自治・地域のミライ

ガバナンス編集部

自治・地域のミライ|環境を逆手に取り、郷土愛と自治力を深めることでまちの未来を描く 埼玉県小鹿野町長 森 真太郎

NEW地方自治

2026.06.30

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埼玉県小鹿野町長
森 真太郎


2017年、広域行政職員から地元・小鹿野町長に就任した森真太郎氏。就任から9年、首都圏から約2時間とはいえ、決して公共交通機関などが恵まれているわけではない同町で、どのような信念を持って舵取りをしてきたか。郷土愛を育むまちづくりに奮闘する森町長のまちへの想いを聞いた。

森真太郎さんの写真
2023年3月にできた新庁舎1階のパサージュで。格子天井は秩父銘仙や川の流れをイメージした柔らかな波形のデザインが特徴的。延べ床面積約2400㎡の純木造庁舎で、町有林を間伐して得たスギやヒノキなど計約5500本を内外装材に活用し、建物の1次エネルギー消費量76%カットを実現させたという。

埼玉県秩父郡小鹿野町

1869年に小鹿野村が小鹿野町と改称。1889年に町村制施行により、小鹿野町(第1次)に。その後2度の合併をし、2005年小鹿野町と両神村が合併し、現在の小鹿野町に。町制施行も県内では川越に次いで古く、中心部の小鹿野地区は県内でもいち早く教育・交通・産業の振興など各分野で近代化が進められ、西秩父地域の中心地として発展。2023年3月に新小鹿野役場庁舎が開庁。日本百名山の両神山、日本の滝百選の丸神の滝、平成の名水百選の毘沙門水、日本の地質百選の「ようばけ」などに代表される自然に恵まれる。地芝居の小鹿野歌舞伎も盛ん。キャッチコピーは「花と歌舞伎と名水のまち おがの」。26年6月1日現在、人口9672人、4406世帯。2026年度の当初予算一般会計は76億6800万円。


まちに対する愛着は、住民に対する愛情

人と文化を守り、郷土愛を育む

――2017年に町長に就任。どのような思いだったか。

 地元・小鹿野町で生まれ育った。大学卒業後、秩父広域市町村圏組合事務局に勤めた。38年間勤め、職員として秩父地域の広域行政に携わる仕事をしてきた。60歳で定年を迎えるタイミングで、秩父1市4町(秩父市、横瀬町、皆野町、長瀞町、小鹿野町)の水道事業の広域化が始まった。私は人口減少時代において、広域化は重要と考え、しっかり推進していきたいと思っていた。また、小鹿野町には「小鹿野歌舞伎」をはじめとした伝統芸能などの文化が根付いている。これらをしっかり後世に伝え、良い文化は残していきたいという思いも持っていた。まちにとって良いものは伸ばしていきたいという思いで立候補した。

森真太郎さんの写真

――2025年10月から3期目に入った。町長就任からこれまでを振り返ってみて。

先代の町長時代から当町では、埼玉県内でも早くから給食費の無償化、18歳までの医療費無料、通学費や教材費の補助など子育て世代へのサービスの充実を図ってきた。このような下地を引き継ぎながら人口減少に立ち向かうために、少子化対策、子育て支援を行ってきた。

 また、小鹿野町には、埼玉県23町村で唯一の公立病院(国民健康保険町立小鹿野中央病院)がある。この小鹿野中央病院を中心に、保健・医療・福祉・介護の「地域包括ケアシステム」が充実するよう努めてきた。住民の命と健康を守ること、特に割合の高い高齢者へのケアに力を入れてきた。これらを充実させることがシビル・ミニマム(住民の最低限必要な生活水準)だと考えている。そしてこれらに加えて地域経済の底上げにも力を入れてきた。

 少子化対策は、前述のとおり、様々な手を打ってきたが、成果を挙げることはなかなか難しい。これは全国でも苦慮している自治体が多いのではないだろうか。他の自治体との差別化をどう図るか試行錯誤をしている。子育てに対するお金の給付も大切かもしれないが、この競争だけでは都市には適わない。視点を切り替えて、子どもたちの「心の教育」を大切にしている。

 小鹿野は歌舞伎が盛んなまちだ。伝統芸能を授業に取り入れることで、まちの魅力を幼い頃から身近に感じ、郷土愛が芽生えてくれれば、将来このまちに残ってもらえるのではないかと考えている。

 住民が「タウンプライド」を持てるようになることが重要だろう。人口が減っても、誇りがあり、地域コミュニティが強固であれば、衰退しにくくなるのではないか。最近では、人口減少は受け入れつつ、賢く縮みながらも町の元気は失わないように、町民一人ひとりがタウンプライドを持って、健康で過ごせる元気なまちであり続けたいという思いが強くなってきた。

