政策トレンドをよむ 第3回 地方自治体におけるデジタル分野をはじめとした高度外国人材の受け入れに向けて

地方自治

2023.07.12

目次

    ※2023年5月時点の内容です。
    政策トレンドをよむ 第3回 地方自治体におけるデジタル分野をはじめとした高度外国人材の受け入れに向けて
    EY新日本有限責任監査法人CCaSS事業部 北海道大学公共政策学研究センター研究員
    森川岳大
    『月刊 地方財務』2023年6月号

     地方自治体では、地方版総合戦略などの策定により人口減少に歯止めをかけ、成長力を確保するための施策を推進している一方、人手不足は深刻化の一途をたどっている。深刻化する人手不足への対応策の1つとして、外国人受け入れ政策の分野では、新たな在留資格「特定技能」が2019年に創設された。地方自治体でも、外国人材の受け入れに向けた独自の取組を行うケースも散見され、地域における外国人材のさらなる活躍が期待されている。

     最近では、デジタル分野の外国人材など、専門性を有する高度外国人材を確保し、地方に不足している知識・経験の獲得や国際関係業務の遂行、海外展開の足掛かりとすることも期待されている。2022年6月に閣議決定した「デジタル田園都市国家構想基本方針」においても「デジタル分野をはじめとした高度外国人材を含む外国人材の受入支援や共生支援などの優良事例の収集・横展開を行い、地方公共団体の自主的・主体的で先導的な取組について、引き続き地方創生推進交付金により積極的に支援する」と定められた。

     地方自治体の中には、外国人材の受け入れや共生に関する支援施策を自主的・主体的に推進する優良な事例もみられる一方、多くの自治体では、十分に実施されているとはいえない状況にある。特にデジタル分野の外国人材など、専門性を有する高度外国人材の確保に向けた取組を行っている自治体は僅かしかない。そのため、本稿では昨年度弊法人が内閣官房からの委託により実施した「地方公共団体の地方創生に資する外国人材受入支援・共生支援に係る施策の推進等に関する調査」(以下「昨年度調査」という。)の結果をもとに、高度外国人材の受け入れに向けた先導的な取組を行う愛媛県の事例紹介とその重要ポイントを考察する。

     高度外国人材の受け入れに向けた自治体の取組には、留学生の就職支援や高度外国人材の受け入れを行う企業の認証、人材派遣会社の紹介等、様々な取組が存在するが、愛媛県では特定の新興国の高度外国人材と地元企業等とのマッチング支援事業(アジア高度IT人材受入促進事業)を2022年4月より開始した。本事業は、県内IT産業の活性化やDXによる産業全体の振興を目的として、IT人材を必要とする県内企業・団体を対象にネパールの優秀なIT人材とのマッチングを支援する事業である。IT分野における高度外国人材の県内就職者数60人(3年間)を目標に掲げ、外国人材のマッチングや受け入れ支援を行う民間企業と連携し、ネパール現地での人材募集、選考、日本語教育、在留資格取得、渡航手続き等を一体的に支援している。また、採用に向けた求人票の作成・改善・翻訳サポートや、既存のオンラインツールを活用した面接会での選考に向けた個社別オンラインガイダンス、参加企業と外国人材の連絡調整等の支援も実施した。その結果、2022年度は昨年度調査の時点で県内企業11社にネパールのIT人材14名が内定しており、日本全体でデジタル人材が不足する中で、デジタル分野における外国人材活用の機運の醸成につながっていると考えられる。

     高度外国人材の受け入れに向けた重要ポイントの1つは、本事例のように民間企業と積極的に連携し、受け入れに向けた新たな知見の獲得やネットワークを構築することである。実際に愛媛県では、自治体単独ではアプローチが難しいネパールのトップクラス校においてコンピューター工学・情報工学等を学んだ既卒者を対象に人材を募集し、受け入れを希望する企業とのマッチングを行っている。また、入国後の地域への定着率の向上のためには、入社前教育も重要になる。愛媛県の事業の場合、内定後から入国までに現地で約600時間の日本語教育を行い、日常会話レベルをN3相当に引き上げることに加え、県内で生活する上で必要な情報・知識を事前に習得することで入社後の定着・活躍がしやすい環境を構築している。事業経費の一部は地方創生推進交付金により賄っているほか、内定が決定した企業からも参加費を徴収している。参加費の水準については年度を経るごとに漸増させることで交付金事業終了後の自走を目指しており、自立的な事業の推進を図る先導的な取組であると考えられる。

     昨年度末には地方創生推進交付金等の再編が行われ、地方への新たな人の流れを創出する取組等の費用に充てることを目的に、デジタル田園都市国家構想交付金が創設された。今後はそれらの交付金等を活用しつつ、自治体主導でのデジタル分野をはじめとした高度外国人材の受け入れの推進を図ることが期待される。また、前述の昨年度調査においても、交付金の活用に向けて、地域再生計画認定申請マニュアルに定める先導的な事業の適用要件を参考に15の事例における先導性のポイントを整理した。今後類似の取組を進める自治体の一助となれば幸いである。

     

    〔参考文献〕
    ・内閣官房(2023)「地方公共団体の地方創生に資する外国人材受入支援・共生支援に係る施策の推進等に関する調査報告書」
    https://www.chisou.go.jp/sousei/pdf/r4_gaikokujinzai_ukeire_hontai.pdf


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    多様な人材の活躍推進(DEI、外国人材の受け入れ・共生、新たな学び方・働き方) | EY Japan

     

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