政策トレンドをよむ

月刊「地方財務」

人口減少時代の企業経営と人的資本 ― 人を惹きつける「ストーリー」の力|政策トレンドをよむ 第42回

NEW地方自治

2026.10.07

目次

    ≪ 前の記事 連載一覧へ
    時計のアイコン

    この記事は4分くらいで読めます。

    ★「政策トレンドをよむ」は「月刊 地方財務」で連載中です。本誌はこちらからチェック!

    月刊地方財務 2026年9月号

    月刊 地方財務 2026年9月号
    特別企画:財政課職員が選ぶ業務に役立つ100冊
    編著者名:ぎょうせい/編
    販売価格:1,870円(税込み)
    詳細はこちら ≫

    【政策トレンドをよむ 第42回】
    人口減少時代の企業経営と人的資本
    ―人を惹きつける「ストーリー」の力

    EY新日本有限責任監査法人 FAAS事業部
    シニアマネージャー
    池田 宇太子

    ※2026年8月時点の内容です。

     今年2月、金融庁の「企業内容等の開示に関する内閣府令」が改正された。これにより、上場企業は「企業戦略に関連付けた人材戦略」について、有価証券報告書において新たに記載することが必要となった。

     人的資本についての記載が最初に求められたのは、同府令の2023年改正時である。その際は「人材育成方針」「社内環境整備」、及びそれらに関する指標と目標を明記するという大きな転換点であった。それから3年が経過し、今回の改正で、企業は自社の経営方針に直結する問題として「人的資本」を捉え直す必要が生じた。

     さて、「経営」と「人」との関係をどう考えるかについては、政府のガイドラインにおいて考え方が示されている。そこでは「経営戦略・ビジネスモデル」から「人材戦略」「人的資本関連の指標及び目標」までを一気通貫で提示することが望ましいとされている。(図1)

    図1 人的資本開示の考え方
    考え方のイメージ
    出所:内閣官房、金融庁、経済産業省「人的資本可視化指針(改訂版)」(2026年3月)を基に筆者作成

     「人材戦略」を「経営戦略」に位置付けることこそが競争力を生み出す源泉となるという考え方については、上場企業だけに限った話ではない。よく言われることであるが、人的資本への投資に着目しているのは、資本市場のみならず、労働市場もまた同様であるからだ。中小企業であっても、人を惹きつける企業は、自社の「人的資本」ついてしっかりと明確化し訴求しているケースが多い。

     そのような事例の1つとして、愛知県にある大橋運輸株式会社をみてみよう。同社のあゆみと人的資本に係る関係を非常に簡略化すると、図2のように表せる。

    図2 大橋運輸(株)のビジネスモデルと人的資本との関連の変遷
    表とグラフ
    出所:経済産業省「ダイバーシティ経営企業100選ベストプラクティス集」(2016年度、2020年度、いずれもEY作成)、同社ホームページ並びにヒアリング結果を基に筆者作成

     2000年代、大手企業の下請け構造から脱却し自動車部品輸送の直接取引へビジネスモデルを転換するためには、従来人材では質量ともに不足しており、高度なスキルや複雑なオペレーションに対応できる人材の育成や新たな採用が必要であった。そこで健康経営を基軸としたドライバーの健康増進や社員満足度の向上、そうした施策を実行できる人材の採用などの取組を行っている。一方で、地域の個人顧客を対象とした生前整理・遺品整理事業などのB to C事業を拡大するため、顧客ニーズ等を把握する必要があり、そうした中で多様な人材の活躍が経営戦略上必須となっていった。現在では、「世界から注目される“キラリと光る”会社」を目指し、企業理念「事業を通じて地域に貢献する」を実現すべく、意識の高い人材を獲得しながら実際に様々な地域活動への参加が行われている。

     いずれの時代を通しても、その時々のビジネスモデルに照らして「必要な人材像」と、その確保・育成のための取組が進化していることに気づかされる。ただ漠然と「できる人が足りない」のではなく、「何を実現したいか」と「そのためにどのような人材が必要か」が常に結びついて、明確に「ストーリー化」されていることに特徴がある。そうした経営上の背景を踏まえたストーリーを社内外、地域内外に発信し続けてきたことにより、同社では適時に必要な人材を得て成長・発展を続けてきている。

     人的資本の可視化として重要なのは、自社の経営戦略を実現するためにどのような人材が必要であり、その人材をいかにして確保・育成しようとしているのかを、1つのストーリーとして示すことである。人口減少時代においては、そのストーリーこそが投資家だけでなく、求職者や地域社会から選ばれる理由となる。

     中小企業の人材戦略構築に関しては、中小企業庁が「中小企業・小規模事業者人材活用ガイドライン」や事例集を公表している。自治体は、こうした動きに呼応し、成長企業の人的資本可視化を促し、先進企業を地域の核としてネットワーク化することで、地域全体の産業力強化や労働人口の流入にもつなげていく取組が求められている。

     

    私たちは、持続可能な社会の実現に向け、調査分析から政策提言、実行支援まで一貫して支援しています。
    本記事に関するご相談は以下よりお気軽にお問い合わせください。
    EY新日本有限責任監査法人 FAAS事業部 ガバメント・パブリックセクター
    https://www.ey.com/ja_jp/functional/forms/contact/gyosei-online

     

    ★「政策トレンドをよむ」は「月刊 地方財務」で連載中です。本誌はこちらからチェック!

    月刊地方財務 2026年9月号

    月刊 地方財務 2026年9月号
    特別企画:財政課職員が選ぶ業務に役立つ100冊
    編著者名:ぎょうせい/編
    販売価格:1,870円(税込み)
    詳細はこちら ≫

     

    ≪ 前の記事 連載一覧へ

    アンケート

    この記事をシェアする

    • Facebook
    • LINE

    すぐに役立つコンテンツ満載!

    地方自治、行政、教育など、
    分野ごとに厳選情報を配信。

    無料のメルマガ会員募集中

    関連記事

    すぐに役立つコンテンツ満載!

    地方自治、行政、教育など、
    分野ごとに厳選情報を配信。

    無料のメルマガ会員募集中

    月刊「地方財務」

    月刊「地方財務」

    株式会社ぎょうせい

    閉じる