自治体の防災マネジメント

鍵屋 一

自治体の防災マネジメント[52]すべての特別支援学校を福祉避難所に──企業版ふるさと納税の活用を

NEW地方自治

2021.02.17

自治体の防災マネジメント―地域の魅力増進と防災力向上の両立をめざして
[52]すべての特別支援学校を福祉避難所に──企業版ふるさと納税の活用を

鍵屋 一(かぎや・はじめ)
月刊『ガバナンス』2020年7) 

熊本地震における障がい児たちと教訓

 熊本地震から、あっという間に4年が過ぎた。当時、益城町で福祉施設の皆さんに集まっていただき、福祉避難所の立ち上げについて相談したのが昨日のことのように思い出される。会議室もなく、立ちながらメモをとっての話し合いだった。

 後で聞いた話だが、その頃、特別支援学校の障がい児たちは避難所では落ち着けず、多くは保護者とともに車中泊を余儀なくされていたそうだ。

 当時、熊本の特別支援学校知的障害教育校PTA会長の木村文彦氏は、熊本県内19特別支援学校PTAにアンケートを取り、行政に対して次のような提言を行っている。

・福祉避難所・福祉避難スペースの確保(障がいのある子どもと家族のニーズに特化した場所が必要)
・福祉避難所等での合理的配慮(福祉避難所を運営できる人材育成とマニュアル策定が必要)
・伝わりやすくわかりやすい情報伝達と相談窓口の整備(保護者への情報伝達、相談支援が特に重要)

 また、PTA自らも次の取組みが重要だとしている。

・学校の防災計画見直しと、家庭─学校─地域─医療機関─行政などの連携強化
・当事者が自助の意識を高める
・地域住民と支え合う関係性を築く

特別支援学校の避難所整備の現状

 大阪北部地震に見舞われた地域における、障がい児の避難希望先のアンケート調査では、図1のように地域の小中学校、特別支援学校、福祉施設が多い。

 地域の小中学校は家に近いという理由だが、熊本地震をはじめこれまでの災害経験で、障がい児にとっては過酷な環境で避難には適さない。やはり、慣れ親しんだ特別支援学校で教職員の支援を受けながら避難生活を送ることが望ましい。

 しかし、全国の自治体のうち、特別支援学校を指定避難所に指定しているのは、図2のように149校(11.9%)に過ぎない。小中高校が96.7%であるのに比べるとその違いは歴然としている。

 では、なぜ特別支援学校が(福祉)避難所に指定されないのだろうか。筆者が市区町村、都道府県に聞いたところでは次のような事情がある。

【市区町村】
・(福祉)避難所に指定すると備蓄物資等を整備しなくてはならないが予算がない。
・大規模整備以外は国の補助金がない。
・県施設なので、声をかけにくい。
・福祉避難所を開設するほどの災害は、ごくまれにしかないので優先順位が低い。

【都道府県】
・(福祉)避難所は市区町村の業務である。
・特別支援学校はニーズが多く、学校増設で多額の経費がかかっている

 こうして、市区町村と都道府県がお見合いをして特別支援学校の(福祉)避難所整備が進まない。

福祉避難所は都道府県が整備を

 では、障がい児を災害から守るために、誰が特別支援学校の福祉避難所整備をすれば良いのだろうか。私は都道府県が実施するのが良いと考えている。その理由として以下の3点を挙げたい。

①広域行政で災害時には市町村補完が必要
・都道府県は広域的なので、市区町村に比べて災害発生の頻度が高い
・都道府県内の被災市町村を、被災していない市町村が応援する体制が作れる。全国で同様な仕組みができれば、全国的な応援受援体制が構築できる
・同じ物資、同じマニュアルを整備するので、応援受援がしやすくなる。

②SDGsの推進
・支援学校での障がい児教育への活用、生活支援を推進できる
・太陽光発電、電動車、給電器、蓄電池等の組み合わせ等による災害時の電源確保、平常時のCO2削減及び電気代の削減ができる

③企業版ふるさと納税を活用しやすい(東京都は除く)
・道府県が地方創生計画に福祉避難所整備を書き込むことで、企業版ふるさと納税の寄付により、経費負担なしで整備可能になる。

企業版ふるさと納税

 企業版ふるさと納税は、2020年度税制改正により、税額控除の割合が現行の2倍に引き上げられ、税の軽減効果が最大約9割(昨年度まで約6割)にまで拡充された。たとえば企業が1000万円寄附すると、最大約900万円の法人関係税(法人住民税、法人事業税、法人税)が軽減される。

 企業にとっては、これにより以下の3点のメリットが考えられる。

①レバレッジを効かせたSDGs推進(環境、福祉、防災)への貢献
 自治体の地方創生計画と連携することにより、寄付額の9割の法人税減額となる。すなわち、実質的な寄付額の10倍のレバレッジが効いたSDGs推進への貢献が可能になる。

②ESG経営のアピール
 世界に向けて環境配慮、社会貢献、ガバナンスに取り組む企業としてアピールし、ESG投資の受入れ、資金調達がしやすくなる。

③自治体との確固とした信頼関係の構築
 自治体との信頼関係を構築することにより、多方面でのビジネスチャンスの可能性が拡がる。

災害関連死ゼロを目指して

 福祉避難所に欠かせないのが電気、水なしで使えるトイレ、マニュアルだ。一つの県の支援学校への配置から始まり、全国の特別支援学校に波及させたい。

 そして、市区町村の福祉施設を中心とする福祉避難所へも広げる。

 さらに一般の指定避難所にも波及することで、避難所支援の全国ネットワークができ、災害関連死ゼロの基盤が整う。

 

Profile
跡見学園女子大学教授
鍵屋 一(かぎや・はじめ)
1956年秋田県男鹿市生まれ。早稲田大学法学部卒業後、東京・板橋区役所入区。法政大学大学院政治学専攻修士課程修了、京都大学博士(情報学)。防災課長、板橋福祉事務所長、福祉部長、危機管理担当部長、議会事務局長などを歴任し、2015年4月から現職。避難所役割検討委員会(座長)、(一社)福祉防災コミュニティ協会代表理事、(一社)防災教育普及協会理事 なども務める。 著書に『図解よくわかる自治体の地域防災・危機管理のしくみ』 (学陽書房、19年6月改訂)など。

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跡見学園女子大学教授

(かぎや・はじめ) 1956年秋田県男鹿市生まれ。早稲田大学法学部卒業後、東京・板橋区役所入区。法政大学大学院政治学専攻修士課程修了、京都大学博士(情報学)。防災課長、板橋福祉事務所長、福祉部長、危機管理担当部長、議会事務局長などを歴任し、2015年4月から現職。避難所役割検討委員会(座長)、(一社)福祉防災コミュニティ協会代表理事、(一社)防災教育普及協会理事 なども務める。 著書に『図解よくわかる自治体の地域防災・危機管理のしくみ』 (学陽書房、19年6月改訂)など。

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