
【特別企画】対談《後編》総合政策としてのスマートウエルネスシティで創造する都市の健幸(Well-being)最大化|東京都中野区
NEW地方自治
2026.04.02
目次
総合政策としてのスマートウエルネスシティで創造する都市の健幸(Well-being)最大化
――東京都中野区の取組みを中心に②
スマートウエルネスシティ(SWC)や内閣府SIP「包摂的コミュニティプラットフォームの構築」をテーマにした東京都中野区の酒井区長と、筑波大学スマートウエルネスシティ政策開発研究センター長の久野教授による対談の後編。前編の中野区の官民連携によるスマートウエルネスシティ推進のねらいや取組み状況などの話に続いて、女性の健康支援や子どもの健康施策の取組み状況、SIP「MOM UP PARK」の意義などについて語り合ってもらった。

左:酒井直人(さかい・なおと) 東京都中野区長
右:久野譜也(くの・しんや) 筑波大学スマートウエルネスシティ政策開発研究センター長・内閣府SIP「包摂的コミュニティプラットフォームの構築」プログラムディレクター
喫緊の課題として女性の健康支援を重点化
久野 前回、中野区が「スマートウェルネスシティ中野構想」に基づいてスマートウエルネスシティを推進し、「健康づくり=ヘルスリテラシーの向上」「つながりづくり=ひとりでも安心できる地域づくり」「まちづくり=歩きたくなる魅力的なまちの実現」に取り組んでいるお話を伺いました。その中で、健康づくりでは女性の健康支援を打ち出しているのが特徴だと思いました。
我々もいまSIP(内閣府戦略的イノベーション創造プログラム)で女性の健康に注力しています。その理由の一つは、OECD加盟の先進国の中で日本の女性の「痩せ」(BMI<18.5)の割合が20年以上にわたってワースト1位(図表1参照)で、特に近年は若年者の2割が「痩せ」であることが課題視されているためです。中野区で女性の健康づくりをしっかり位置づけられた意図を教えてください。
図表1 OECD 加盟国における女性の痩せの割合

酒井 私も女性の健康に対して問題意識を持ち、懸念していました。そのため、重点的に女性の健康支援に取り組むことにしたのです。
久野 女性の健康問題に取り組む背景には、どのような問題意識があったのでしょうか。
酒井 まず、中野区においても、女性の健康対策はあまり進められていませんでした。もっとも、それ以前の問題として健康や予防の施策が弱かったという課題がありました。そこで、きちんと取り組むために、従来の健康施策の担当部署に加え、地域包括ケアシステムの中でも取り組もうという話をしたのが2年〜3年前です。健康施策に力を入れ、その中でも喫緊の課題として女性の健康支援を行うことにしました。
久野 自治体の保健や福祉の現場ではいろいろな課題が山積しています。例えば、健康分野では特定健診・保健指導に注力しなければならないので、そのほかの課題になかなか手をつけられないのではないでしょうか。そのような状況の中で女性の健康施策を打ち出したことに対し、現場の反応はいかがでしたか。
酒井 職員向けに専門家を招いて健康経営の講演を行い、その中で女性の健康問題について伝えています。ですから、その取組みの必要性は十分認識していると思います。
久野 女性の健康対策で、特に力を入れている年代層はありますか。
酒井 中野区は3人に1人が20 代〜30代で、その世代の女性が非常に多い。ですから、20代〜30代の女性が健康に関心を持てば、区全体の健康意識も変わります。まさにポピュレーションアプローチ(*1)としてその世代が先導的な対象になるのでしっかり取り組もうと考えました。もちろん、その手前の中学生や高校生に対する健康教育も大事なので、そこにも力を入れています。
久野 我々のプロジェクトでは、若年女性の健康リテラシー向上のポピュレーションアプローチとして「MOM UP PARK」(図表2参照)を推進しています。その取組みを強化するため、特別プログラム「20分のホント」を開発して提供しています。1回20分の楽しく学べる無料のオンライン講座で、スマートフォンで全国いつでもどこででも視聴できます。自治体の健康施策に導入してもらいたいと働きかけているところです。
酒井 「特別プログラム」は、女性だけでなく中野区民にぜひ見てもらいたいと思っています。
図表2 「MOM UP PARK」の実績・ユーザーの評価・エビデンス

