政策課題への一考察 第103回 今後の自治体に求められる副市長の役割 ― 法制度の変遷・任用方法に着目して(上)
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2024.12.10
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政策課題への一考察 第103回
今後の自治体に求められる副市長の役割 ― 法制度の変遷・任用方法に着目して(上)
株式会社日本政策総研研究員
松田 睦己
(「地方財務」2024年11月号)
1 はじめに
自治体の向き合う課題が複雑化する中で、自治体経営を担うトップ層の経営力は自治体の舵取りを大きく左右する。これは市長の資質・能力もさることながら、補佐役たる副市長の資質・能力も同様に重要であろう。このような流れも影響し、最近では一般公募をはじめとして、副市長を庁内ではなく外部から登用する事例が見られる。従来は、庁内から副市長が登用されるケースが一般的であったが、自治体の向き合う課題に合致した適切な人材を外部登用することができれば、トップ層の経営力は高まる。
そこで本稿では、法制度や任用方法の観点から今後求められる副市長像を考察する。なお、本稿での副市長とは、基礎自治体におけるナンバー2の職(区長、町長、村長も含む)を指す。
2 法制度の観点からの考察
現在の「副市長」はかつて「助役」職であった。まず法制度の観点から自治体における助役・副市長の位置づけを概観する。
(1)市制町村制の制定・改正
① 市制町村制の制定(1888年)
助役が初めて登場したのは、1888年の市制町村制である。
市制町村制では、合議制の市参事会を設置し、この中に助役の設置根拠が置かれた。市参事会は、市長1名、助役1名と名誉職参事会員で構成される。助役は名誉職参事会員同様、市会の選挙によって選ばれ、任期は6年、助役の定員の増減が可能であった。このほか、市長の事務補助や市長に事故があるときの代理は助役に特定されず、市参事会員の職務とされていた。さらに、市長や市参事会等と同様に助役に対しても府県知事による懲戒処分が可能であった。
② 市制町村制の改正(1911年)
市制町村制の改正によって助役1名は必置となり、任期は4年に短縮された。選任方法は、市会による選挙から市長が推薦して市会が選任する方法に改められた。選任・退職には府県知事の認可が必要であった。このほか、市参事会が執行機関から副議決機関に位置づけが変更されたことに伴い、助役の職務権限として市長の事務を補助し、市長に事故があるときはその代理を務めることが定められた。
(2)地方自治法の制定・改正
① 地方自治法の制定(1947年)
市町村の助役制度は、地方自治法の施行によって確立した。助役は原則1人とされているが、条例で助役を置かないことも、増やすことも可能であった。選任方法は、自治体の長が議会の同意を得て選任することとされた。任期は原則4年だが首長は任期中も解雇することができ、選任時とは異なり議会同意は不要で、長が一方的に行うことが認められた。助役の職務は、長の補佐、職員の担任する事務の監督及び長の職務の代理の3つが明確化された。
② 第28次地方制度調査会答申・地方自治法の改正(2006年)
第28次地方制度調査会答申では、市町村合併や行政事務の拡大によりマネジメント機能の強化が課題とされ地方の自主性・自律性の拡大に向けたトップマネジメント機能強化の必要性が指摘された。具体的には、長の権限移譲が可能であることの明文化など、地域の実情に応じた仕組・内容で補助機関を設置できる制度への変更が提言された。
第28次地方制度調査会答申を受け、地方自治法が改正され、助役の廃止に伴い副市町村長のポストが創設された。副市町村長の定数は条例で規定することとされており、実際に大阪市では最大3人、横浜市では最大4人の副市町村長を置くことができると条例で定められている。また、条例で副市町村長を置かないことも可能とされている。選出方法は、市町村長が指名し市町村議会の同意を得て選任される。職務・役割は、市長の補佐、政策及び企画、職員の担任する事務の監督、市長の職務の代理、市長の権限に属する事務の一部執行が明文化された。副市長の位置づけは図表1のとおり整理できる。
