政策課題への一考察

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自治体経営の持続可能性と事業廃止マネジメントの再構築 ―人口減少時代の政策資源再配分戦略|政策課題への一考察 第120回

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2026.05.11

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【政策課題への一考察 第120回】
自治体経営の持続可能性と事業廃止マネジメントの再構築
―人口減少時代の政策資源再配分戦略

株式会社日本政策総研執行役員
久保 勝己

※2026年3月時点の内容です。

1 はじめに

 全国の自治体で財政難が深刻化している。これまで堅実な財政運営を行ってきたとされる自治体でさえ、財政調整基金の枯渇や大型事業の中止に追い込まれている。これは単なる一時的な財政ショックではなく、人口減少・少子高齢化・人材不足という構造的要因が複合的に作用した結果であり、自治体経営のパラダイム転換を迫る事態である。

 本論では、自治体財政の構造的危機を踏まえつつ、事業廃止マネジメントの再構築が不可避である理由と、その実践の方向性を論じる。特に、事業廃止を「痛み」ではなく「進化」と捉える視点の重要性を強調し、自治体経営の持続可能性を確保するための戦略的アプローチを提示する。

2 自治体財政の構造的危機と事業廃止の必然性

 自治体財政が逼迫する背景には、複数の構造的要因が存在する。近年では合併算定替の縮減や地方交付税の伸び悩み、積極的投資の累積、公債費の増大などが挙げられる。そして人口減少による税収減はその典型である。特に深刻なのは、地方税収などの一般財源が伸び悩む一方で、扶助費などの義務的経費が右肩上がりで増加している点である。

 義務的経費の増加は自治体の裁量を奪い、政策的経費の余地を縮小させる。結果として、既存事業の維持すら困難となり、財政調整基金の取り崩しに依存する「延命策」が常態化する。財政調整基金がほぼ枯渇する自治体が相次いでいる現状は、危機の深刻さを如実に示している。

 さらに、人口減少は単に税収を減らすだけではない。地域社会の担い手が減少し、行政サービスの受益者は増加する一方で、提供主体である自治体職員の確保も困難になる。財政・人材・地域力という3つの資源の同時縮小が進行しているのである。

 こうした状況下では、事業廃止は単なるコストカットではなく、自治体経営の持続可能性を確保するための戦略的選択となる。むしろ、事業廃止を避け続けることこそが、将来の行政サービスの質をき損し、住民福祉を長期的に低下させるリスクをはらむ。人口減少社会において、自治体は「すべての事業を維持する」という前提を捨て、政策資源の再配分を前提とした経営へと転換する必要がある。

3 なぜ自治体は事業を廃止できないのか

 事業廃止が困難となる理由は、制度的・心理的・政治的要因が複雑に絡み合っている点にある。

(1)立案と廃止の非対称性

 事業は首長のアイデア、議会・地域・各種団体からの要望、職員の提案など多様なルートで生まれる。しかし、一度始めた事業を廃止するのは“超難関”とされる。新規事業は政治的に評価されやすく、住民からも歓迎されやすい。一方、廃止は利害関係者からの反発を招きやすく、担当課や管理職にとってリスクしかないように映る。

(2)説明責任の重さ

 事業を廃止すると、庁内調整、議会説明、住民説明、関係団体との協議など、新たな業務が発生する。しかも、それは誰もが避けたがる業務である。担当課は批判の矢面に立ち、管理職は保身的になり、首長は選挙を意識して廃止に消極的になる。こうした構造では、廃止の合理性がどれほど高くても、組織としての意思決定は進まない。

(3)「前例踏襲」の文化

 自治体組織には、前例踏襲の文化が根強い。事業が長年続いているという事実そのものが、継続の根拠として扱われる。事業の必要性が低下していても、「これまで続けてきたから」という理由で廃止が回避される。

(4)廃止のメリットが可視化されない

 事業を廃止しても、担当課の評価が上がるわけではない。むしろ、批判や反発を受ける可能性が高い。廃止によって生まれる財源や人員の余力は、組織全体のメリットであり、担当課の直接的な利益にはならない。この「メリットの非対称性」が廃止を阻む。

(5)政治的リスクの集中

 事業廃止は、首長にとって選挙リスクを伴う。特に、特定の団体や地域に利益をもたらしてきた事業を廃止する場合、反発は強い。政治的合理性と行政的合理性が乖離する場面では、廃止判断は先送りされがちである。

4 事業評価の限界と「成果」と「必要性」の峻別

 従来の事務事業評価は、成果指標の達成度を重視してきた。しかし、自治体が実施する事業は、一定の成果が必ず発現する。したがって、成果の有無を基準に廃止を判断することはできない。

 むしろ重要なのは、その事業が現在の政策目的に照らして「必要性・優先度が高いかどうか」である。「成果が大きくても必要性が低い事業は廃止すべき」「成果が小さくても政策目的に不可欠な事業は維持すべき」といった視点は、事業廃止の議論を“感情論”から“政策論”へと引き上げる鍵となる。

