政策事例研究 vol.6 - 地域共生社会②
キャリア
2024.09.17
★本記事のポイント★
1 「支え手」「受け手」という関係を超えて、地域住民や地域の多様な主体が『我が事』として参画するということは、地域共生社会の実現のために必要な理念。 2 ボランティア活動に参加することを妨げる大きな要因として、時間的余裕がないことがあげられる。 3 時間的余裕がない中で、住民が『我が事』として地域の活動に参画することを促すためには、何らかのインセンティブが必要。どのようなインセンティブがあるか検討する。
前回に引き続き、現在取り組まれている地域共生社会の実現に向けて乗り越えるべき課題などについて考察したいと思います。今回は、無縁社会における住民等の参画に焦点を当てたいと思います。
1.我が事
「地域共生社会」の実現に向けて(当面の改革工程)(平成29 年2 月7 日厚生労働省 「我が事・丸ごと」地域共生社会実現本部)では、「「地域共生社会」とは、制度・分野ごとの『縦割り』や「支え手」「受け手」という関係を超えて、地域住民や地域の多様な主体が『我が事』として参画し、人と人、人と資源が世代や分野を超えて『丸ごと』つながることで、住民一人ひとりの暮らしと生きがい、地域をともに創っていく社会を目指すものである」としています。
そして、「このようなつながりのある地域をつくる取組は、自分の暮らす地域をより良くしたいという地域住民の主体性に基づいて、『他人事』ではなく『我が事』として行われてこそ、参加する人の暮らしの豊かさを高めることができ、持続していく。また、社会保障などの分野の枠を超えて地域全体が連帯し、地域の様々な資源を活かしながら取り組むことで、人々の暮らしにも地域社会にも豊かさを生み出す」としています。
「支え手」「受け手」という関係を超えて、地域住民や地域の多様な主体が『我が事』として参画するということは、地域共生社会の実現のために必要な理念だと思います。簡単に言えば、多くの住民がボランティアで地域の活動に参画しお互いを支え合うことが、地域共生社会の重要な要素でしょう。
2.ボランティア
ところで、内閣府が行った2022 年度(令和 4 年度)市民の社会貢献に関する実態調査では、2021年にボランティア活動に参加した人の割合は、17.4%でした。そして、ボランティア活動への参加の妨げとなることがあるかとの問については、「参加する時間がない」(45.3%)、「ボランティア活動に関する十分な情報がない」(40.8%)、「参加する際の経費(交通費等)の負担」(23.1%)の順となっており、時間的制約、情報の不足、費用の負担を要因として挙げる人が多いとされています。
また、国連が行っている世界幸福度調査で我が国は低位に甘んじています。人生の選択の自由度、社会的寛容さといった主観的な指標が低いとされています1。このうち、社会的寛容さの指標が低い原因として、自分のことで精一杯で他人のことまで考える余裕がないとか時間的に余裕がないという指摘があります。
以上から、ボランティア活動に参加することを妨げる大きな要因として、時間的余裕がないことが推測されますが、時間的余裕がない中で、『我が事』として地域の活動に参画することは、簡単ではないでしょう。
3.住民の参画を促すインセンティブ
したがって、住民が『我が事』として地域の活動に参画することを促すためには、何らかのインセンティブが必要だと思いますが、どのようなインセンティブがあるか検討しましょう。
⑴ ボランティア活動への参加にメリットがあることの啓発
ボランティア参加などには、以下のようなメリットがありますが、そのことを啓発することにより、参加を促進する効果があると思います。
まず、2019年の内閣府『「満足度・生活の質に関する調査」に関する第1次報告書』では、社会貢献することによって満足度が上がるという調査結果を示しています。結論として「頼れる人・ボランティア活動が増加するほど満足度が高くなる」と定義付けています。社会とのつながりが増すことにより満足度が高くなるのでしょう。
また、ボランティア活動と健康長寿の関連に着目してみると、高齢期におけるボランティア活動は身体的制約の減少、抑うつ症状の減少、認知機能の向上、主観的幸福感の向上、死亡率の低下などにつながることが報告されています2。
⑵ ナッジ理論
ナッジ理論とは、行動科学に基づいたきっかけを与え、選択の自由を残して行動変容を促す手法だとされています。強制の要素がないので、ボランティア活動への参加を躊躇する人に参加を促すためには、適切な手法だと思います。
具体例としては、「安心・安全パトロールをする人に腕章や帽子を配り、これを着用してもらうことが公益的活動を行っていることのサインとなる効果を生みます。この場合、腕章や帽子を配布することがナッジとなります」というものです3。
⑶ ポイント制
ボランティア活動を行うことに対して、景品などに交換できるポイントを付与することが考えられます。
例えば、小田原市では、介護施設などのボランティア活動にポイントを付与して、商品に交換する「アクティブシニア応援ポイント事業」や、つながるイベントに参加すると「おだちん」が付与され、地域の特別な体験に利用できる事業が行われています4。
また、地域限定通貨を運用している自治体がありますが、地域限定通貨とボランティア活動と結びつけることも考えられます。例えば、東京都世田谷区では区内のお店を応援するとは地域限定通貨アプリ「せたがやPay」を運用しています。そして、世田谷区商店街振興組合連合会が世田谷線沿線の「クリーン大作戦」事業では、ボランティア参加者に1人200ポイントずつ付与しているそうです5。
⑷ ボランティア活動の場の提供
ボランティア活動の場所を参加者が自ら準備することは、資金、ノウハウなどの制約で難しいこともあります。それを公的主体が提供すると、ボランティア活動に参加するハードルは低くなります。
前回紹介した静岡市の「S型デイサービス」では、自治体、が「つながる場」を用意していますが、その活動の中には地区社協が主体となり、民生委員・児童委員をはじめとした地域住民のボランティアが運営にあたっているとされています。
⑸ 企業の協賛
ボランティア活動の継続には運営資金が必要となりますが、その際に、企業の協賛を得ることは有力な方法です。
例えば、東京都大田区では、高齢者が安心して暮らせる街づくりの活動を行っている「みま~も」は、会の趣旨に賛同する民間企業等各種団体の協賛費によって運営しています。協賛企業・事業所は、運営費の捻出だけでなく、会の運営に積極的に関わり、その中で自社の得意分野を発揮し、団体としての地域貢献を実現しています6。
1 国連の持続可能開発ソリューションネットワークは、毎年、幸福度調査のレポートを発表しています。一人当たりGDP、社会的支援、健康寿命、人生の選択の自由度、社会的寛容さ、社会の腐敗度の6つの指標を基に幸福度を導き出しています。我が国は、2023年は47位、2024年は51位となっています。 2 鈴木 宏幸『ボランティア・生涯学習活動と健康長寿』 https://www.tyojyu.or.jp/net/topics/tokushu/shakaisanka-kenkochoju/boranteia-shogaigakushu-kenkochoju.html 参照。 3 安部浩茂『自治体職員のための市民参加の進め方』(学陽書房、2022年)102頁参照。 4 小田原市HP参照。 5 三軒茶屋銀座商店街「三茶しゃれなあど」HP参照。 6 厚生労働省 地域共生社会のポータルサイト 取り組み事例 みま~も
https://www.mhlw.go.jp/kyouseisyakaiportal/jirei/01.html
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