3ステップで学ぶ 自治体SDGs
3ステップで学ぶ 自治体SDGs STEP② 実践に役立つメソッド 第2章 関係者の役割と 連携のポイント
ぎょうせいの本
2020.11.17
3ステップで学ぶ 自治体SDGs STEP② 実践に役立つメソッド
第2章 関係者の役割と 連携のポイント
笹谷 秀光(ささや・ひでみつ)
(『3ステップで学ぶ 自治体SDGs STEP② 実践に役立つメソッド』2020年11月)
首長のリーダーシップをどう発揮するか
SDGsには、トップ・イニシアチブが重要というのはどういう意味でしょうか。SDGsは総合戦略と密接に関連します。SDGsは、全体戦略、人事戦略、市民への浸透、地域社会の現場対応など幅広いマターをカバーします。この網羅性から地方創生SDGsを推進する上で、首長のイニシアチブ(指導力)とコミットメント(責任をもって関わること)が重要なのです。
また、SDGsの市民向けの発信でも首長の役割が重要です。もちろん議会対応もあります。いずれもトップが語らなければ説得力がないからです。企業の場合は、SDGsは投資家の注目するIR(Investor Relations:企業投資家向けの広報活動)事項でもあり、経営トップの発信は重要です。
今後あらゆるところでSDGsに関する対話が生まれます。そのような場面に遭遇する機会もトップほど多いので、率先して対応する必要があります。そして、トップが推進すれば、セクショナリズム打破につながり庁内浸透も早いのです。
SDGsにはトップのコミットメントが重要ですが、具体的にトップがなすべきことは何でしょうか。まず、トップはSDGsが政策そのものであり、「SDGs政策」を推進するという意識を持つ必要があります。SDGsを正しく理解し、自身の自治体との関連事項を洗い出し、SDGsを使った戦略を描くのです。
このため、幹部メンバーからなる委員会など、SDGsの推進体制を整えます。トップの指令に基づく組織があると自治体内をまとめやすい。逆にいえば、トップの指示なく個別の部署がSDGsを推進することは難しいです。トップが直接指示を下すほうが、作業が加速します。自治体内の連携によりSDGsの体系化や重点項目の選定を行い、自身の自治体のSDGsを使ったストーリーをつくっていきます。ストーリーができれば、トップはSDGsを使った「ストーリー・テラー」になることが期待されます。特にメディア対応では、トップが出るほど露出度が高まります。SDGsはピクトグラム(絵文字)やバッジなどによる発信性が強く、トップが発信することで、より効果的に各方面に情報を拡散することができます。
このように、SDGsの政策としての重要性、網羅性、発信性の点からトップの役割が重要です。もちろん発信自体は、トップが全てを行う必要はありませんが、統一的に発信できる体制とツールが求められます。体制としては広報のみではなく戦略本部のように、首長に近く内外に総合的に発信できる体制が望ましい。対外発信のためのホームページ、発信ツールなどを作成し、トップの意向を受けて統一的に対外発信します。
SDGsの自治体内浸透はどのような順番でしょうか。つまり、トップダウンかボトムアップかという点もよく聞かれるポイントです。いずれを取るかは、自治体の風土やトップ層の構成等を総合的に考慮する必要があり、一概にいずれがよいとはいえません。しかし、SDGsは政策マターなので、トップダウン方式で推進するほうが早く効果的に実践できると思います。まずはトップからというのが私のおすすめです。トップの理解がなく個別の部署がSDGsを始めても、SDGsは部内に定着しにくい。また、ボトムアップでは、どうしても各論に陥りがちです。SDGsの持っている各目標の相互補完関係が見えにくいので、SDGsを効果的に推進しにくいのです。
各職員の役割と職員への浸透は?
