知っておきたい危機管理術/木村 栄宏
危機管理術 withコロナ時代の働き方―変化する採用、人材育成
地方自治
2020.12.29
知っておきたい危機管理術 第52回 withコロナ時代の働き方―変化する採用、人材育成
千葉科学大学危機管理学部 木村 栄宏
① withコロナ時代の働き方とは。
新型コロナの感染流行拡大とともに、afterコロナやwithコロナ、ニューノーマル(働き方の新常態)といった言葉や概念が、社会を席巻するようになったと感じる人は多いでしょう。これまで「働き方改革」推進・推奨と言いながら、一向に目に見えては進まなかった改革ですが、新型コロナによる自粛生活で一気にテレワーク(リモート勤務、在宅ワーク)を獲得した人々にとって、この獲得できた自由からもはや旧来型には戻れない、戻りたくない……しかしそれで本当に良いのか、と不安や疑問に思う方もいるのではないでしょうか。今回は、withコロナ時代(人類とウイルスは常に共存ですのでafterコロナよりwithコロナ)の働き方をトピックスとしてとりあげてみましょう。
「働き方改革」骨子で示された「賃金引上げと労働生産性向上」「長時間労働の是正」「柔軟な働き方」「子育て・介護等と仕事の両立」「外国人材受入れ」等々、そしてテレワークの導入支援や副業・兼業の推進、女性のリカレント教育支援について、withコロナにより、実際にそれらは進展したか・進展するのか。これを評価する際、勤務地と勤務内容によって、とらえ方は大きく異なります。
まず、東京をはじめとする大都市で働く人にとっての意義として、通勤地獄からの解放、オフィス費用や交通費不要化、オンライン対面普及でも録画機能による商取引におけるエビデンス化によるトラブル回避可能化、リアル職場で仕事を余儀なくされることにより生じる無駄な作業からの解放による生産性向上、副業促進など、目に見える効果が生じています。一方、テレワークも当然に労働基準法が適用され、厳正な労働時間管理が必要ですが、テレワークゆえの法令等違反(情報漏洩、ネットトラブル、コロナハラスメント等の発生)といった負の側面も新たに生じています。また、地方を基盤に働き元々地元経済に依存している職住隣接型の人、あるいは以前からサテライト形態勤務の人にとっては、withコロナは現状維持でしょう。
② メンバーシップ型からジョブ型へ。
次に、職種で考えた場合、特に生活消費関連産業を中心とする相対型が基本の企業では「人と会う、人とリアルに接点を持つ」意義と必要性はなくならないため、即生産性向上とはなりません。自治体行政でも基礎自治体と広域自治体では取り組み方も連携による効果も異ならざるをえません。
コロナを機に、日本型雇用の代名詞「メンバーシップ型(ジョブローテーション、職能給、転勤あり、長期雇用等が特徴)」から、欧米で主流の「ジョブ型(職務記述書(ジョブ・ディスクリプション))」への転換が進む様相ですが、日本が強みを発してきた適材適所型から適所適材型へ雇用形態が変わるとどうなるでしょうか。テレワークとジョブ型が一緒になった場合の問題点は、ジョブ型採用のメリットがデメリットになることでしょう。人材育成や研修によるスキルアップは各自が自分で行うことになり、企業内人材育成は無く、コミュニケーション不全による不祥事発生の蓋然性リスクを内包する(企業等へのロイヤリティが生じないことを含め)こと、新人採用時から対応するには適応可能職種が限られる(事前インターンシップにコストと目利き力が必要なこと)、個人にとってはキャリアデザインにコストがかかることから従来以上に個々の人生の格差が拡大することなどが考えられます。
ちなみに今年はコロナにより、企業の新卒採用ではオンライン面接が主流となっていますが、某有名大企業では面接をすべてオンラインで行い、最終面接では2時間近く時間をかけ、面接学生に対し、小学校時代に何を考えて生きてきたかまで詳細に質問し、今までの考え方や生き方、今後の可能性を徹底して把握した上で新卒予定学生に内々定を出されていました。
何を言いたいかというと、withコロナ時代の働き方とは、採用側の企業等のスタンス(仕事はすべてジョブ型と割り切るか、一企業ではなく日本社会全体を見据えた育成も視野に入れた採用を考えるか等)により、今後の日本社会で働く人々の質を左右させるリスクがあるということです。
「企業の発展段階に応じて戦略や組織のあり方、その組み合わせは変わる」と論じたのはミンツバーグたちです。経営戦略論を学んだ方は、ポジショニング派(儲かる市場など、外部環境を重視)とケイパビリティ派(組織・人・プロセスなど、内部環境を重視)の論争に「2者択一ではなく、場合による」として終止符を打ったあれか、と思い浮かんだことと存じます。withコロナ時代の働き方も、この「場合による」という柔軟に取り組む考え方が必要な危機管理術だといえます。