事例紹介▶︎嬬恋村(群馬県) 観光・関係人口増加のための嬬恋スマートシティ構築

地方自治

2023.01.24

この資料は、地方公共団体情報システム機構発行「月刊J-LIS」2022年12月号に掲載された記事を使用しております。
なお、使用に当たっては、地方公共団体情報システム機構の承諾のもと使用しております。

事例紹介▶︎嬬恋村(群馬県) 観光・関係人口増加のための嬬恋スマートシティ構築
(特集:Well-Beingなまちづくり〜スマートシティ構想〜) 

嬬恋村観光商工課課長補佐兼観光係長 中村 吉宏

月刊「J-LIS」2022年12月号

1 嬬恋村のデジタル化の取り組み

 

 これから紹介する「観光・関係人口増加のための嬬恋スマートシティ」は、この夏に開催された「夏のDigi田甲子園」1)において、課題解決事例を対象とした【「実装部門」町・村の部】で優勝することができました。このことによって全国的に「嬬恋スマートシティ」を広く知っていただけることになりましたが、そもそも嬬恋村がDX推進に取り組むきっかけとなったのは、2019年に発生した台風19号の被害を教訓とした防災対策でした。本災害は、幸い人的被害はありませんでしたが、避難所の開設、誘導における混乱や道路崩落による集落の孤立、住宅の被害が多く発生し、復旧復興においてもかなりの時間を要しました。そんな危機的状況を経て、「村民の命、財産を守る」という理念の下、当村のDXの取り組みは始まりました。まず、2020年度にLINEアプリを使った、防災・規制情報や災害時における避難所の開設状況を、瞬時に住民に知らせる情報発信ツール「防災システム」として「嬬恋スマートシティ」のプラットフォームを構築しました。

1)「夏のDigi田甲子園」とは、デジタル田園都市国家構想の実現に向けて、都道府県ごとに域内市町村の取り組みを選考・推薦し、国民によるインターネット投票と有識者による審査会の審査により、特に優れたものを内閣総理大臣賞として表彰するというイベント。

 2021年度は、本システムが災害・防災等の緊急時にしか活用されない欠点を改善することに加え、広域的な波及へとつなげるため「デジタル推進室」を設置するとともに、総務省が取り組む「地域活性化起業人制度」を活用し、民間企業からシステムエンジニアを受け入れ、デジタル推進室長として起用しました。これによって、今まで不足していた専門的知識をデジタル化の推進に生かせるようになっただけでなく、職員の共通認識を高めながら、これからの取り組みについて理解していくことで、組織全体のインセンティブとしての活性化に繋がりました。そこから、デジタル化を取り入れた地域の抱える課題の解決について検討し、観光と交流の推進に向けたAIチャットボット、ビッグデータを取り入れたシステム更新を行うことによって、「観光・関係人口増加のための嬬恋スマートシティ」への取り組みが始まりました。まず、観光行政のデジタル化に向けて、以下の課題に取り組む必要がありました。

①観光客・関係人口情報が体系的に集約されていない
②観光情報が紙やWebなどに散在している
③幅広い地域に観光地が点在しており、わかりにくい

 そして、これらの課題を地元観光協会、観光事業者を交え検討を重ね、以下の三点を実現することにしました。

①ビッグデータ活用による観光データの分析
②現在位置の周辺施設や店舗情報の提供
③観光データを集約、観光客に発信(チャットボット、プッシュ通知)

2 ビッグデータ活用による観光データの分析に向けて

 嬬恋村はキャベツの一大生産地として知られるほか、村内に万座温泉や浅間高原など多くの観光資源がありますが、観光客や関係人口のデータについては整備してきませんでした。そこで、ビッグデータを活用した観光調査を行うことで、村内の観光事業者にいろいろな切り口から可視化したデータの提供を行うことを目指しました。取り組みとして主に次の二つの調査を行いました。

・「モバイル空間統計」調査
・「プレミアパネルアンケート」調査

 「モバイル空間統計」調査は、モバイル端末の位置情報データを使用し、村内にどんな人が訪れているか、他にどこを訪れたか、訪れた人の日帰り・宿泊の判別を行う新たな人口統計調査です。この情報をグラフ化し、観光客数を推計することで、村内の各エリアや周辺市町村との周遊関係を調査しました。嬬恋村は、万座温泉と浅間高原で観光客層が全く異なるなど、エリア間の差が大きい点が特徴です。そうした経緯から、村内のエリア別の調査を行いました。

 「プレミアパネルアンケート」調査は、スマートフォンを使った大規模なニーズ分析を行うためのアンケート調査です。関東圏の対象エリアから、村への来訪経験、観光資源について調査しました。嬬恋村の各資源について具体的に調査することで、観光マーケティング戦略に役立つデータを収集することが目的です。

 現在、これらのデータは地元の観光協会によって結果の分析と活用が行われています。将来的には、その他の統計データとともに広く村内の事業者が利用できることを目指しています。後述する嬬恋スマートシティと連係したダッシュボード形式など、より利用しやすい公開方法について検討しているところです図-1

