月刊「ガバナンス」特集記事

ガバナンス編集部

月刊「ガバナンス」2021年12月号 特集:ウィズコロナ時代の地域コミュニティと自治体

地方自治

2021.11.29

●特集:ウィズコロナ時代の地域コミュニティと自治体

10月31日に投開票された衆院選では「成長と分配」が声高に訴えられた。
一方、足元の地域コミュニティは約2年に及ぶコロナ禍の中で苦慮し、模索が続けられているように見える。地域コミュニティは高齢化あるいは過疎化が進む中で、従来から課題が指摘されてきた。災害は課題をより顕在化させ、その進行を加速化させると言われる。
いまこそウィズコロナ、ポストコロナ時代の地域コミュニティのあり方と自治体(及び職員)の役割を考えたい。

■新型コロナに地域コミュニティはいかに向き合うか/名和田是彦

コロナ禍は、今世紀になって我々が被った災厄の中でも超弩級のものであることは間違いない。これを通じてこれまでの日本の地域社会の諸課題が鋭く現れ、しかし他方で地域の人たちの育ててきた地域力が発揮されて形になるきっかけを与えられてもいる。大きな災厄ではあるけれども、これを前向きに受け止めて、課題を直視し、課題を克服する改革に踏み出すきっかけとすべきであろう。

名和田是彦 法政大学法学部教授

コロナ禍を通じてこれまでの日本の地域社会の諸課題が鋭く現れ、しかし他方で地域の人たちの育ててきた地域力が発揮されて形になるきっかけを与えられてもいる。大きな災厄ではあるけれども、これを前向きに受け止めて、課題を直視し、課題を克服する改革に踏み出すきっかけとすべきであろう。

■ウィズコロナ時代の地域コミュニティと自治体/大杉 覚

互助・共助を担う地域コミュニティと公助を担う自治体とが、「社会の隙間」も「制度の狭間」をも、それぞれの地域の実情に応じたかたちで適切にカバーするにはどのような連携のあり方がのぞましいのか、切れ目のない関係性の構築に注力しなければならない。この気づきと実践から獲得したノウハウを、コロナ禍の教訓とすべきだろう。

■ウィズコロナ時代の地域づくりと自治体職員の役割/櫻井常矢

地域コミュニティの持続可能性とは、自治会等の既存組織の限界と可能性を再整理すること、そしてそれらをより多くの地域住民と開かれた場で共有したその先にある。しかしそれは、地域リーダーたちの反発や葛藤を伴うものでもある。サポートする自治体職員に必要なことは、当事者たちが自らと向き合うプロセスに根気強く寄り添うことである。コロナ禍の経験は、その好機を与えている。

■アフターコロナ時代の町内会自治会/日高昭夫

感染の収束を基点とすれば、現時点で「アフター」コロナを論ずるのは尚早かもしれない。しかし、コロナ禍を経験する前と後という意味でいえば、私たちの立ち位置は明らかにアフターコロナ時代にある。本稿では、ビフォーコロナ時代と対比しながら、アフターコロナ時代の町内会自治会のあり方について再考する。その要点は、新型コロナの感染拡大は、基礎的自治体と町内会自治会の関係のあり方に新たな挑戦と変革の機会を提供している、ということである。

■ウィズコロナ時代の地域コミュニティのデジタル化をめぐる現状と今後の方向性/清原慶子

新型コロナウイルス感染症は多くの人の命を奪い、心身の健康に影響を与え、非対面・非接触・マスク常時着用等の「新しい生活様式」時代の、本来は対面を基本とする暮らしの現場である地域コミュニティの諸課題には適切な対応が求められている。政府のDX(デジタル・トランスフォーメーション)及び自治体DXの推進が重要な政策課題とされ、スマートフォンやタブレット端末の普及が顕著である現在、デジタル技術による地域活動の活性化や効率化への期待が高まっている。本稿では、ウィズコロナ時代の地域コミュニティにおける自治会等のデジタル化の現状、今後求められる活用方法、適切な活用のための課題等について、いくつかの具体的事例から学び、考察する。

