「新・地方自治のミライ」 第44回 「法力」装置と国・自治体間紛争のミライ

時事ニュース

2023.11.14

本記事は、月刊『ガバナンス』2016年11月号に掲載されたものです。記載されている内容は発刊当時の情報であり、現在の状況とは異なる可能性があります。あらかじめご了承ください。

はじめに

 2016年9月16日に、福岡高裁那覇支部で辺野古基地建設問題に関して、沖縄県の全面敗訴の判決があった。沖縄県は同基地建設に必要な埋立承認取消をしていた。その取消を取消すことを沖縄県知事に求める国側の是正の指示に従わないことを違法であると判示した。

 この問題については、既に本連載でも、第30回(15年9月号)・第36回(16年3月号)・第37回(同年4月号)などでも、代執行制度や係争処理制度に言及して、触れてきたものである。しかし、上記判決を受けて、今一度、検討をしてみたい。

 なお、本稿は法律学的な判例評釈などではなく、自治体行政学(広義の政治学)の分析であるので、判決要旨を用いる。

「法力」装置としての裁判所像

 判決要旨によれば、「所定の手続きに沿って速やかに中立的で公平な審理・判断をすべき責務を負わされている裁判所としてはその責務を果たすほかないと思料する」(13頁)という。法律所管大臣の権力的関与という法的権力(以下、「法力(ほうりょく)」と略称する)の行使と、それに後続する裁判所という「法力」によって、国と自治体の紛争が解決できると考えている。

 その裁判所像は、以下の通りである。すなわち、「地方自治権・自治体裁量権を根拠に司法審査が制限される旨を主張する」沖縄県側に対して、「地方分権推進法並びに地方自治法平成11年改正及び24年改正は、国と地方の利害が対立し法解釈に関する意見が異なる場合に、それぞれが独立の機関として対立が続けば、行政が服すべき法的適合性原則に反する状態が解消できず、国地方の関係が不安定化し、ひいては地方分権の流れが逆流し国の権限を強化すべきであるとの動きが起こることを懸念して、その解決方法を設け、そこでも透明で割り切れたシステムにするという観点から、国の関与の手続を明確に規定し、その手続の中で解決がつかない場合は、第三者であることから中立的で公平な判断が期待でき、かつ透明で安定した手続を有する裁判所に判断させることとした」(2頁)という。

 つまり、国と自治体の対立が継続する場合には、立法権という法力を有する国は、国の権限を強化するために集権的に行動する、という見立てである。立法権を有する国会は、議院内閣制のもとでは「ねじれ国会」でなければ、国の行政権と一心同体だからである。

国の「法力」内にある自治体と裁判所

 そして、この判決の論理は、極めて重要な推論を導く。裁判所が国と自治体の訴訟において、国側敗訴の判決を出せば、結局、行政権=立法権が融合化した国は「法力」を行使し、国に有利な法律を制定するだけである(注1)。したがって、裁判所としては国側敗訴判決をすることは「法力」装置として無意味である。それゆえに、判決の結論は先に決まっており、自治体側敗訴しかありえない。このような意味からすると、「中立的」でない人が判決要旨で「中立的」と自称することは、「クレタ人は嘘をつかない」と同じくらい、含蓄ある命題である。

注1 理屈上は、裁判所を廃止することも可能である。裁判所を廃止した違憲な立法に対して、違憲判決を下すべき裁判所は既に存在しないからである。

 裁判所が「法力」装置として存在し得るのは、あくまで国の政治力に拠る。国の政治力の外に立って、国と自治体の政治力の衝突に対して、「第三者」としての「法力」を行使する立場ではない。むしろ反対に、国の政治力を背景に国が「法力」を行使し、その範囲内で裁判所が存在し、「法力」によって自治体の政治力を抑圧する集権的な構図である。

国・地方係争処理委員会への侮蔑

 したがって、裁判所は、2000年分権改革が、なぜ、国地方係争処理委員会(以下、委員会)という勧告機関を設置したのかが理解できない。判決要旨によれば、委員会は「行政内部における地方公共団体のための簡易迅速な救済手続でありその勧告にも拘束力が認められていないことから、……判断しても紛争を解決できない立場」であり、「国や地方公共団体に対し訴訟によらず協議により解決するよう求める決定をする権限はなく、もちろん国や地方公共団体にそれに従う義務もない」(12頁)とされる。つまり、委員会を侮蔑している。

 委員会に対する侮蔑は、先の代執行訴訟での和解においても共通している。判決要旨によれば、「代執行訴訟での和解では国地方係争処理委員会の決定が被告(補注:沖縄県側)に有利であろうと不利であろうと被告において……取消訴訟を提起すべきだった」(12頁)という。要は、委員会の「決定内容には意味がないものとして」(12頁)いる(注2)