図-1 ビッグデータ活用による観光データの分析

3 現在位置の周辺施設や店舗情報の提供

 取り組みの一つとして、LINEアプリを活用した戦略が挙げられます。国内で8,000万人以上のユーザー数を抱え、日本の生活インフラともいえるLINEを利用することで、より多くの観光客に情報を提供できる点に大きなメリットがあると感じています。また、普段から使い慣れているアプリということもあり、ユーザーにとっては使いやすく、機能も複雑ではないため、デジタル慣れしていない方でも簡単に利用できます。今回、「嬬恋村公式LINEアカウント」では、次のような機能を構築しました。

①エリアから探す
②テーマから探す
③地図から探す
④質問する(チャットボット)

 例えば、「地図から探す」では、地図上で施設のジャンルを絞り込めるだけでなく、自分の現在地を軸として周辺にある飲食店や日帰り温泉施設などを見つけることができます。さらに詳しい情報を知りたい場合は、地図上に出るアイコンをタッチすることで営業時間などの詳細が確認できます。各施設の設備・サービスに関しては、ピクトグラムを用いたことで電子決済などの可・不可が一目でわかるようになっています。

4 観光データを集約、観光客に発信

(1)チャットボット機能の活用
 観光情報を求める観光客が、旅行計画中や旅行中など、その時々でほしい情報に最短かつ的確にアクセスできるよう、「エリアから探す」「テーマから探す」「地図から探す」の中から、目的に合わせて検索方法を選べるようにしています。一方で、求める情報が定まっていない観光客に対しては、自動でユーザーとの会話を行うチャットボット機能を用意し、観光客からの質問に24時間返答することができ、知りたい情報をいつでも入手できるようにしています。

 LINEアプリの操作等を行う「スマートシティ管理アプリ」2)に単語や文章などをキーワードとして登録し、観光協会ホームページ内のデータベース上で管理している各施設の情報をcsv形式で読み込ませて連携させることで、ユーザーからの質問に対して適切な回答を引き出せるように運用しています。施設情報の追加や更新はすべて観光協会ホームページ内のデータベース上で行い、キーワードの追加や更新の作業は、実際にユーザーがLINE上でどのような発話をするかをあらかじめ想定しながら、スマートシティ管理アプリ上で行っています。

2)LINEアプリの操作のほか、観光情報の管理、満足度調査の管理等を行うためのアプリケーション。

 現在は、常に最新のデータをユーザーに提供できるように、村内施設のデータ情報管理と、ユーザーからの質問に的確な回答をするためのチャットボット機能の磨き上げを重点的に進めています。今後は、嬬恋村公式LINEアカウントをさらに活用し、職員の問い合わせ業務の負担軽減を目指しています。

(2)プッシュ通知機能の活用
 友だち登録をしていただいたユーザーには、プッシュ通知機能を通して旬な観光情報を配信しています。ただ単に情報を発信するのではなく、ユーザーが読みたくなるようなコンテンツづくりを心がけています。例えば、テキストのみで情報発信するのではなく、テキストと画像を組み合わせて、一つのメッセージとして配信できるリッチメッセージ機能を使った配信も行っています。使用する画像は統一性のあるもので、さらにその画像をクリックするとリンク先の詳細ページへ飛ぶなど、ユーザーの読みやすさにも配慮しています図-2

図-2 LINEを使った嬬恋スマートシティの主なメニュー

 また、毎月村の特産品・農産物を景品としたプレゼント企画をアンケートと合わせて行うことで、友だち追加した方に楽しんでいただくだけでなく、LINEサービスの質の向上にも役立てたいと考えています。

(3)観光事業者、観光客双方にメリットを
 このLINEアカウントの活用にあたって重要となるのが、村内の観光事業者、観光客それぞれに明確なメリットを与えるということです。

 例えば、プッシュ通知機能の活用については、毎月観光事業者からイベント情報やお得プランなどの情報を募集し、毎月1日に「ピックアップ情報」として配信する際に、観光施設としては比較的関心の高いユーザーに直接届けることが可能です。また、観光客にとっても、旅行を計画する前にお得情報を受け取ることが可能となっています。また、毎月事業者向けプッシュ通知について、検討会を開催し、通知方法や発信内容の相談など、事業者と密に意見交換をしています。

 事業者からの声とアンケートによるユーザーからの客観的な意見を参考にしながら、常に利用者としての目線でプッシュ通知発信を心がけ、本システムが観光従事者、観光客双方にとってより良いものになるよう、改善を続けていきます。

5 今後に向けて

 今回のスマートシティ構築にあたり、初めての試みではありながらも、様々な機能を導入・活用しました。実装していくにつれて、運用管理も安定し、土台が固まってきている一方、課題もあるのが現状です。

 施設情報の管理では、膨大な量のデータのメンテナンスを頻繁に行わなければなりません。また、常に村内の新規施設・変更情報にアンテナを張る必要があり、チャットボット機能に関しても、回答精度を向上させるため、日々のアクセスログ解析を入念に行い、回答を追加・修正する必要がありますが、最新かつ正確な情報をユーザーに届けたいという思いで、引き続き管理していきます。

 スマートシティの始動により、村民や二地域居住者のみならず観光客も簡単に情報を受け取ることができるようになり、様々な可能性を生み出すきっかけとなっています。これまで当村での観光において様々な問題が顕在化してきましたが、今後のさらなるDX推進の動きがそうした課題解決への鍵になると思います。

 

 

Profile
中村 吉宏 なかむら・よしひろ

1993年嬬恋村役場入職。2021年6月より現職。「嬬恋スマートシティ観光システム」では、嬬恋村観光協会を参画した組織運営を担当。

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