 さらに、事業評価には次のような構造的限界がある。

(1)成果指標の設定が恣意的

 多くの事業で成果指標は「設定しやすい指標」に寄りがちであり、政策目的との整合性が弱い。

(2)成果の因果関係が不明確

 自治体の事業は複数の要因が絡み合うため、成果が事業の効果なのか、外部要因によるものなのか判断が難しい。

(3)成果の大小が優先度を決めない

 成果が大きくても、政策目的との整合性が低ければ廃止すべきである。逆に、成果が小さくても、政策の根幹を支える事業は維持すべきである。

 事業評価は「成果の大小」ではなく、「政策目的との整合性」「優先度」「代替可能性」「受益と負担のバランス」など、多面的な視点から再構築されるべきである。

5 飯能市・草津市の事例にみる総点検の実践

 飯能市の緊急財政対策プランは、事務事業の総点検を通じて、聖域なく事業の見直しを進めた点で注目される。補助金、委託料、負担金、手当、イベント、施設管理など、多岐にわたる事業が対象となり、見直しの視点も明確に整理されている。

 草津市では平成29年度から実施事業等の課題整理や手法の検討及び関係者等への説明過程を「見える化」した業務見直し工程表(スクラップロードマップ)を策定している。事業廃止にあたっては「基準が曖昧」という問題が生じがちだが、草津市の基準は比較的明確に示されている。さらに職員の働き方改革施策「Kusatsu Smart Project Ⅱ」とも連動し、職員の労働負荷軽減の視点も取り入れられている。

表1 飯能市事務事業見直しの視点(令和7年4月版)における「見直し対象とする事務事業」
事業一覧

表2 草津市業務見直し工程表(スクラップロードマップ)対象事業等の該当基準
該当基準一覧

 これらの視点は、単なる財政削減ではなく、政策目的に照らした合理的な再編を可能にする。飯能市や草津市の取り組みは、他自治体にとっても有効なモデルとなり得る。

 さらに注目すべきは、事業廃止を「財政危機への対症療法」としてではなく、「政策資源の再配分」という戦略的視点から捉えている点である。これは、自治体経営の成熟度を示す重要な要素である。

6 事業廃止を可能にする組織マネジメント

 事業廃止を進めるためには、意思決定を「個人の責任から機関の責任へ」転換する必要がある。

(1)組織的意思決定の仕組み

 庁内に行政改革本部などを設置し、首長、副首長、部局長が参加する機関による検討・意思決定を行うことで、廃止に伴う個人攻撃や政治的リスクを組織として吸収できる。

(2)担当課の負担軽減

 廃止に伴う説明責任を担当課だけに負わせるのではなく、組織全体で支える仕組みが必要である。特に、議会説明や住民説明は企画部門や財政部門などの首長部局、さらには首長や副首長など経営幹部が主体的に担うべきである。

(3)廃止を評価する文化の醸成

 事業廃止を「後ろ向きの行為」ではなく、「政策推進のための合理的手段」として評価する文化が必要である。廃止を提案した担当課を適切に評価する仕組みも求められる。

(4)人材マネジメントとの連動

 事業廃止は人員配置の見直しと不可分である。廃止によって生まれた人員を重点政策に再配置することで、組織全体のパフォーマンスを向上させることができる。

7 住民や利害関係者との合意形成を図るために必要な視点

(1)現状の可視化と方向性の明示

 人口減少や財政状況といった自治体を取り巻く現状を可視化したうえで、事業を実施することが自治体の目指す方向性と一致しているかを明らかにする。廃止の先に何を実現したいのかという将来像、つまり「ビルドが必要だからこそのスクラップ」という再投資の方向性を示すことで、住民や利害関係者との合意形成を図ることが可能となる。

(2)外部評価組織の活用

 庁内だけで廃止議論の責任を抱え込まず、外部有識者や住民代表、専門家などで構成する外部評価組織の客観的視点を取り入れることで、廃止基準や判断プロセスを透明化し、事業の必要性や費用対効果を多角的に検証することができる。結果として「なぜ廃止するのか」「なぜ再投資が必要なのか」を客観的な評価に基づいて説明できるようになり、住民理解の促進にもつながる。

8 事業廃止の真の目的―削減ではなく「再投資」

 事業の廃止・見直しは経営資源を確保するための手段にすぎない。真の目的は、確保した財源・人材を、より必要性・優先度の高い政策へと再投資することである。

 人口減少時代において、自治体はすべての事業を維持することはできない。貢献度(地域課題の解決に効果があるか)・優先度(緊急性と重要性がともに高いか)・持続性(財政的にも組織的にも維持可能か)の観点から、地域の将来にとって本当に必要な政策を実行することが求められる。

 この「再投資」の視点が欠けると、事業廃止は単なる削減に終わり、住民の不満を招くだけである。逆に、再投資の方向性が明確であれば、住民の理解も得やすくなる。

9 おわりに―事業廃止は自治体経営の“痛み”ではなく“進化”である

 事業廃止は住民や関係者の痛みを伴う。しかし、その痛みを恐れて先送りすれば、将来の行政サービスはより深刻な形で劣化する。

 事業廃止は「なにをやめるか」だけを考えるプロセスではない。事業の目的をもう一度見つめ直し「なにを残すべきか」「なにを創っていくのか」を明らかにすることで自治体が持続可能性を取り戻し、政策を前進させるための“進化のプロセス”である。

*政策コンテンツ交流フォーラムは、株式会社日本政策総研、神戸シティ法律事務所が連携ハブとなり、国・地方自治体・民間企業のメンバーを架橋し、政策的課題を多面的に検討するネットワークです。本コラムを通じて、フォーラムにおける課題認識、政策創造の視点等をご紹介します。

本記事に関するお問い合わせ・ご相談は以下よりお願いいたします。
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https://www.j-pri.co.jp/about.html

 

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