〔注〕 (1)中小企業庁「令和6年度法定経営指導員講習~地方公共団体の行政事務に関する基礎的知識~」
https://www.chusho.meti.go.jp/keiei/shokibo/shidouin.html
(3)考察
これまでの副市町村長に関する法律制定・改正に関する経緯を振り返ると、副市長に求められる役割は時代によって形を変え、それに伴い法律や制度が整えられてきた。
端的にまとめれば累次の法律制定・改正により、これまで市長が担ってきた業務を分担する形で副市長の役割・権限が徐々に強化されたと整理できる。また、直近2006年の地方自治法改正で定数の選択肢が広がったことにより、各自治体の実情に合った方法でトップマネジメントできるようになり、自治体における副市長ポストの重要性と期待が高まったといえる。
3 任用方法の観点からの考察
次に、副市長の任用方法に着目する。従来は庁内の登用(内部登用)が一般的であったが、最近では官僚や民間出身者等、庁外から登用(外部登用)する事例も確認される。これまで見てきたとおり、トップマネジメントの強化を目的に副市長の権限が強化されたことを踏まえると、抜本的な改革や新しい政策に挑戦する狙いがあると推測される。また、複数ある副市長の任用方法のうち、選択する手法により副市長の属性が概ね定まり、その後の行政運営にも大きく影響する。
そこで、以下では副市長の任用方法を整理し、任用方法を起点とした副市長像のパターンを整理する。
(1)内部登用
内部(庁内)登用とは、庁内職員(出身者含む)から副市長に抜擢される方法である。行政実務経験が豊富であることに加え、内部の実情をよく理解しているため円滑な行政運営の実現に適している傾向にある。
(2)外部登用
① 国・都道府県からの出向(人事交流等)
出向元に復帰することを前提としていることなど条件を満たす国から地方への出向のことを「国と地方公共団体との間の人事交流」という。2023年10月1日時点では、市町村への出向が590人、うち出向先の役職が部長級以上(副市長含む)は281人となっている(2)。その他、都道府県から市区町村に出向するケースも存在する。出向の場合、行政実務経験が豊富であることに加え、国や都道府県との関係性構築が期待される。
〔注〕 (2)内閣官房内閣人事局「国と地方公共団体との間の人事交流の実施状況(令和6年4月3日)」
https://www.cas.go.jp/jp/gaiyou/jimu/jinjikyoku/jkj_kt_jissi_r060329.html
② 地方創生人材派遣制度
地方創生人材支援制度とは、国家公務員、研究者、民間人材を、自治体に派遣する取組であり、制度の概要は図表2のとおりである。基本的には人口10万人以下の市町村が対象であり、副市長、幹部職員、顧問など地方創生の幹部人材として首長補佐のために派遣される。民間人材は人口10万人以下の制限が撤廃されたため、より幅広い自治体への派遣が可能となった。国家公務員が派遣される場合、出向と同様に国や都道府県との関係性構築が期待され、研究者や民間人材の場合は専門的な知見を活かした政策立案・実行等が期待される。一方で、官民問わず人手不足が進んでいることに加え、自治体の課題が多様化していることから、適切な人材を充足することが難しくなっていると考えられる。実際に一部の自治体で派遣を断られたケース(3)が確認されている。
〔注〕(3)「副市長公募は広がるか若手退職で派遣できない霞が関」日本経済新聞(2020年4月5日電子版)
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO57509600R00C20A4EAC001/
〔注〕(4)内閣官房・内閣府総合サイト地方創生「地方創生人材支援制度」
https://www.chisou.go.jp/sousei/about/jinzai-shien/index.html
③ 一般公募
公募とは広く一般から募集することであり、基本的に①候補者の募集、②書類選考、③面接(複数回)を通して候補者を選定する方法である。庁内からの登用や国からの派遣では候補者が限定的になるが、公募であれば官民問わず広く人材を募集することができる。このため、自治体側に裁量があり、設計次第では行政実務経験や専門的な知見の有無などで求める人材を選ぶことも可能である。その一方、公募副市長の機能要件や選出方法には難しさも併せ持っている。