――「郷土愛」につながる、秩父地域の歌舞伎は、ご自身もやられてきた。

 私も町長以前の秩父広域市町村圏組合職員時代には、職場のあった秩父市で「秩父歌舞伎」を演じていた。秩父夜祭の屋台芝居(屋台歌舞伎)をしていた。秩父歌舞伎も小鹿野歌舞伎もルーツは同じだ。江戸時代後期の文化・文政時代がこの地域での歌舞伎のはじまりだ。江戸の大歌舞伎に修行に行っていた人が帰郷して、若者に伝えたといわれている。

 現在、町内では、小鹿野歌舞伎保存会が子供歌舞伎の指導なども行っている。秩父地域の子供歌舞伎は、石川県小松市と滋賀県長浜市と並び、日本三大子供歌舞伎とも称されている。

 町立小鹿野中学校では、総合的な学習の一環で保存会の指導を受けながら歌舞伎に取り組んでいる。そこでは、歌舞伎の演技だけでなく、化粧、三味線、太鼓など裏方も受け持ち、一連の過程を学習している。このようにして上演できるのは全国でも例がないだろう。例年11月に開催される歌舞伎・郷土芸能祭で上演を行っている。

森真太郎さんの写真
手に持つのは町内で作られている「秩父ワイン」。自社畑産100%のブドウのみで醸したプレミアムワイン「DOMAINE CHICHIBU」のボトル。

――町のHPで町内の事業所を直接町長が訪ねて、紹介をしている。珍しい取組みでは。

 町内には様々な事業所があり、それも素晴らしい企業ばかりだ。灯台下暗しではないが、なかなか知られていない企業も多く、特に若い人には知ってもらいたいという思いから始めた。まずは知ってもらい、就職の選択肢に入れてもらいたいという思いで、私から企業にオファーして伺い、インタビューをしてきた。訪問し、話を聞いて企業の魅力を私自身が知ることで、地元をより知る機会にもなった。企業からは、雇用につながったという声もあり、少なからず効果はあるのではないかと考えている。

――1期目の終盤からはコロナ禍に入った。その時を振り返って。

 ワクチン接種などは秩父1市4町で連携し、郡市医師会とも協働した。市町が連携したことで、住民の方はその中でどこでもワクチンを接種することが可能になった。全庁を挙げて職員が一致団結して取り組んでくれた。

 しかし、観光面ではそれなりにダメージもあった。病院同様、当町は県内23町村で唯一、国民宿舎(両神温泉国民宿舎両神荘)を持っている。この時期は宿泊客が激減した。

 また町内には、埼玉県と中国・山西省の友好県省締結10周年で建設された「神怡舘(しんいかん)」という記念館があった。中国の寺院のような外観をしており、山西省から贈られた仏像や絵画などが展示されていたが、2018年に閉館し、県から譲り受けていた。そこに2020年にボルダリング施設を作った。当町は、日本百名山の両神山も有名だが、「ロッククライミングの聖地」として全国的な名峰の二子山がある。屋外のクライミングとインナーフィールドでもボルダリングという「山岳観光資源」を活用して町おこしをしようという取組みだ。当時は東京2020オリンピックでボルダリングが正式種目として採用され、その追い風に乗ろうかというときだった。しかし、コロナ禍でオリンピックは延期されてしまい、若干出鼻をくじかれたようなところもあった。この「クライミングパーク神怡舘」は、コロナが落ち着き、地域最大級の屋内ボルダリング施設として多くの利用者が訪れていただいている。

森真太郎さんの写真
もり・しんたろう
1956年、小鹿野町生まれ。小鹿野小学校・中学校、秩父高等学校、中央大学 商学部卒業。大学卒業後、秩父広域市町村圏組合事務局に38年間勤務。2017年10月の小鹿野町長選に立候補し、初当選。現在3期目。趣味は、歌舞伎・ゴルフ・絵画鑑賞。

便利とは言えない環境を逆手に

――都心からの鉄道などは隣の秩父市まで。公共交通機関が必ずしも便利とは言えない環境で、どのように魅力を発信しているのか。

 シティプロモーションでは「終点の先、秩父の秘境へ。おがのまち」というキャッチコピーを打ち出している。当町に直接つながる鉄路や高速道路などはない。この部分は当町の弱みの一つかもしれない。しかし、この環境を逆手にとって小鹿野町の秘境感や、もっと“秩父らしさ”を売り出していこうとしている。古い町並みも残り、伝統文化や食、暮らしぶりなどを活かしていきたい。