*1 特定のリスク保有者ではなく、地域住民などの「集団全体」に対し、健康増進や生活習慣病予防の働きかけを行い、集団全体の健康リスクを低下させ、健康寿命を延ばそうとする手法。特定の病気のリスクが高い人を個別に指導するのではなく、誰もが自然と健康的な行動をとれるような「環境づくり」や「意識付け」が中心。

酒井直人区長
子どもの健康施策を地域包括ケアの中でも推進
久野 酒井区長は職員出身で、健康・福祉分野に詳しいこともあり、ごく自然にポピュレーションアプローチの話をされました。健康施策ではハイリスクアプローチが中心になっており、首長の口からポピュレーションアプローチという言葉が出てくることは全国的にも少ないような気がします。もちろん、自治体のセーフティネットとしてリスクの高い人を支援する仕組みは必要です。ただ私としては、スマートな賢いまちづくりの観点から、何かあれば救う仕組みはつくっているけれども、不健康になりにくいまちにし、さらにそれが幸せを高めることにつながってほしいと願っています。ポピュレーションアプローチとして女性や年齢層の上流で予防の視点を打ち出したことは、かなり先進的だと思います。そのように発想した思考のプロセスを教えてください。
酒井 地域包括ケアシステムを担当したとき、そこには予防という考え方が入っており、厚生労働省は主に高齢者を想定していました。その後、中野区は地域包括ケアシステムの対象を高齢者だけでなく、子どもや障がい者などすべての人に広げる段階になりました。そのときも私は課長でしたが、対象が広がったときに子どもの段階から何に取り組めば将来的な予防になるのかを考えるようになり、ポピュレーションアプローチとして子どもの頃から予防策に取り組んだほうがいいという発想になりました。
久野 中野区では子どもの健康施策に力を入れていますが、我々が課題に感じているのは、SIPでも注力しているとお話しした女性の健康です。例えば、子育て中の20代〜40代の女性は子どもの運動や食事などの健康づくりにかなり気を配っています。ところが、自分自身の運動や健康には関心がないのではないかと感じます。よくあるのは、子どもをいろいろなスポーツクラブに入れており、子どもは一生懸命運動している一方、母親はその応援に行って座って見ているだけというものです。
酒井 確かに、子どもにはいろいろ運動させているのに母親は自分自身の運動に無関心ということを、私も感じることはあります。
久野 子どもと母親の運動などの健康づくりをリンクさせて、子どもと一緒に母親も運動するようにすれば、かなりの相乗効果が生まれるのではないでしょうか。

