政策形成の職人芸  その10 政策案の評価①

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2022.11.15

★本記事のポイント★
①政策案の妥当性を検証し、満足できる政策案を選択するため、政策評価の手法を用いる。 ②政策評価には、政策効果の把握が必要なものの、技術的な難しさがある。政策案の評価では、それに予測の必要性が加わり、かなり困難な作業となる。 ③政策案の評価には、ロジックモデルを活用して、目的・手段や原因・結果の過程を詳細に構造化したうえで、政策効果や費用を予測・把握しやすいような指標を設定する必要がある。その際には、できる限り、数値目標のような目標の達成の有無・程度が理解しやすいものを設定することが望ましい。

 

1.政策案の評価の必要性

 前回までに、政策デザインの手順やクリアすべき点について、お話ししました。今回は、政策案の評価(ある政策案を採った場合の予測される結果の評価)について考察します。

 政策デザインには、イメージを形にするとか、バランス感覚による価値の調整といった、主観的な要素が多くありますので、できる限り客観的な基準により、政策案の妥当性を検証し、満足できる政策案を選択することが必要です。

 政策案の評価については、従来から行われている政策評価が参考になります。政策評価は、政策の事後の評価として用いられることが多いですが、その際用いられる必要性、効率性、有効性等の基準は、政策を形成する際にも考慮すべきものです。

  「評価疲れ」という言葉が聞かれるほど、国、自治体とも、政策評価には熱心に取り組んでいると思いますので、政策評価の概要については述べませんが、政策案の評価の参考になりますので、政策効果の把握について考察したいと思います。

 なお、政策評価の方法については、『政策評価に関する基礎資料集』(総務省行政評価局、令和3年11月)、『総務省政策評価ポータルサイト』において、参考となる種々の資料が参照できます。

 

2.政策効果の把握は難しい

 政策評価には、政策効果の把握が必要となります。政策効果が定量的に把握できるなら、政策評価は簡単かもしれませんが、そうでない場合が多いと思います。

 政策効果の把握に関しては、総務省行政評価局、関係府省及び学識経験者が協働して行った「政策効果の把握・分析手法の実証的共同研究の報告書」(平成31年4月)が参考になると思います。これは、EBPMのリーディングケースの提示を目指し、具体の政策を題材に、ロジックモデルの作成を通じた政策課題の把握、データの整理・収集、政策効果の分析等を行う取組についての報告書です。この中には、種々の有益な指摘がありますが、政策効果の把握に役立つものをあげれば、次のようなものがあります。

・ 政策効果を把握するためには、まずは政策の手段や目的を記述し、政策のどの部分の評価を行うかを設計することが必要となる。そのための一つのツールとして、ロジックモデルを活用することが考えられる。 ・ 政策立案は、必ずしも数値化、客観化できるものだけではなく、価値観や政治的判断などの測定できない要素が重要なものもあり、それに対するエビデンスが出せないため、数値化できるものにエビデンスが偏り、バランスの悪い政策立案になってしまうという危惧がある。エビデンスとしては定量的なものだけでなく、定性的なもの(海外も含む文献調査、関係者からの聞き取り等)も同等に重要性があると考えられる。 ・ 政策の効果を定量的に把握するには、定性的な効果は定量的な指標に分解して、客観的に比較可能にする必要がある(例:「住みやすさ」→人口、小売店数、住居面積、平均所得等)。

 

3.政策案の評価はさらに難しい

 政策効果は、政策を実施してはじめて発生するものですから、政策形成の段階では、予測するしかありません。政策効果の把握には、前述のような技術的な難しさがありますが、政策案の評価では、それに予測の必要性が加わり、かなり困難な作業となります。おそらく、政策形成の過程の中で最も難しい作業の一つと言えるでしょう。

 この予測を適切に行うためには、上記の報告書にあるように、ロジックモデルを活用して、目的・手段や原因・結果の過程を詳細に構造化したうえで、政策効果や費用を予測・把握しやすいような指標を設定する必要があると考えます。その際には、できる限り、数値目標のような目標の達成の有無・程度が理解しやすいものを設定することが望ましいと考えます。そして、可能であるなら、政策資源を投入し活動すれば、現時点と比較してどのような変化をもたらすかを種々のデータ(類似政策の政策評価の結果、先行事例の調査結果等)を基に予測します。この点については、次に掲げる「まち・ひと・しごと創生総合戦略」における、数値目標と重要業績評価指標を検討する際のような思考方法が役立つのではないかと考えます。

 平成26年に制定された「まち・ひと・しごと創生法」により、自治体で「まち・ひと・しごと創生総合戦略」が策定されるようになりました。そこでは、基本目標ごとに設定した数値目標(基本目標で示した取組方針に基づき各種事業を実施した結果の到達度を表す数値)と重要業績評価指標(施策ごとの進捗状況を検証するために設定する指標、KPI:Key Performance Indicator)をもとに、実施した施策・事業の効果を検証する仕組みになっています。

 例えば、「第2期高知県まち・ひと・しごと創生総合戦略」(令和4年3月)では、基本目標として「「結婚」「妊娠・出産」「子育て」の希望をかなえる、女性の活躍の場を拡大する」を掲げ、目標の1つとして「合計特殊出生率1.70を目指す」としています。そして、「出会いの機会の創出」という施策に関する令和6年度末の重要業績評価指標(KPI)として、「マッチングシステムへの登録者数1000人(現状785人)」を掲げています。

 このような重要業績評価指標を設定することは、政策効果を具体的に把握することに役立つでしょう。また、設定する過程において、政策効果を上げるためにはどのような具体的な施策を行うことが適切かを検討することにも資すると考えます。

 ただ、政策案の評価には、予測が難しいことに伴う限界があります。特に、政策効果を把握するための数値目標を正確に設定することには困難を伴います。このような限界を認識したうえで、衆知を集めて政策効果をできる限り正確に把握できる指標を考えるとともに、その中で、効果が高い具体策を見出す努力をする必要があると思います。また、このような限界があるゆえ、事後の政策評価とその結果の反映が必要となってくると思います。

 

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(元)参議院常任委員会専門員・青山学院大学法務研究科客員教授 塩見 政幸

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