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政策トレンドをよむ 第25回 「関係人口」から考える地方創生

NEW地方自治

2025.05.08

目次

    ※2025年3月時点の内容です。
    政策トレンドをよむ 第25回
    「関係人口」から考える地方創生
    EY新日本有限責任監査法人FAAS事業部
    水上 誠也
    『月刊 地方財務』2025年4月号

     少子高齢化が進むなかで、早急に取り組むべき課題の1つは、地方部における生活基盤の維持と、それを支えるための人材確保である。防災や福祉、公共交通、コミュニティ活動といった生活基盤を維持するためには、人の存在が欠かせない。地方部においては出生数の低下に加え都市部への転出が続いているため、人口減少が一層深刻化している。人口を呼び込む取り組みが、ますます重要になっている。

     2025年1月の衆院本会議で石破茂首相が行った施政方針演説では、地方創生が大きなテーマとして取り上げられた。石破首相は「地方創生2.0」を掲げ、「令和の日本列島改造」に取り組む方針を示した。初代地方創生担当大臣を務めた経験を持つ石破首相のもとで、地方創生がさらなる展開をみせることが期待されている。

     地方部への人口の呼び込みの具体策としては、都市部の住民を対象とした移住促進がまず挙げられる。これまで多くの地方自治体が移住政策を展開してきたが、全国的に人口減少が進む現状においては地域間での「人材の奪い合い」が生じることになり、その実現は容易ではない。移住政策の主な戦略は、都市部にはない環境をPRすることで都市部からの転入を促すことである。たしかに、豊かな自然環境や低い生活コストといった地方部ならではの環境は、都市部の住民に対して一定の訴求力を持つかもしれないが、進学先や就業先が持つ訴求力は、それらを上回る。地域特有の魅力をPRし、移住相談窓口を設置するだけでは、転入の流れを即座に生み出すことは難しい。

     移住政策の限界を踏まえた地方創生として注目されるのが「関係人口」の考え方である。総務省によると、関係人口とは「移住した定住人口でもなく、観光に来た交流人口でもない、地域と多様に関わる人々」を指す。この関係人口が地域づくりの担い手となることが期待されている。例えば和歌山県において、首都圏企業を対象とした地方創生研修を通じて、関係人口の創出が図られた。テレワークによって通常業務を継続しつつ、地域課題をテーマとした研修プログラムに取り組む参加者は、その後も地域での交流を継続するようになり、そのエリアの関係人口となった。関係人口の創出によって、「人材の奪い合い」ではなく「人材の共有」が実現することになる。

     関係人口の創出は、今後も試行錯誤と検証が繰り返されていく領域であるが、人材の呼び込みを基礎とした地方創生において欠かせないのは、「部門を超えた連携」と「中長期的な視点」である。まず「部門を超えた連携」では、人材が地域と継続して関わりを持てるように、人材を多方面からサポートする体制を整えることが重要になる。例えば、サテライトオフィスを用いた二地域居住事業を実施する場合、求められる取り組みは、法人向けのPR活動、空き家活用を見据えた住まいの確保のサポート、情報機密性に優れた通信環境整備のサポート、コミュニティ活動の案内等である。各取り組みを実施するためには都道府県や市区町村といった庁内における部局間の連携が求められるほか、民間事業者等との官民連携によって当該事業の効率化や魅力向上を図ることも想定される。また、呼び込む人材や提携する企業によってサポートのニーズは異なり、それらの組み合わせによっても変わり得るものであるため、庁内外で柔軟に連携できる体制が望ましいといえる。

     続いて、関係人口創出の特性を踏まえた「中長期的な視点」が不可欠になる。先述の二地域居住事業について考えたとき、まず、参加企業(あるいは参加者)の募集に向けたPR活動は長期的・継続的に実施することが望ましく、年度を跨いだアプローチが理想的である。各地域が有するリソースも考慮しながら、人材側の意向を汲み取りPR活動を展開することが、結果として実効性を持つ事業の展開へとつながっていく。また、当該地域の関係人口となった人材は、ライフステージの変化に伴い地域との関わり方も変化するため、人材側のニーズの長期的なキャッチアップとスキームの調整が求められる。「働き方」に議論の焦点が当てられやすい二地域拠点事業であるが、人材を取り巻くのは就業環境に留まらない。人材は生活拠点にかかわらず、子育て、介護、通院、社会交流等、多岐の活動に従事するうえ、各領域において経時的かつ固有の変化が訪れる。受け入れる地域のスキームがそうした変化に対応せず固定的であると、多くの参加者がこぼれ落ちてしまうことが懸念される。関係人口の創出にあたっては、受け入れる地域が一方的にスキームを設計するのではなく、人材側が主体的かつ継続的に関わることが望ましく、そのための仕組みづくりが望まれる。

     

    〔参考文献〕
    (1)首相官邸「第217回国会における石破内閣総理大臣施政方針演説」(2025年1月)
    (2)総務省「関係人口ポータルサイト」(2025年2月アクセス)
    (3)総務省「“サテライトオフィス”の設置に係る民間企業等のニーズ調査等の結果について(速報)」(2017年4月)

     

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