④ 副市長の人材像(類型)
任用方法を起点に副市長の人材像を4つのパターンに分類した。なお、各類型の説明は一般的な特徴として示したものであり、それに当てはまらない場合もあることに留意が必要である。
さらに、図表3の4類型は「管理志向型」と「行動志向型」に分類可能であると筆者は考える。
「管理志向型」とは法令や従来の手順など決められた基本的な枠組を堅持しながら、実行性確保に向けた進行管理を中心として行う形態、「行動志向型」とは目的達成を実現するため取り組むべき新たな枠組や手段の構築を常に意識し、必要に応じて目標やその接近プロセス、そして手段などの見直しを敏速に行う姿勢のことを指す(宮脇ほか、2017(5))。この定義に則ると、大まかにいえば内部登用型と行政マン招聘型は「管理志向型」、行政マン採用型と民間専門人材採用型は「行動志向型」として整理できるだろう。
〔注〕 (5)宮脇淳・佐々木央・東宣行・若生幸也(2017年)「自治体経営リスクと政策再生」東洋経済新報社
これらのことから、任用方法により副市長の強み・弱みが大きく左右されることが分かる。このため、まずは自治体の実情を正確に把握し、必要な副市長像(管理志向型または行動志向型等)を十分に検討し任用方法を決定する必要がある。特に現在では副市長に限らず、民間視点の活用を目指し民間人材を採用する動きも見られる。行政運営のトップマネジメントの強化という副市長設置の狙いに立ち返り、求められる役割と適した人材を慎重に検討する必要がある。その他、市長との関係性も踏まえた検討が必要である。例えば市長が管理志向型の人物の場合、副市長は行動志向型の人物が適していると考えられ、逆もまた然りである。つまり、自治体組織内部に現状足りていない要素を明らかにし、それを補うために必要な副市長(4類型のうちの望ましいタイプ)を検討し、選定・任用することが重要である。
4 おわりに
本稿では、法制度・任用方法の観点から副市長の役割を整理した。副市長の役割の強化を受け、それに伴い任用方法も多様化している。各自治体によって求められる副市長像は異なることを認識し、副市長像に合致した理想的な候補を十分に検討することが重要である。この点、「一般公募」は他の手法とは異なり、候補対象が広く自治体側に裁量がある点で副市長を起点とした改革を志向する場合に可能性を秘めている一方、機能要件や選出方法に難しさも併せ持っている。次稿では、任用方法の中でも「副市長公募」に焦点を当て、公募任用の自治体に対する影響を整理し、自治体に求められる対応を論じる。
〔参考文献〕
・総務省「地方自治制度の歴史」
https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/jichi_gyousei/bunken/history.html
・田村秀『自治体ナンバー2の役割日英米の比較から』第一法規、2006年
・第28次地方制度調査会「地方の自主性・自律性の拡大及び地方議会のあり方に関する答申(平成17年12月9日)」
https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/singi/chihou_seido/singi/singi.html
・上子秋生「第2期市制町村制制定(1881―1908年)」『我が国の地方自治の成立・発展』財団法人自治体国際化協会(CLAIR)、政策研究大学院大学比較地方自治研究センター(COSLOG)、2011年
・「市町村の外部人材活用副市長公募、副業・兼業国の制度の効果は」日経グローカル(2021年11月15日)
*政策コンテンツ交流フォーラムは、株式会社日本政策総研、神戸シティ法律事務所が連携ハブとなり、国・地方自治体・民間企業のメンバーを架橋し、政策的課題を多面的に検討するネットワークです。本コラムを通じて、フォーラムにおける課題認識、政策創造の視点等をご紹介します。
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