■ウィズコロナ時代のこども食堂と地域コミュニティ/湯浅 誠

こども食堂は、「食べられない子が行くところ」と思っていると、その現実が見えない。そして、ふだん(平時)の地域交流拠点が、いざというとき(非常時)の生活支援拠点になったという、「新しい日常」における地域活動の一つのモデルを示したということが見えなくなる。コロナ禍の只中で、ポストコロナの地域コミュニティの有り様を示唆した取組みの一つだという位置付けを与え損ねる。多くの人が、色眼鏡を外して、虚心坦懐にこども食堂の活動を、地域の人々の想いを受け止めてくれることを願う

■ウィズコロナ時代の地域運営組織/作野広和

多様性を享受できる地域にならなければ、地域は生き残っていけない。まずは、地域内の女性、若者、子どもの声に耳を傾けたり、地域づくりに参画してもらったりすることが第一歩であろう。そして地域運営組織が良好な環境で活動を続けていくために、自治体には、「自治体として地域のあるべき姿について、明確な方針やビジョンを示す」「地域人材を育成する仕組みを構築していく」「中間支援体制を構築する」--ことが求められる

■新しい過疎・農村政策と地域コミュニティ──ウィズコロナへの展望/小田切徳美

過疎・農村地域を持続化するために、地域コミュニティやさらにそのベースとなる人材育成をめぐり、新しい政策が動き出した。過疎政策や農村政策が、「低密度社会」の価値を共通して掲げたことの意義は極めて大きい。それは、国土の在り方として、高密度の大都市圏と低密度の地方圏が併存する都市・農村共生社会のビジョンの明確化と言ってよいであろう

■地域コミュニティからの自治の再構築/中川幾郎

地域コミュニティからの自治の再構築のために筆者は、小学校区以下の領域の総合型住民自治協議会などの、小規模多機能自治協議体編成やその経営に当たっては、三つの視点を重視すべきと提唱している。すなわち、あらゆる生活場面を包含する事業に着手し(全日的視点)、地域内すべての住民を構成員とすること(全世代を考慮)、さらに、コミュニティ内の小地域ごとの特性を把握、考慮していくこと(地域ごとの特性考慮)である。

【キャリアサポート面】

●キャリサポ特集
 インクルーシブな政策デザイン

多種多様な人々のニーズをいかに掘り出して政策につなげていけるのか──。
社会課題や住民ニーズが多様化・複雑化するなか、自治体はこれまでにない発想や手法、アプローチが求められています。その一つのヒントに、ハンディキャップがある人とともに誰でも使いやすいモノやサービスを設計・提供する「インクルーシブデザイン」があります。
先の東京オリンピック・パラリンピックも“多様性と調和”がコンセプトの一つでした。2021年の年の瀬に、新たな政策を生み出すためのデザイン手法を学んでみませんか。

■インクルーシブデザインの基礎と自治体に導入する際のポイント/平井康之

インクルーシブデザインの良いところは、単なる課題解決レベルにとどまらず、利用者に寄り添い、自分ごととして共感することからデザインを始めるところにある。プロセスの最初から多様なステークホルダーとともにデザインすることを「コデザイン(共創デザイン)」と呼ぶが、その共創の元になるのが「アスピレーション(熱い思い)」だ。インクルーシブデザインは、単なる合理的な解決策ではなく、利用者のエモーショナルな満足を目指している。

■インクルーシブデザインの実践的手法
 ──多様なニーズを施策・事業に結びつけるために/山田小百合

インクルーシブデザインは主にワークショップ形式で取り組まれる。具体的なアイデアを考え実装する事例もあれば、ユーザーリサーチの一環として活用されることもある。また、マイノリティの人にヒアリングを実施する、というものではなく、ワークショップのような創造的な場において、特異な存在になる人(リードユーザー)にあえて入ってもらうことで、議論の中でより新鮮な気づきをもたらしやすい状況をつくる点に特徴がある。

