町に通っている。広島駅から新幹線に乗り、岐阜羽島駅で下車。そこから高速道路を利用して、レンタカーで高森町に向かう。その途中に恵那市を通過するので、聞き覚えのあるまちでもあった。

 和田さんは恵那市の元職員で、職員時代から食と健康に関心を持ち、発酵料理の勉強をしていたそうだ。勉強を重ねる度に発酵料理の効能を身をもって感じ、発酵の原点である「麹をつくりたい」という思いが強まった。そうして、長年勤めていた恵那市役所を退職し「みかさぎ麹屋」を開業した。

 開業して3年で軌道に乗り始めたころ、体調を崩したことをきっかけに、同じく恵那市の職員だった妹も仕事を辞めた。現在は2人で「みかさぎ麹屋」を運営している。

友美さん(右)と妹さん。
友美さん(右)と妹さん

◆愛情込めた麹づくり

 昔ながらの室蓋製法で、米麹や黒麹、玄米麹などが丁寧に手づくりされている。

昔ながらの室蓋製法でつくられる米麹。
昔ながらの室蓋製法でつくられる米麹

 
 麹は、天候や湿度などによって1回1回できあがりが異なるそうだ。麹菌を上手く育てるためには室の細かな温湿度管理が重要で、その都度、温度を調整したり新鮮な空気を入れ替えたりして、こまめに管理を行う。

 手間はかかるけれど、子育てと同じように手をかけていくうち愛情が注がれ、麹菌はわが子と同様に、さまざまな個性が生まれてくるという。「できあがりは毎回違うけど、そんな麹の個性に魅力を感じる」と語ってくれた。

 当初は自宅で開業したが、今は古民家を改装して新たなお店を準備中だそうだ。そんな忙しい中、インタビューにも丁寧に答えてくれる姿に、「麹もきっと、このように愛情をかけて育てているのだな」と思うと、なんだか優しい気持ちになれた。お話を聞かせてもらっているうちに、麹と同じように、僕の心の中も豊かに発酵していくような気持ちになっていることに気がついた。

 和田さんは麹を販売するだけでなく、麹を活用した発酵料理家としても活躍している。今年3月には、僕が代表理事を務める「ちよだグルメショップ+A」(東京千代田区)で、恵那市のマンスリーフェアを行った。そこで開催された、地元食材を活用したディナーイベント「A級グルメナイト」では、調味料をキーワードに料理が展開され、和田さんにも参加いただいた。

みかさぎ麹屋の麹調味料ラインナップ。
みかさぎ麹屋には、麹調味料ラインナップも豊富!


 今は、都市部の人も健康意識が高くなっており、特に発酵食には強い関心を持っている人も多い。今後も、和田さんの「麹」や「発酵」をテーマに、新たなライフスタイルを伝えることができればいいな、と考えている。

◆好きこそものの上手なれ

 僕は今、全国で若手公務員の人材育成研修をしている。研修の導入部分ではアイスブレークとして、それぞれの仕事の進捗状況やプライベートの活動について、1人3分程度、スピーチする時間を設けている。しかし、中にはプライベートで「特に何もなかった」と回答する職員も少なくない。

 残念ながら、恵那市の職員としては早期退職となったものの、和田さんのように職員時代から興味のある分野をきわめ、退職後も自分の目指す方向性とまちの取り組みをリンクさせながら、地域を元気にすることに貢献する姿には、深く共感できた。

 和田さんとお話をして、僕は最近、地元・島根県邑南町の取り組みに関われていないことに気づかされた。公務員退職後の和田さんの生き方に、めちゃくちゃ影響を受けた取材だった。

●みかさぎ麹屋
住所:岐阜県恵那市大井町2714-14
Mail:info@mikasagikoji8.com
TEL・FAX:0573-59-9325
営業時間:9:30〜17:30(営業販売:日・金・土、定休日:日・月・祝) 「みかさぎ麹屋」instagramのQRコード。

寺本英仁氏の写真

著者プロフィール 寺本英仁(てらもと・えいじ)
㈱Local Governance代表取締役
ちよだ地方連携ネットワーク地方連携特命官

1971年島根県生まれ。東京農業大学卒業後、石見町役場(現邑南町)に入庁。「A級グルメ」の仕掛け人として、ネットショップ、イタリアンレストラン、食の学校、耕すシェフの研修制度を手掛ける。NHK「プロフェショナル仕事の流儀」で紹介される。著書に『ビレッジプライド~「0円起業」の町をつくった公務員の物語』、藻谷浩介氏との対談本『東京脱出論』など。22年3月末で役場を退職し、㈱Local Governance 代表取締役に就任。

 

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㈱Local Governance代表取締役/ちよだ地方連携ネットワーク地方連携特命官。1971年島根県生まれ。東京農業大学卒業後、石見町役場(現邑南町)に入庁。「A級グルメ」の仕掛け人として、ネットショップ、イタリアンレストラン、食の学校、耕すシェフの研修制度を手掛ける。NHK「プロフェショナル仕事の流儀」で紹介される。著書に『ビレッジプライド~「0円起業」の町をつくった公務員の物語』、藻谷浩介氏との対談本『東京脱出論』など。22年3月末で役場を退職し、㈱Local Governance 代表取締役に就任。

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