自治体の防災マネジメント
自治体の防災マネジメント[28]熊本地震から2年───益城町による対応の検証報告書(下)「情報収集、情報分析、広報」
地方自治
2020.09.09
自治体の防災マネジメント―地域の魅力増進と防災力向上の両立をめざして
[28]熊本地震から2年───益城町による対応の検証報告書(下)「情報収集、情報分析、広報」
鍵屋 一(かぎや・はじめ)
(月刊『ガバナンス』2018年7月号)
前々号、前号に引き続き、熊本県益城町の対応検証報告書から、重要なポイントを整理する。
被害情報の収集
災害対策基本法第23条の2・4項では、市町村災害対策本部の役割を次のように挙げている。
一 当該市町村の地域に係る災害に関する情報を収集すること。
二 当該市町村の地域に係る災害予防及び災害応急対策を的確かつ迅速に実施するための方針を作成し、並びに当該方針に沿つて災害予防及び災害応急対策を実施すること。
すなわち情報収集は、災害対策本部の第1のミッションである。しかし、町は要員不足や報道担当者の未決定により、情報収集や報道対応に大きな支障をきたした。
①課題
・情報収集要員及び資機材が圧倒的に不足しており、効果的な配置ができなかった。
・屋外における災害対策本部設営についての想定ができていなかった。
・町地域防災計画において、災害対策本部や各担当部署における報道担当者を事前決定していなかった。
・報道発表資料を町災害対策本部として確認する仕組みが無かった。
②改善の方向性
・毎年実施する訓練を、図上型ではなく発災型とし参集体制、人員配置、資機材調達体制、訓練想定の見直し等改善が必要である。
・庁舎被災により、様式集、透明フィルム等必要な資材が活用できていなため、複数個所保管等対策が必要である。
・スタッフが不足しており、情報収集要員を容易に確保できるよう職員配置計画を見直すことが必要である。
・災害対策本部、各課PT及び避難所に専従の情報収集等担当職員を配置することが必要である。
・情報班が報道対応を担当するのではなく、地域防災計画において報道担当部署または災害対策本部上層部における担当者を決定し対応することが必要である。
報告書には、次のような記述もある。
「情報班の構成員は防災係3人であり、臨時電話5台の対応に追われ、 本来業務である災害対策本部事務局機能を果たせなかった」
防災担当職員が電話対応に追われ、本来業務ができなくなるのは、被災自治体では必ず取り上げられる重要な教訓である。ある水害常襲地帯の自治体は、災害対策本部が設置されると、電話対応は財務課の所掌事務に変更される。このように、電話対応業務を防災担当職員以外に変更するよう事前に決定しておく必要がある。
収集した情報の分析不足
①課題
・災害対策本部会議、町災害対策本部事務局、各対策部3者とも収集した情報の分析ができておらず効果的な対策に結びつかなかった。
・災害対策本部の決定事項が、各対策部・関係部署へ浸透していなかった。
・災害対策本部会議が状況報告の場となったり、方針決定まで至らなかった。
・災害対策本部会議に町幹部職員全員が出席したことにより、各自の考えが先走りし、意見の集約を図れなかった。
・各対策班、庁内各課内において意見の集約が図れていなかった。
②改善の方向性
・収集した情報の分析ができておらず、同様事案であっても対応に差異が生じたため、関係各課等の対応をフィードバックしたうえで、情報分析が必要である。
・情報班(防災係)が報道対応を担当したことにより、本来業務である災害対策本部事務局機能や情報分析が果たせなかったため、報道対応を担当する部署の設置が必要である。
・災害対策本部会議は当初、三役や担当課、応援部隊による会議だったが、その後は課長会議に変化しため情報分析、今後の対応策等の意思決定の場として機能するよう、町三役、各対策部長及び応援機関が参加する会議にすることが必要である。
・改善案・対策を、情報班をはじめとして各対策班から上申する仕組みがなく、その都度課長等に具申していたが問題の解決には至らなかったため、上申する仕組みを構築することが必要である。
災害対策本部会議をいかに機能させるかは、重要な課題である。一般に本部会議は各担当部署による報告会となる。そうなると、重要な課題とそうでない課題に優先順位が付けられず、貴重な時間を無駄にしてしまう。そこで、本部会議は決定が必要な事項に絞って審議することとし、報告事項は紙で配布するべきである。
災害時に上司が機能しない話も実に多く聞く。これは、非常に難しい課題だ。災害時なので、職員同士のインフォーマルなつながりで、具体的な解決を図ることもあり得るのではないだろうか。
広報
①課題
・記録の収集・保存と広報戦略をセットにする考え方がなかった。
・マンパワーの不足により、周知活動や浸透状況の確認ができなかった。また、取材等においても人員が足りなかった。外部応援要員を取材等で活用することは短期派遣では難しかった。
・町民からの意見・感想が上がってこず、町民の声を直接聞きいれる方法がなかった。
・自治会における広報物の各世帯への個別配布や回覧機能が、家屋被害・被災世帯の度合いに比例して機能しなかった。
・避難所等での掲示物量が多く、見ない人が多かったという意見もあった。
・避難者の情報(位置、状況)が不明で、情報提供(発信)が非効率だった。
・情報共有や啓発活動等を避難所では行えたが、車中泊など避難所外の人に対して行うことができなかった。
・個人発信によるSNSの危険性(デマが広がった件等)に対して、町としての対応策が無かった(町から正確な情報を早期発信する仕組みが無かった)。
②改善の方向性
・記録の収集・保存については、災害写真を撮影することが主となった。今後は本業務の取り決めを明確にし、情報発信のために集めた資料等を活かせるような体制づくりが必要である。
・今回の被災後の業務経験を活かし、人員の確保体制(元報道関係者等の経験者を臨時採用するなど)を見直し、準備体制を整えておく。
・避難所等を通じて、住民の意見を吸い上げる仕組みを検討する必要がある。
・紙媒体での情報掲示に加え、特に重要な情報については確実に行き届くような手段(口頭での伝達等)も検討することが必要である。
・車中泊避難者や所外の人たちへ広報手段については、多岐にわたる広報機能を使い、伝達することを検討し充実させることが必要である。
・避難所や区長を通じての配布に加え、物資と併せ行うなど配布手段を検討することが必要である。
・今回の災害において、何件かのデマが流れたことが報告されている。デマの拡散等について未然に防ぐことは難しいが、広報の伝達手段としてSNSは非常に有効な手段だと考えており、できるだけ早く正確な情報発信を行うなど、対応を検討しながら、今後もSNSによる情報伝達は続けていく。
広報は危機管理の最重要事項であり、重要な場面ではトップが対応することが望ましい。また、近年では若い世代はテレビをあまり見ずに、SNSで情報を得ることが多くなっている。この状況に対応した広報体制をとる必要がある。
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益城町の対応検証報告書は自治体防災の宝だ。防災担当者以外も含めて、すべての自治体職員が読み、自らの防災体制整備、対策の充実につなげることを切望する。
Profile
跡見学園女子大学教授
鍵屋 一(かぎや・はじめ)
1956年秋田県男鹿市生まれ。早稲田大学法学部卒業後、東京・板橋区役所入区。法政大学大学院政治学専攻修士課程修了、京都大学博士(情報学)。防災課長、板橋福祉事務所長、福祉部長、危機管理担当部長、議会事務局長などを歴任し、2015年4月から現職。避難所役割検討委員会(座長)、(一社)福祉防災コミュニティ協会代表理事、(一社)防災教育普及協会理事 なども務める。 著書に『図解よくわかる自治体の地域防災・危機管理のしくみ』 (学陽書房、19年6月改訂)など。