〈取材リポート〉
◆誰もが遊び楽しめる広場を目指し、インクルーシブな遊具を導入/神奈川県藤沢市

インクルーシブな要素を取り入れた公園が神奈川県藤沢市に今春、誕生した。市が市政運営で掲げる「インクルーシブ藤沢」の取り組みの一環で、遊具の老朽化に合わせてハンディキャップのある子どもでも遊べるインクルーシブな遊具に新調した形だ。「誰もが遊べて、誰もが楽しめる広場」のコンセプトのもと、利用者の意見などを踏まえながら今後も段階的に整備を進める“進化型の広場”を目指している。

●連載

■管理職って面白い! リーダーの器(SL理論)/定野 司
■「後藤式」知域に飛び出す公務員ライフ
 協働人口の増加による地域の担い手づくり/後藤好邦
■誌上版!「お笑い行政講座」/江上 昇
■〈公務員女子のリレーエッセイ〉あしたテンキにな~れ!/生水裕美
■自治体DXとガバナンス/稲継裕昭
■働き方改革その先へ!人財を育てる“働きがい”改革/高嶋直人
■未来志向で考える自治体職員のキャリアデザイン/堤 直規
■そこが知りたい!クレーム対応悩み相談室/関根健夫
■宇宙的公務員 円城寺の「先憂後楽」でいこう!/円城寺雄介
■次世代職員から見た自治の世界/菅 花穗
■“三方よし”の職場づくり/溝口尚也
■誰もが「自分らしく生きる」ことができる街へ/阿部のり子
■新型コロナウイルス感染症と政策法務/澤 俊晴
■地方分権改革と自治体実務──政策法務型思考のススメ/分権型政策法務研究会

●巻頭グラビア

自治・地域のミライ
稲村和美・兵庫県尼崎市長
課題解決先進都市をめざし、変化の時代にチャレンジしていく

学生時代に発生した阪神・淡路大震災でのボランティア経験などから政治家を志し、2010年11月に当時最年少の女性市長として就任した、稲村和美・兵庫県尼崎市長。それから11年。財政再建や人口動態の好転などを実現するとともに、市役所の体質改善にも取り組み、ポスト・コロナも見据えてまちづくりを進めている。

稲村和美・兵庫県尼崎市長(49)。市長室前のラックに並ぶ行政計画を手に「私の自慢」と話す。市民にわかりやすいよう、本編を概要版程度にコンパクト化し、表紙もキャッチーなデザインに。

●連載

□童門冬二の日本列島・諸国賢人列伝 隆景家から頼家への転生(五) 頼家で隆景は誰か

●取材リポート

□新版図の事情──“縮む社会”の現場を歩く/葉上太郎
 除染した農地が、山になっていく【11年目の課題・除染1】
 原発事故、続く模索

東京電力福島第1原発の事故で、人々を苦しめたのは放射能汚染だ。その除染は帰還困難区域以外で終了し、除染で出た汚染土壌も中間貯蔵施設への搬入が終盤に差し掛かっている。福島市など避難しなかった地区では放射線量を気にする人も減った。だが、一度避難し、除染された後に帰還した地区では窮状が続く。葛尾村ではせっかく除染した農地が草ぼうぼうになり、維持すら困難になりつつある。

□現場発!自治体の「政策開発」
 生態系保全の専門家と連携し野生動物との共生をめざす
 ──ベアドッグによるクマ対策(長野県軽井沢町)

豊かな自然の中に様々な野生鳥獣が生息している長野県軽井沢町は、野生動物による農作物被害や居住地への侵入、人的被害を防ぐために野生鳥獣対策を推進。町職員によるニホンザルの監視と追い払いに取り組むとともに、ツキノワグマ対策では専門知識を持った地元のNPO法人に委託して行動監視とベアドッグによる追い払いなどを行っている。駆除するだけではなく、棲み分けによる共生に努めているのが特徴だ。

□議会改革リポート【変わるか!地方議会】
 ワールドカフェ方式による議員間討議を踏まえて政策提言──宮城県柴田町議会

宮城県柴田町議会は、予算及び決算審査特別委員会においてワールドカフェ方式による議員間討議を実施。9月会議最終日(9月22日)には決算認定に当たっての政策提言書をまとめ議長が町長に提出した。常任委員会でも2年単位でほぼ同様のスタイルで政策提言。「チーム議会」で政策サイクルの確立をめざす同町議会を取材した。