久野譜也教授
いろいろなチャネルで官民連携を促進
久野 SWCの推進においては、行政だけでは難しい面もあると思います。中野区内の民間の活動や民間との連携の状況を教えてください。
酒井 例えば、地域では老人クラブがかなり盛んに活動しています。学校の場合は、PTAとの連携がカギだと思っています。保護者の交流活動として中野区ではPTAのバレーボール大会を行っており、気軽に参加できて運動のきっかけになっているという声を聞きます。アプローチとして、いろいろなチャネルを持つことが大事だと思っています。
久野 チャネルを多様に用意しているとのことですが、企業との連携状況はいかがですか。
酒井 地域包括ケアに資する取組みをしている企業・団体との連携を進めるため、2024年1月に、NIC+(ナカノ・インクルーシブ・ケア・パートナーシップ)協定を創設しました。NIC+協定締結企業・団体は2026年2月末時点で41社にまで増え、区民の健康・福祉の増進や孤独・孤立対策に関することなどで様々な協働の取組みを実施しています。
久野 その協定に関しては、我々も先ほどの「特別プログラム」の普及に向けて締結をさせていただきました(コラム参照)。企業と連携協定を結ぶ自治体が増えていますが、連携協定を結んだものの何に取り組めばいいのかと企業から相談を受けることがあります。事業に結びつけて成果を得るには、何が求められますか。
酒井 取り組みたいことが明確な協定がある一方、具体的な取組みはこれから考えようという包括的な協定もあります。後者の場合は、民間に力を発揮してもらえるよう、自治体も事業を提案できる力をつける必要があるでしょう。
区が民間事業者等との連携協力関係を構築し、民間等が自らの資源やノウハウを活用して、中野区における地域包括ケア体制の充実を図ることを目的として実施する公民連携制度。令和8年1月に㈱つくばウエルネスリサーチと協定を締結し、同社からは主に妊産婦を対象とした健康情報として、MOM UP PARK「特別プログラム 20分のホント」が提供される。
財政難の中 地域に飛び出す公務員に期待
久野 中野区の職員の皆さんからは、自治体の立場を守りながらも民間とうまく連携していこうという意欲を感じます。それはSWCを進める中で培ってきたものでしょうか。
酒井 「地域に飛び出す公務員」という言葉があります。職員には、区役所に籠っていないで民間や地域住民の中に飛び込み、一緒に汗をかいて仕事をしてほしいと区長就任以降8年近く言い続けています。その意識は定着していると感じています。
久野 多くの自治体が財政難で職員数をかなり減らしており、民間との連携の必要性が高まっています。そのような中で、「中野モデル」ともいえる取組みが進められていることを強く感じました。
では最後に、これまでの手応えを踏まえ、首長を含めた自治体職員にメッセージをお願いします。
酒井 私自身、SWCの理念(*2)に非常に共感しており、ぜひ多くの首長にこの理念に触れてもらえればと思っています。SWCによってまちづくりを複合的に進められると確信しているので、SWC首長研究会で一緒に研究できればと思います。
先日、「地域に飛び出す公務員を応援する首長連合サミット」に出席し、地方では地域住民のために職員がガソリンスタンドで給油しているという話を聞きました。それくらい人が足りない実態が広がっており、地域住民や民間と連携する「地域に飛び出す公務員」が求められていることを痛感しました。そういう職員になってもらいたいと願っています。
*2 「ウエルネス(=健幸:個々人が健康かつ生きがいを持ち、安心安全で豊かな生活を営むことのできること)」をこれからの「まちづくり政策」の中核に捉え、健康に関心のある層だけが参加するこれまでの政策から脱却し、市民誰もが参加し、生活習慣病予防及び寝たきり予防を可能とするまちづくりを目指す。
特別プログラム「20分のホント」がスタート!!
意外にむずかしい健康リテラシー向上の支援コンテンツを開発・提供
「予算ゼロ事業」「連携協定」等で即導入可
内閣府SIP「MOM UP PARK」では、育児・家事・仕事に忙しい母親層の健康リテラシー向上を支援する自治体向けの特別プログラム「20分のホント」を新たに開始。健康、子育て、メンタルケア、プレコンセプションケアなど、ライフコースに着目した「1回20分」の楽しんで学べる無料オンライン講座で、専門職がわかりやすく解説。パートナーや支援者にも役立つ内容となっている。
同プログラムは、ハイリスク対応中心になりがちな保健行政を支える伴走型支援DXのうち、とくに健康リテラシー向上支援ツールとして開発されたもので、以下のように、自治体側の負担は最小限で、既存事業と組み合わせれば、効率的に子育て世代の健康リテラシー向上が図れるとして期待されている。
■ママ・パパ等=LINE登録のみ→無料でオンライン参加可能
■自治体等=LINE登録案内のみ(運営や講師選定等は事務局が担う)
既存事業 + 予算ゼロ事業・連携協定等 ⇒ 健康リテラシーup
新たな予算を確保せずに導入できるとして注目を浴びている。普及啓発や住民支援等の支援ツールとして検討してはいかがだろうか。
▼MOM UP PARK(マムアップパーク)「特別プログラム」紹介ページはこちら
【企画提供】
国立研究開発法人 医薬基盤・健康・栄養研究所

つくばウエルネスリサーチ





