 また、20年前から「オートバイのまちおこし」をしてきた。長らく続けてきたことでバイクライダーの方々には、ツーリングの目的地として認知されている。通称バイク神社と呼ばれる小鹿神社では、ライダー向けのお守りも作っている。クライミング同様、他にはないようなニッチで尖った魅力をつくっていくことが重要と感じている。

 町内には町営バスと民間バスだけでなくデマンドタクシーも運行している。特に高齢者の方がドアtoドアで病院や買い物に行けるような、住民の足の確保が非常に重要だ。現在は町内だけのデマンドに限られているが、できれば秩父地域1市4町に広げたいという思いもある。

 秩父地域は消費や医療の中心は秩父市になる。(私が以前勤めていた)秩父広域市町村圏組合では、消防、ごみ、火葬場、水道、し尿処理などの事業を担っている。首長になり、やはり小さい町単独では難しい部分も多いと実感することも多い。その上でもやはり広域的な連携は大切だ。昨年3期目に立候補する際に「地域医療連携推進法人制度」を導入したいという公約を掲げた。連携する病院と役割分担をし、連携・協力し、地域住民の医療を守り、そして命を守りたいと考えている。

 ちなみに、秩父地域には秩父札所34観音霊場という約100㎞の巡礼道がある。まさに秩父地域を回るコースなのだ。ある意味先人たちの時代から、この広域圏が出来上がっていたといえるだろう。

――観光の話も出たが「関係人口」などはどう考えているか。

 定住人口があまり望めないのであれば、関係人口、交流人口はこれからの地域の活性化を支える大きな基盤になると考える。前述したように、当町は山岳資源に恵まれ、観光的側面の交流人口はそれなりにいるだろう。もう一歩踏み込んだ関係人口、二地域居住などで地域に関わってもらえるような人にアプローチしたい。首都圏に近い田舎であるという優位性を活かして、平日は都心で暮らし、週末は小鹿野で暮らすというような形だ。町営住宅を活用した「お試し移住住宅」を提供し、町での生活を体感してもらおうと力を入れている。

森真太郎さんの写真
議場は執行部席も議員席も傍聴席もフルフラットのバリアフリー仕様。イベントや会議室等、多目的に利用される。災害時には避難所にもなる。議場に障子があるのも珍しい。

職員は黒子であれ

――総合振興計画で「自治力」を掲げている。自治・地域のミライをどう描いているか。

 当町の最上位計画である総合振興計画では、まちづくりの基本戦略を「『自治力』と『ブランド力』で切り拓くまち」としている。「自治力」は我々のような小さなまちでは肝となるだろう。住む人々も安心して暮らすことができ、災害時には互いに助け合うような関係性だ。倉尾地区(旧倉尾村)という中山間地域では、地域住民が中心となり「健交サロン」というコミュニティを立ち上げ、住民の「健康」と「交流」を活性化させてきた。災害時の避難計画なども住民間で密にコミュニケーションを取っており、実際にしっかり運用されている。まさに「自治力」の好例だ。このような事例を参考に、現在でも集落支援と地域住民とが連携して地域コミュニティの活性化に取り組んでおり、今後も行政だけでは難しい部分は集落支援員などと協力しながら強化していきたい。

 人口減少を受け入れ、それを前提としたまちづくりを進めて行く必要があるだろう。今住んでいる住民の人達が幸せに過ごせること、そして関係人口、交流人口が交わることでまちに活気をもたらすものと考えている。

――最後に自治体職員にメッセージを。

 自治体職員には大局的に物事をとらえ、俯瞰して見ながらも、小さなところにも目が行き届くようであってほしいと思う。目の前の仕事も当然大切だが、まちがどう動いているのか全体を見ながら役割を考えてほしい。また、単に職務命令に従うのではなく、自分で考えて自走できるような職員になって欲しいと思っている。

 当町でも町外から通っている職員も多い。住んでいなくとも働く自治体に「郷土愛」を持ってもらいたい。まちに対する愛着を持って欲しいし、それは住民に対する愛情でもあるだろう。小さな自治体の職員は、様々な役割を期待されている側面もある。住民と距離が近いからこそ、可能であれば消防団や地域活動などに参加することも住民とのコミュニケーションの方法の一つだ。

 職員は、「(まさに歌舞伎ではないが)黒子でいいのではないか」と言っている。主役は住民だ。住民のために知恵を使ってバックアップする自治体職員であってほしい。例えば、法律の解釈ひとつでも「できない」と杓子定規に言うのではなく、「こう解釈すれば住民のためになるのではないか」という柔軟な発想が重要だ。黒子であっても職員としてのプライドは失わずに、自分で考えて動ける人材がこれから必要になってくるだろう。

(取材・構成/本誌 浦谷收、写真/五十嵐秀幸)

 

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