●Governance Focus

□34mの津波から逃げる方法は見つかった?
 ──高知県黒潮町。絶望を希望に変える積み重ね/葉上太郎

南海トラフ地震が発生したら、政府の想定で全国で最も高い34mの津波が押し寄せるとされた高知県黒潮町。町民の間では「とても逃げ切れない。その時は死ぬしかない」という諦めが蔓延えんした。2012年3月の想定発表からもうすぐ10年になる。「諦めない」を合い言葉に対策を進めてきた同町で、絶望を希望に変えることはできたのか。津波対策先進地と呼ばれるようになったものの、課題は次々と浮上し、議論は続いている。

●Governance Topics

□人材育成・研修担当職員の“熱量”を上げ、組織、地域に活かす!
 /全国職員研修研究会&人事研究会

研修担当職員のネットワークである「全国職員研修研究会」と早稲田大学マニフェスト研究所人材マネジメント部会(人マネ部会)の「人事研究会」は10月25日、オンラインイベントを共催した。当日は70人を超える自治体職員が参加。人材育成や研修について学び、交流を広げる場となった。

□「出産議員ネットワーク・子育て議員連盟」がグランプリ受賞/第16回マニフェスト大賞

地方自治体の首長や議員、市民の活動実績を表彰し、地方政治・行政の善政競争を促す「第16回マニフェスト大賞」(ローカル・マニフェスト推進連盟などによる同実行委員会主催)の授賞式が11月12日、東京・六本木ヒルズで行われた。グランプリは、「出産議員ネットワーク・子育て議員連盟」が受賞した。

●連載

□ザ・キーノート/清水真人
□新・地方自治のミ・ラ・イ/金井利之
□市民の常識VS役所のジョウシキ/今井 照
□地域発!マルチスケール戦略の新展開/大杉 覚
□“危機”の中から──日本の社会保障と地域の福祉/野澤和弘
□自治体の防災マネジメント/鍵屋 一
□市民と行政を結ぶ情報公開・プライバシー保護/奥津茂樹
□公務職場の人・間・模・様/金子雅臣
□今からはじめる!自治体マーケティング/岩永洋平
□生きづらさの中で/玉木達也
□議会局「軍師」論のススメ/清水克士
□「自治体議会学」のススメ/江藤俊昭
□From the Cinema その映画から世界が見える
 『水俣曼荼羅』/綿井健陽
□リーダーズ・ライブラリ
 [著者に訊く!/『ニュースの未来』石戸 諭]

●カラーグラビア

□技・匠/大西暢夫
 桶屋としての技術を極める──桶職人(松延工芸)・松延英雄さん(福岡県八女市)
□わがまちの魅どころ・魅せどころ
 十勝発祥の浜に広がるジュエリーアイス。十勝の歴史と新たな魅力を発信する。
 /北海道豊頃町
□山・海・暮・人/芥川 仁
 奥羽山脈に育まれた幸せ──秋田県横手市山内黒沢
□生業が育む情景~先人の知恵が息づく農業遺産
 「三つの太陽」が生み出す濃厚な味わい
 ──愛媛・南予の柑橘農業システム(愛媛県南予地域)
□クローズ・アップ
 クローズ・アップ/従業員9人の会社が受け継ぐ唯一の技術
 ──高知県土佐市、「土佐節」が国の無形民俗文化財に登録


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[特別企画]

 自治体の調達・入札業務の大幅な効率化を実現
 ──官公庁・自治体向け入札・落札情報専用サイト「調達インフォ」/株式会社うるる

 

※「もっと自治力を!~広がる自主研修・ネットワーク」「人と地域をつなぐ─ご当地愛キャラ」は休みます。

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「ガバナンス」は共に地域をつくる共治のこと――これからの地方自治を創る実務情報誌『月刊 ガバナンス』は自治体職員、地方議員、首長、研究者の方などに広く愛読いただいています。自治体最新事例にアクセスできる「DATABANK」をはじめ、日頃の政策づくりや実務に役立つ情報を提供しています。2019年4月には誌面をリニューアルし、自治体新時代のキャリアづくりを強力にサポートする「キャリアサポート面」を創設しました。

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