時事問題の税法学

林仲宣

時事問題の税法学 第3回 マンション節税と財産価値

地方自治

2019.06.24

時事問題の税法学 第3回

マンション節税と財産価値
『月刊 税』2016年1月号

工事偽装マンションの慰謝料

 税理士会が主催する平成27年分の確定申告無料相談の日程表が届いた。33回目の参加である。おそらく最多経験者であるが、免除申請できる年齢まで2年あるので、まだ記録は更新できそうである。ただ今年は気になる相談会場がある。一連の杭打ち工事偽装の発端となった大型分譲マンションのおひざ元にある公会堂内での相談会である。

 報道されたようにマンション販売会社は、補償説明会で、とりあえず4棟705戸の住民に対して一律300万円の「慰謝料」を提示した。本稿執筆時には確定されていないようだが、仮にこの「慰謝料」が支払われた場合、所得税法上の取扱いは、どうなるだろうか。

 所得税法は、心身に加えられた損害又は突発的な事故により資産に加えられた損害に基因して取得する損害賠償金や心身又は資産に加えられた損害につき支払を受ける相当の見舞金は非課税と規定する(所法9①十七、所令30)。非課税となる根拠は、被った損害を補塡するための支払であることから、プラスマイナスゼロで、経済的利益は発生しないということだろう。

 そうなるとこの一律300万円が非課税という判断は難しいかもしれない。対象が705戸であるならば、被害の内容と度合は、705通りあるわけであり、一律ではあり得ない。単なる見舞金等として一時所得となるかもしれない。

 もっともこの300万円が、その後算定した被害に応じて支払われる損害賠償金の一部と考えれば、仮受金的な性格として、確定するまで判断待ちとする余地が出てくる。ただ、住民には今後、マンションの「建替」「補修」「買取」と選択肢があるので、買取の場合には、譲渡代金の一部と判定されることも想定できる。話は複雑であるが、住民に対する説明会では課税に関する質疑はあったのだろうか。

タワーマンションの節税対策

 トラブルが起きると近隣住民から地価が下がるという苦情を耳にすることが多い。もちろん固定資産評価額ではなく、実勢価格(売買価格)であり、転売するときに損をするという苦言である。本来、財産とは投資や売却可能な可処分財産に限るとする皮肉な見方をすれば、自宅を処分すれば住居がなくなるような生活用資産は財産でないといえなくもない。自宅か投資用かはさておき、実勢価格と相続税評価額との乖離が目玉となっていた、いわゆるタワーマンションを利用した節税対策にメスが入ろうとしている。

 相続税と贈与税の対象となる財産の評価、つまり相続税評価額は、財産評価基本通達に基づくが、相続税評価額と実勢価格との乖離が相続税対策の基本である。マンションの評価は土地と建物を分離して評価することになる。土地は、各戸数の持分評価であるため細分化され、低くなるが、建物部分は面積評価であるため階数は影響しない。高額な販売価格の高層階は人気があり、中古物件でも実勢価格も下層階より高額であることから、相続税評価額との乖離が広がり節税効果は高い。国税当局は、売買価格を相続税評価額で割って求める乖離率の数値により節税の行き過ぎを検討するという。

 平成27年1月から実施された改正相続税法により、基礎控除額が縮小され、課税ベースが拡大された。従来なら課税対象にならなかった遺族にも相続税が課税される可能性が広がったことから、相続税対策が話題となった。自宅も財産とする見解からすれば、不動産が自宅だけであっても相続財産として納得されよう。もっとも自宅用地には小規模宅地評価の特例が適用されるからいいが、タワーマンションが自宅の場合には効果が少ない。

 タワーマンションの評価方法の変更は、マンション投資による節税対策を封じることが目標であるにもかかわらず、その対象に自宅マンションが含まれるとすると少々、深刻な話である。相続税対策に奔走する富裕層に焦点を当てるなら、やはり相続税の累進課税の強化が効果的といえる。ささやかな遺産まで課税対象となる相続税法の平成27年改正は庶民にとって混乱を招くかもしれない。申告期限は10か月であるから、もう混乱は起きているだろうか。

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