注2 もっとも、「決定内容に意味がない」と述べておきながら、「実際の決定内容も少なくとも是正の指示の効力が維持されるというものに他ならない」(12頁)とも述べている。

 このように「法力」を持たない委員会には存在する「意味がない」のであれば、裁判所は、地方自治法を理解はできないであろう。しかし、裁判所も共有するリアリズムに立てば理解は簡単である。所詮裁判所は、国の政治力および「法力」の支配下にある。したがって、裁判所での判断に委ねる限り、国側有利の判決になる。それゆえ、裁判所に行かせないで、政治的交渉によって解決する場を整備することが、委員会の任務である。

 つまり、裁判所は係争処理制度の趣旨が理解できない。それゆえに、「速やかに中立的で公平な審理・判断をすべき責務を負わされている」(13頁)などと自意識過剰になって、拙速な判断をしてしまった。判決要旨によれば、「前の和解成立から約5か月が経過してもその[補注:多少ともよりましな解決策を合意することの]糸口すら見いだせない現状にあると認められるから、その可能性を肯定することは困難である」(13頁)としたのである。

 裁判所は「国と地方公共団体の対立により、違法状態が長く続くことは好ましくな」(11頁)いと考えている。しかし、違法状態かどうかは裁判所が判決を下さなければ確定しない以上、判決を出さなければ確定しないはずである。つまり、裁判所は沖縄県側が「違法状態」であると予断をもって、「簡易迅速」に「法力」を行使したのである。

おわりに

 「法力」装置である裁判所は、巨大な政治力と「法力」を持った国政権力(行政権+立法権)から、いかに司法権を保守するかに腐心した。実際、判決要旨も述べるように、「不作為の違法確認訴訟は、その制度検討過程において、地方公共団体が不作為の違法を確認する判決を受けてもそれに従わないのではないか、そうならば制度が無意味になる」くらい「マイルドな訴訟形態」(2頁)であることを認識している。この訴訟形態では、実は、裁判所には「法力」は充分に与えられていない。それゆえ、ひたすらに「裁判所の権威まで失墜させる」ことを恐れている。しかし、言うまでもなく「裁判所の権威」が失墜しても、「日本の国全体に大きなダメージを与えてしまう」(2頁)ことはない。なぜならば、裁判所は、所詮は国の政治力=「法力」に支えられているだけだからである。

 とはいえ、「裁判所の権威」を維持したいため、沖縄県側が「不作為の違法確認訴訟の確定判決に従うと表明した」(12頁)と念を押す。無「法力」装置である裁判所は、沖縄県側が確定判決に従うことに期待する。そして、沖縄県側が確定判決に従わない場合には、「地方分権の流れが逆流し国の権限を強化すべきであるとの動きが起こる」という予見を開陳する。

 沖縄県側としても、リアリズムに立って、難しい判断に立たされよう。しかし、それぞれが政治力に支えられた国と自治体の関係は、そのような営みの無限の連続である。国の政治力=「法力」に沿って表面的に係争が処理されても、政治的対立自体が解消されるとは限らない。委員会や裁判の場での合意形成がされないときに、別の場に次々と紛争が移されるだけである。政治力は政治的意思がある限り、ミイラのように不滅なのである。

 

 

Profile
東京大学大学院法学政治学研究科/法学部・公共政策大学院教授
金井 利之 かない・としゆき
 1967年群馬県生まれ。東京大学法学部卒業。東京都立大学助教授、東京大学助教授などを経て、2006年から同教授。94年から2年間オランダ国立ライデン大学社会科学部客員研究員。主な著書に『自治制度』(東京大学出版会、07年)、『分権改革の動態』(東京大学出版会、08年、共編著)、『実践自治体行政学』(第一法規、10年)、『原発と自治体』(岩波書店、12年)、『政策変容と制度設計』(ミネルヴァ、12年、共編著)、『地方創生の正体──なぜ地域政策は失敗するのか』(ちくま新書、15年、共著)、『原発被災地の復興シナリオ・プランニング』(公人の友社、16年、編著)、『行政学講義』(ちくま新書、18年)、『縮減社会の合意形成』(第一法規、18年、編著)、『自治体議会の取扱説明書』(第一法規、19年)、『行政学概説』(放送大学教育振興会、20年)、『ホーンブック地方自治〔新版〕』(北樹出版、20年、共著)、『コロナ対策禍の国と自治体』(ちくま新書、21年)、『原発事故被災自治体の再生と苦悩』(第一法規、21年、共編著)など。

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