これもよく聞かれることですが、SDGs所管部署、各部署の管理職、研修担当などはどう対応すべきでしょうか。専任の組織をつくることはある程度コストがかかりますが、SDGsをしっかり実践するのであれば専任の組織があったほうがよいと思います。
その組織の持ち方のポイントは次の3点です。
① SDGsは重要政策マターであることから、トップにできるだけ近いほうがよい。
② SDGsの実践に当たっては、庁内全体で協力体制を敷く必要があるので、そのための事務局機能が重要。常設のほうがよいが、常設の負担が重ければ、プロジェクトチームや委員会組織のようなものも考えられる。
③ 首長室、経営企画・戦略部など全部署の協力を得やすい組織が望ましい。戦略的にSDGsを実践し得る組織をつくる。
SDGsの実践が進展すれば、発信する段階に入っていきます。その段階では、SDGsを活用した内外のコミュニケーションを一元的に担うセクションをつくると効果的なSDGsの発信ができます。
次にSDGsを庁内にどのように浸透させるべきでしょうか。SDGsの認知度は着実に上がっているものの、まだまだ認知度が低いという調査結果が出ていることは第1章で見たとおりです。この調査で、SDGsの認知度が上がり、首長には浸透しつつあるが、中間層や従業員への浸透度はまだ低いという結果になっています。この中で、どのように庁内にSDGsを広めていくかが重要な課題です。
この首長と中間層の間の断層の理由は、首長のほうが地方創生推進事務局のSDGs会合などに出席する機会も多いからです。一方、日常の業務に追われている中間層は、落ち着いてSDGsを勉強する機会が十分ではない。この結果、首長としてはSDGsを自治体内に早く浸透させたいので、責任セクションに早く対応しろと指令を出す。責任者が各部署長を回ってみると、各部署長たちは何のための作業なのかなどに理解を示さない。そこで責任者は首長と部署長の間で板ばさみになる、といった事態が現在多くの自治体で起こりつつあります。
これを回避するため、SDGsの担当を命じられた責任者は、次のような作業を行うと効率的です。まずは、SDGs体系の構築が最優先事項です。SDGsが政策マターであることを理解し、行政全体にどのように関係するか、体系整理を行います。トップとSDGsのねらいについて認識をすり合わせした上で、全庁的な体系についてたたき台をつくります。それを部署長に説明します。各部署長に何が関係するか、SDGsを実践すればどのような効果があるか、自治体ではどこが進んでいるか、自身の自治体でこれをしないとどう出遅れるのかなど、実益と絡めて説明できるかどうかがポイントです。
自身の自治体の活動とSDGsとの関係性を自分では整理しにくい場合には、専門家の支援を仰ぐとスピード感が出ます。部内浸透には、自治体広報誌や研修ツールの活用が考えられます。目標4の「教育」のとおり、腹に落ちるような形でのインタラクティブなやり取りや質疑応答をしっかりできる研修プログラムが望まれます。eラーニングも的確な教材を選べば効果があります。
また、活動報告をつくること、そしてつくる過程が重要です。その過程で自治体内の各活動がSDGsとどのような関連性があるかを庁内全員が理解できます。SDGsの各目標の責任部署長を決めて、それを活動報告書などで内外に発信すると、庁内浸透効果が高くなります。なぜなら、その部署長はSDGsをよく勉強せざるを得ず、その部署のメンバーも全て学ぶという、「シャワー効果」があるからです。この方法は、スピード感を持って庁内に浸透させ得る方法です。
なお、ミレニアル世代などの若者は、SDGsに共感する割合が高い傾向があります。
●執筆者Profile
笹谷 秀光(ささや・ひでみつ)
1976年東京大学法学部卒業。 77年農林省(現農林水産省)入省。 中山間地域活性化推進室長等を歴任、2005年環境省大臣官房審議官、06年農林水産省大臣官房審議官、07年関東森林管理局長を経て08年退官。同年(株)伊藤園入社。取締役、常務執行役員を経て19年4月退職。2020年4月より千葉商科大学基盤教育機構・教授。現在、社会情報大学院大学客員教授、(株)日経BPコンサルティング・シニアコンサルタント、PwC Japanグループ顧問、グレートワークス(株)顧問。日本経営倫理学会理事、グローバルビジネス学会理事、NPO法人サステナビリティ日本フォーラム理事、宮崎県小林市「こばやしPR大使」、未来まちづくりフォーラム2019・2020・2021実行委員長。著書に、『Q&A SDGs経営』(日本経済新聞出版)ほか。企業や自治体等でSDGsに関するコンサルタント、アドバイザー、講演・研修講師として幅広く活躍中。
■著者公式サイト─発信型三方良し─
https://csrsdg.com/
■「SDGs」レポート(Facebookページ)
https://www.facebook.com/sasaya.machiten/