地域の助け合いが自分と家族の命を守る第一歩!~「地区防災計画」の作り方~

葛西 優香

地域の助け合いが自分と家族の命を守る第一歩!~「地区防災計画」の作り方~ 第3回 地区防災の実際の作り方と得られる効果①

地方自治

2023.07.18

東日本大震災・原子力災害 伝承館 常任研究員・株式会社 いのちとぶんか社 取締役
葛西 優香

 

1.地区防災計画作成の7つのステップ

 いざ、「地区防災計画を作ろう!」と思っても、「一体何からどうやって始めればよいのか?」とすぐに疑問が沸くであろう。そこで、作成過程について事例を通じて示したい。その前に、以下に地区防災計画作成を始める前に整える7つのステップを提示する。

STEP1 計画を作成するチームを構築する(この時点で多世代が関わっている10~15名のチームを形成する) STEP2 誰とどの範囲の計画を立てるかを決める(例:町会範囲、小学校区範囲、一棟のマンション範囲)STEP3 話を聞きたい人(協力者)リストを作成する STEP4 計画の範囲に存在する人の属性を整理する STEP5 属している人にできるだけ多く声をかける STEP6 計画の最終形態(目次)を示す STEP7 いつまでに完成をさせるか大枠のスケジュールを決める

 この7つのステップが地区防災計画を作成する最初の準備である。一つ一つの工程を足立区にある所在する花畑団地における地区防災計画作成行程に基づいて辿っていく。

 

2.STEP1 計画を作成するチームを構築する

 まずは、「STEP1 計画を作成するチームを構築する(この時点で多世代が関わっている10~15名のチームを形成する)」ことに着手する。団地内には、自治会がある。ただ、一言で自治会と言っても多様な人が集う集団である。集団の中でも考えの違い、意向の違いがあり集団の中でさらに小さな集団に分かれている状況はないだろうか。その場合は、無理せず、課題意識を共通で持っている人が集まり、チームを組む。ただし、作成を試みていることについて自治会全体への報告を随時行うことは怠らない。実際に花畑団地においても自治会の中の一部の役員が主体となって、随時総会や役員会で報告をしながら作成を進めた。
 さらに団地内には自治会に入会していない住民も存在する。チームを作る上で必要になることが、団地を客観的な立場で見ている協力者である。UR団地には、生活支援アドバイザーと呼ばれる定期的に住民に電話をかけたり、訪問して、生活支援を行う立場の方がいる。日頃から住民と会話をしている生活支援アドバイザーから計画作成に興味を示してくださりそうな方に声をかけていただく。候補に挙がった方がいたら、まずは挨拶に行き、今後進めようとしている計画作成について伝え、参加を仰ぐ。日常から自治会活動を活発に行ってはいない層にもチーム参加を促進する。
 次に、地域周辺で活動している事業所の方への声がけである。花畑団地の周辺には、住民が日々買い物に集うスーパー「スーパーベルクス」、新しく団地の再開発跡地に建設された文教大学、地域内に居住する65歳以上の相談窓口である地域包括支援センターはなはた、日頃から地域住民の活動をサポートする足立区社会福祉協議会、区内全体の防災計画を作成する足立区危機管理防災課、高齢者のリハビリやデイサービスを担うリハビリテーションはなはた病院、園児が毎日集まってくるレイモンド保育園と多様な方々が住民と同時に生活している。災害が発生したら、同じ地域に存在していれば、同時に住民も事業所も被災をする。その時に備えて、地区防災計画を作成する際には作成段階から事業所の方々にチームの一員になっていただくことが必要となる。よって、各事業所にまずは、計画作成が始まることを伝え、協力を仰ぐ。
 STEP1の工程は、時間がかかる。一人一人、一軒一軒訪問し、作成時の協力を仰ぎ、参加可否を問う。それぞれの事業所の合意は、組織全体から得られる必要があり、合意を取ることができるまでに組織の上層部に再度説明に行く場合も発生する。注意点として、作成への協力を「仰ぐ」際は、一方的な協力要請とは異なることを念頭に置いておくべきである。参加協力をお願いするという姿勢で臨むと「何かあった時に助けてほしい」という一方的に求めるという関係性からスタートすることとなる。地区防災計画の作成は一方的な支援を求めるのではなく、互いに困った際に「助け合う」段取りを事前に計画しておくことが大切なポイントなのである。よって、「協力してほしい」「助けてほしい」ではなく、災害時にお互いに「助け合える」環境を一緒に作ろうという上下関係もなく、支援をされる側又は、する側に両者ともがなり得るという共通認識を持っていることを意識したい。チームが結成されたら、次のステップへと進む。

 

3.STEP2 誰とどの範囲の計画を立てるかを決める

 次に、「STEP2 誰とどの範囲の計画を立てるかを決める(例:町会範囲、小学校区範囲、一棟のマンション範囲)」に進む。地区防災計画を作成する際に地域内でどの範囲を包摂する計画を作成するのかを定める必要がある。災害が発生したら定めた範囲を超えて活動を行う場合も発生する可能性はある。しかし、計画を立てる段階で定めた地域内の動き方でさえも具体化していないことが現状ではないだろうか。まずは、範囲を決め、範囲内で対応できることを具体化し、訓練を行いながら、自助・共助の体制を築いていく。平時から限られた地域で訓練を重ねておけば、個人そして集団の防災対応力が強化され、災害時に地域が広がったとしても、基礎力の応用が働き、柔軟に対応できる可能性が高まるのである。最初から範囲を決めずに対応する体制を築くのは、基礎固めを怠ることになる。よって、作成する際の地域範囲を決定するのだが、「決められていないのか」と疑問を抱いた人もいるのではないだろうか。
 ここが地区防災計画のポイントである。これまでの記事でも何度も書いているが、誰かに決められて作成する計画ではない、自分たちが考えて設定し、作成する計画なのである。よって、対象の範囲も作成するチームのメンバーが決めることだ。ここで「決められていないのか」と疑問を抱いた方は要注意である。今一度、防災は自分たちが自ら取り組むことであるという意識を持つことができているか、誰かにどこか頼っている意識が未だ備わっていないかを自身に問いながら、作成行程を進めてほしい。範囲は、自治会の加入住民に限ってもいい、加入していない住民も含めてもいい、さらに枠を広げて、小学校区と広げてもいい、又は、マンション一棟単位で作成することも可能である。
 花畑団地の取組では、団地周辺には、団地以外の町会も存在する。他町会も含めて作成することも一つの案として挙がったが、まずは団地内の防災力強化を図ろうと、団地内とその周辺に在する事業所に範囲を絞った。よって、STEP1でチームを構成し、関わっているメンバーが属する事業所と団地住民(自治会の入会有無は問わない)全体を対象として計画作成を進めることとなった。

 ここまでが地区防災計画作成工程STEP1,2の内容である。花畑団地での取組は、このステップを進めるまでに2か月を要した。災害はいつ訪れるかわからない状況で早急に計画作成をすることが重要であるが、焦らず、丁寧に一つ一つの工程を進めることを念頭に置きながら、次のステップに関して次回第4回で述べていく。

 

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