議会局「軍師」論のススメ

清水 克士

議会局「軍師」論のススメ 第43回 TTP(徹底的にパクる)に甘んじていいのか?

地方自治

2021.01.14

議会局「軍師」論のススメ
第43回 TTP(徹底的にパクる)に甘んじていいのか? 清水 克士
月刊「ガバナンス」2019年10月号

 先月号に引き続き、大和ミュージアムを訪れた時の議会に関する既視感について述べたい。今号は、琵琶湖底から引き上げて復元展示されていた零式艦上戦闘機(以下「零戦」)の歴史に関してである。

 零戦は昭和15年の中国戦線での実戦配備以降、太平洋戦争初期までは無敵の存在であった。

 だが、昭和初期まではライセンス生産が主流で、日本の航空技術は欧米に依存していた。航空主兵を唱える山本五十六・航空本部技術部長(のちの連合艦隊司令長官)が、外国機のコピーを良しとせず、昭和7年に「航空技術自立計画」を策定し、独自技術による純国産機開発を推し進めたことが、当時、世界最強の零戦が誕生した背景とされる。

■TTP(徹底的にパクる)の次へ

 議会では改革手法に特許などなく、むしろ積極的に先進議会のフルコピーが「TTP」と称して推奨されてきた。改革途上の議会で、一定の成果があったのは事実であるが、問題はコピーしたことで満足してしまい、歩みを止める例が散見されることである。

 必要なのは千利休の訓でいう「守破離」の発想なのではないか。「守」は先進事例の型を守ることに徹するフルコピー、「破」は自己都合で型を破るカスタマイズ、「離」は既存の型を離れて独自の型を創造することである。

 TTPは改革プロセスのはじめの一歩に過ぎず、模倣して先進議会と横並びになったことで満足せず、即座に革新的な独自モデルの構築を目指すべきである。歩みを止める守りの姿勢は、進歩を続ける他議会との相対的関係上、凋落は時間の問題となるからだ。

■持続可能性を追求する重要性

 成果を継続する方法論についても、零戦の歴史には教訓がある。零戦は格闘戦重視の徹底した軽量化のため、防弾装備が皆無であったことや搭載機銃の火力不足への対応が前線から求められた。零戦の設計主務者・堀越二郎氏は、零戦の後継機「烈風」をはじめ、複数の新型機開発以外に、零戦の改良型開発も命じられていた。もはや零戦の改良で、敵新型機に対抗できるものではなかったが、有能な設計者、優秀な機体であったがゆえに、個人の能力に頼りすぎ、零戦に見切りをつける時機も逸してしまったとされる。

 場当たり的で無理な組織方針が、後継機開発を遅れさせることになり、「烈風」は実戦配備されることなく終戦を迎えた。零戦が抜群であったがために、目前の改良型開発という対症療法にこだわり、中期目標の新型機開発という根治療法を先送りにした結果、本来の目的である制空権確保に失敗した一因と言われる。

■任期を超えた視点の必要性

 議会改革においても、当面の目標を達すると同時に、次を見据えた布石を打っておかなければ、先進を維持できないのは同様である。だが、地方議会制度は4年任期を超えて継続性を担保する制度設計とはなっていない。一方、市民視点からは議員任期とは関係なく継続する議事機関であり、持続可能性を追求する独自対応が求められるだろう。

 他議会のフルコピーの現状維持に止まらず、優れた独自施策の持続可能性を追求しようとするなら、個人対応ではなく組織として次任期以降をも見通した戦略を、議会独自に確立する必要性があるのではないだろうか。その具体論については、次号以降に譲りたい。

*文中、意見にわたる部分は私見である。

 

Profile
大津市議会局長・早稲田大学マニフェスト研究所招聘研究員
清水 克士
しみず・かつし 1963年生まれ。同志社大学法学部卒業後、85年大津市役所入庁。企業局総務課総務係長、産業政策課副参事、議会総務課長、次長などを経て2020年4月から現職。著書に『議会事務局のシゴト』(ぎょうせい)。

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しみず・かつし 1963年生まれ。同志社大学法学部卒業後、85年大津市役所入庁。企業局総務課総務係長、産業政策課副参事、議会総務課長、次長などを経て2020年4月から現職。著書に『議会事務局のシゴト』(ぎょうせい)。

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