議会局「軍師」論のススメ

清水 克士

議会局「軍師」論のススメ 第21回 議会改革の「真理」はひとつなのか?

地方自治

2020.08.20

議会局「軍師」論のススメ
第21回 議会改革の「真理」はひとつなのか? 清水 克士
月刊「ガバナンス」2017年12月号

*写真は大津市議会局提供。

 10月末に札幌市でg-mix(議会事務局研究会メーリングリスト)と議会技術研究会等が主催したシンポジウムが開催された。神原勝・北海道大学名誉教授の基調講演では、住民福祉の向上という実質的成果を目指す議会改革の第2ステージの課題のひとつとして、「大都市自治体・広域自治体の議会改革」が進んでいないことを挙げられた。

■栗山モデルは万能なのか?

 北海道栗山町議会が初めての議会基本条例を制定し、それに倣って改革に成功する議会が現れ、栗山町議会の改革は偉大な標準モデルとして認知された。だが、神原教授の指摘どおり、大都市議会での改革成功例は少ない。それは、栗山モデルには議会基本条例のように普遍的な手法も含まれるが、必ずしも全てが大都市議会には適さないからではないか。大都市議会の成功モデルは、未だに確立されていないのである。

 栗山モデルは、議会外での地域別の議会報告会によって、議会への住民参加を実現したところに特徴がある。私は最終的には会期日程中の会議に住民参加を求めることが、議事機関の本質に適うものとは思うが、議会への住民参加を進めるための初めの一歩の試みとしては、大いに意義があるとも思っている。

 しかし、議会報告会を単なるイベントではなく、政策立案のツールとして機能させている議会はかなり限定的で、かつ、議員一人当たりの住民数が概ね5000人以下、住民の地元への帰属意識も高い自治体に偏在している。また、国のタウンミーティングの例から推察しても、住民との対話は、小規模かつ議員と住民との密度が高くなければ、実質的成果を挙げるのは困難だと思われる。

 大都市議会にとっては、まだ住民参加の形式要件すら整っておらず、これから独自モデルの構築が求められるのではないだろうか。

■初めに真理ありきではない

 執行機関では、その都市の地理的条件や規模などに応じて、独自施策を模索し、自己責任・自己決定の意識が浸透してきている。一方、議会では、未だに負の横並び意識や、先進事例・研究者の個人的見解に頼ろうとする傾向が強いと感じる。

 それは、議会が制度的に外部からの干渉を受けずに自己決定できる反面、自己責任追及を恐れるあまり、拠りどころを求める心理の裏返しだとは思うが、全ての議会に通用する絶対的な真理などあるわけではない。

 世界的に著名な米国の行政法学者であるワルター・ゲルホーン教授による来日時のセミナーでの逸話がある。教授は「法律学上の真理はひとつではない」とされ、参加者が法律の大家である田中二郎教授の説を拠りどころに自説を展開すると、「田中教授は神なのか?米国ではオーソリティという言葉は、強制通用力を有する、最高裁判決か行政決定に対してのみ使われ、教授の説には使わない」と苦言を呈されたそうである。法律学は「初めに真理ありき」ではなく、試行錯誤による思考の過程を経て結論に達する学問であると教示されたとのことである。

 議会改革の議論は法律学ではないが、思考の起点をどこに置くかという意味からは、共通する教訓である。先進議会がやっているから、有識者が唱えているからではなく、そもそも何のために行うのか、自分の置かれた状況での最適解なのか、といったところまで遡って考えなければ、本質的な課題解決には至らないのではないだろうか。

*文中、意見にわたる部分は私見である。

 

Profile
大津市議会局長・早稲田大学マニフェスト研究所招聘研究員
清水 克士
しみず・かつし 1963年生まれ。同志社大学法学部卒業後、85年大津市役所入庁。企業局総務課総務係長、産業政策課副参事、議会総務課長、次長などを経て2020年4月から現職。著書に『議会事務局のシゴト』(ぎょうせい)。

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しみず・かつし 1963年生まれ。同志社大学法学部卒業後、85年大津市役所入庁。企業局総務課総務係長、産業政策課副参事、議会総務課長、次長などを経て2020年4月から現職。著書に『議会事務局のシゴト』(ぎょうせい)。

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