感染症リスクと労務対応

弁護士法人淀屋橋・山上合同

【労務】感染症リスクと労務対応 第23回 医療従事者の感染は労働者災害補償保険給付の対象となるか?

キャリア

2020.05.22

新型コロナウイルスに関連して、給料、休業補償、在宅勤務、自宅待機など、これまであまり例のなかった労務課題に戸惑う声が多く聞かれます。これら官民問わず起こりうる疑問に対して、労務問題に精通する弁護士(弁護士法人淀屋橋・山上合同所属)が根拠となる法令や公的な指針を示しながら、判断の基準にできる基本的な考え方をわかりやすく解説します。(編集部)

医療従事者の感染は労働者災害補償保険給付の対象となるか?

(弁護士 高 芝元)

【Q23】

 医療従事者である労働者がウイルス等感染症を発症した場合、労働者災害補償保険給付の対象となりますか。

【A】

 感染症患者を扱う医療従事者である労働者が、業務時にウイルス等感染症を発症した場合には、労働者災害補償給付の対象となる可能性がありますので、事業場を管轄する労働基準監督署に相談してください。
 なお、使用者においては、労働者が労働災害等により死亡または休業した場合には、所轄の労働基準監督署に労働者私傷病報告書を提出しなければならないことに留意しましょう(労安則97条)。

業務時感染

 労働者災害補償保険給付法7条1項1号は、労働者災害補償保険給付の対象を「労働者の業務上の負傷、疾病、障害又は死亡(以下「業務災害」という。)に関する保険給付」と規定しています。
 そして、「業務災害」と判断されるうえで、重要なポイントは「業務上の……疾病」といえるか否かにあります。
 この点、「業務上の……疾病」とは、当該労働者の業務と疾病との間に、当該業務に内在または随伴する危険が現実化したと認められるような相当因果関係が認められることと解されています。
 なお、「業務上の……疾病」の業務起因性の判定には、専門的な医学的知識を必要とすることが多いことから、その範囲は厚生労働省令で定められ(労基75条2項)、労働基準法施行規則は別表第1の2において、医学的にみて業務に起因して発生する可能性が高い疾病を有害因子と業務の種類ごとに類型的に列挙しています。そのうち、ウイルスに関係する第6号は以下のとおりとなっています。

医療従事者のうち、日常的に、ウイルス等の感染症発症者(感染症発症疑いの者も含みます)の検査や治療業務を行う場合、当該医療従事者がウイルス等の感染症を発症した場合には、上記表にもあるように、一般的には、当該業務に内在または随伴する危険が現実化したと認められるような相当因果関係があるものと考えられます。
 したがって、感染症患者を扱う医療従事者である労働者が、ウイルス等感染症を発症した場合、労働者災害補償保険給付の対象となる可能性は高いでしょう。
 なお、医療従事者の中には直接感染症患者を扱わない業務(眼科や耳鼻科等)もありますが、不特定多数の患者を診察している以上、業務に起因して感染する可能性はあります。しかし、それは医療従事者に限った話ではありませんので、感染ルートが特定されるなどの事情がなければ、医療従事者である一事をもって労働者災害補償保険給付の対象となるわけではありません。

通勤災害

 通勤災害についても同様であり、労働者災害補償保険給付法7条1項2号は、労働者災害補償保険給付の対象を「労働者の通勤による負傷、疾病、障害又は死亡(以下「通勤災害」という。)に関する保険給付」と規定しています。この「通勤による……疾病」とは、経験則上通勤と疾病との間に相当因果関係が認められること、すなわち、通勤に通常伴う危険が具体化したとみなされることと解されています。
 たとえば、通勤中に負傷した場合など、通勤と負傷との間の相当因果関係が明らかに認められる場合であれば、容易に「通勤災害」と認められることになりますが、ウイルス等感染症の場合、通勤中に感染者と濃厚接触したかどうか明らかでない場合が多く、通勤中に被災したか否かわからないため「通勤災害」と認められる可能性は極めて低いといわざるを得ません。

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弁護士法人淀屋橋・山上合同は、あらゆる分野の法律問題について、迅速・良質・親切な法的サービスを提供している法律事務所。2020年3月現在64名の弁護士が所属。連載を担当したメンバーは、主に企業側に立って、雇用や労働紛争に係る相談対応、法的助言から裁判手続、労働委員会における各種手続の代理人活動等を行っている。

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