公務員が読みたい今週の3冊
公務員が読みたい今週の1冊【著者インタビュー編】マスクの下の小劇場
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2025.03.03
今週、何読む?
読書の習慣をつけたいと思いながら、まだ始められていない…。
日々読書を嗜んでいるが、そろそろネタ切れ…「次は何を読もうか」検討中。
そんな公務員の方はいませんか?
「公務員なら読んでおきたい」業務に役立つ必携図書や、「公務員の皆様が楽しく読める」おすすめ図書をガバナンス編集部がピックアップ。
「公務員が読みたい今週の3冊」では毎週2~3冊をご紹介。
特別編「公務員が読みたい今週の1冊」ではたっぷりの著者インタビューとともに、おすすめの1冊をじっくりとご紹介します。
「今週読みたい図書」の選定にぜひお役立てください。
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こころの「マスク」の下にある大事なものに思いを馳せて
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マスクの下の小劇場
避密な時代のこころの秘密
岡田暁宜・著
木立の文庫/ 2,200円+税
著者プロフィール
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岡田暁宜(おかだ・あきよし)
名古屋大学総合保健体育科学センター/大学院医学系研究科精神病理学・精神療法学教授
1967年愛知県生まれ。名古屋市立大学大学院医学研究科修了、医学博士。愛知医科大学助手、愛知教育大学講師・准教授、南山大学教授、名古屋工業大学教授、慶應義塾大学教授を経て、現在に至る。専門領域は精神分析、精神分析的精神療法、力動精神医学、大学メンタルヘルス、心身医学。編著書に『精神分析と文化』(岩崎学術出版社、2012年)、共著書に『週一回サイコセラピー序説』(創元社、2017年)、『コロナと精神分析的臨床』(木立の文庫、2021年)、『寄り添うことのむずかしさ』(木立の文庫、2023年)などがある。
マスクの下の小劇場 避密な時代のこころの秘密
── 著者インタビュー
コロナ禍に“当たり前”のものとなったマスク生活。今日でも、なんとなく落ち着くからと、日常的にマスクを着用し続ける人がいる。
「私たちは顔に象徴される何かを覆い隠しながら守っている。そしてそのようなマスク生活を他人に見せ、他人のマスク生活を見ている」
と精神科医の岡田暁宜さんは語る。
以前の精神科外来では、患者との情緒的交流の必要からマスクを着けることはなかったが、コロナ禍にマスクが必須となったことで
「逆説的に『マスクの下にあるもの』について関心を抱くようになった」
と岡田さん。
精神分析で用いられる自由連想という発想法を活かして、不自由な生活の中でのこころの自由について考えをめぐらし、21年から22年にかけて、WEB連載「ぼくたちコロナ世代──「避密」ライフのこころの秘密」として発信した。
本書は、この連載を基に、日常臨床の症例やコロナ後の視点を加え、心理的、文化的な意味でのマスクをキーワードとして、人のこころと社会の課題について省察するもの。
「コロナ禍という特別な体験を記録し、多くの人と共有したい」
という思いでまとめたという。
前半では、コロナ禍の臨床風景──岡田さんのもとに診療に訪れた8人のエピソードを紹介。対人関係の不調や喪失体験など隠れているものを紐解いたり、隠れたままにしておくべきものをそっと覆ったり。それぞれの治療の過程で出会ったこころの襞(ひだ)を「マスクの下の小劇場」として描きながら、一人ひとりに寄り添っていく。もちろん、臨床記述は個人が特定されないよう「プライバシーを『マスク』している」という。後半では、コロナ禍の経験や記憶、個人と社会のあり方をめぐる岡田さんの思いがエッセイとして綴られる。
隠す、覆う、匿名化する、演じる、癒す、戦う…。細やかに、時にユーモアを交えながら、マスクという比喩を用いて、こころと社会の課題を掘り下げていく。先鋭化するSNS、ハラスメントとメンタルヘルスの関係、コロナ以前の問題がマスクされた病態としての「コロナマスク症候群」など、論点も多彩だ。岡田さんは、特に青年期に不可欠なものとして、「濃密な体験、親密な関係、秘密の世界」の〈三密〉を挙げる。物理的な三密回避を経験し、人の成熟にとってかけがえのない〈三密〉が失われてはいないだろうかとの指摘は重い。
「マスクをせよと言われながら、マスクを外せとも言われるような矛盾」が社会にはある。岡田さんは
「私の役割はこうした矛盾を扱うこと」
と力を込める。そして「有限の人生をどう生きるか。適所を求めること、変化していくことが大切」と読者にエールを送る。自他の「こころのマスクの下にあるもの」に思いを馳せ、しなやかに生きるヒントが本書にある。