議会局「軍師」論のススメ
議会局「軍師」論のススメ 第49回 議会局職員だからこそ見えるものは何か?
地方自治
2021.02.25
議会局「軍師」論のススメ
第49回 議会局職員だからこそ見えるものは何か? 清水 克士
(月刊「ガバナンス」2020年4月号)
新年度の定期人事異動で、議会(事務)局に初めて着任した人は、今の感覚を忘れないでもらいたい。
良くも悪くも執行機関とは価値観が異なり、違和感を覚えることも多いはずだ。もちろん、まずは引き継いだ仕事の型を覚え、間違いなくこなすことが必要条件である。
だが仕事に慣れてきたら、次は個々の業務について、現状維持がベストなのかを市民目線で疑ってみることだ。その勘所は、最初に覚えた違和感である。
■赤信号皆で渡れば怖くない?
法治国家の地方自治体で業務執行するにあたっては、法的根拠を把握することが基本中の基本である。
ところが、議会の世界では、法令に根拠を置くよりも、内部規律である申し合わせや先例の類を根拠とすることが多い。それらは外部から見えにくいこと、地方議会は外部と関わらずに自己完結できる存在であることも相まって、議会運営は多様に独自発展している。
例えば、議長任期に関しては、地方自治法第103条で「議員任期による」とされ、本来4年間であるはずである。ところが、現実には申し合わせで、1年や2年の任期としている議会が多い。議長が自主的に辞表を提出し、議長選挙が行われているのであるから決して違法ではない。
しかし、法の趣旨を無視する決まりを組織として作り、運営しているという観点からは、脱法的行為との批判は免れないだろう。
個人的見解としては、議長任期を全国一律に4年間と定める必然性を感じないので、法定せずに条例に委任し、各議会で定められるようにすれば良いと考えている。
だが、それはあくまで立法論であり、法令遵守が声高に叫ばれる現代社会において、これだけ堂々と立法趣旨が無視される世界は、珍しいのではないだろうか。
それでも市民利益に適う事情があれば、多少立法趣旨を逸脱していても、社会的に許容される場合もあろうが、議長任期を事実上短縮するところに市民利益などない。議会の内部事情でしかないのに「赤信号皆で渡れば怖くない」状態が全国的に定着しているところに、驚きを禁じ得ないのである。
■議会(事務)局職員の視点
このように議会では当たり前とされていることでも、社会通念上、疑問に感じることは少なくない。だが、執行機関が同じことをしたら、果たして議会は見逃すだろうか?
議会に対する監視機関は制度上存在せず、選挙も「議会」ではなく、「議員」を対象とする直接統制であるため、「議会」のガバナンスは甘くなりがちである。それは、世間を騒がした政務活動費関連の事件に鑑みても、否めないところだろう。
公選職ではない議会(事務)局職員だからこそ、違って見える議会の風景がそこにはある。そして、議会改革を進める上でも、その視点は必ず活かせる。
なぜなら議会改革とは、市民感覚とのズレを補正しようとする行動でもあり、広義の議会人ながら公選職でないこと自体が、強みとなるケースも多いと感じるからだ。
だが、漫然と議会局での日々を過ごせば、当初の違和感は徐々に薄れ、いつしか市民感覚で俯瞰することもなくなって、現状を変える必要性も感じなくなる。「チーム議会」の構成員として、議会の世界で結果を残そうと思うのであれば、転入時の違和感を決して忘れないことだ。
*文中、意見にわたる部分は私見である。
Profile
大津市議会局長・早稲田大学マニフェスト研究所招聘研究員
清水 克士
しみず・かつし 1963年生まれ。同志社大学法学部卒業後、85年大津市役所入庁。企業局総務課総務係長、産業政策課副参事、議会総務課長、次長などを経て2020年4月から現職。著書に『議会事務局のシゴト』(ぎょうせい)。