新型コロナウイルス感染リスク下の自治体の情報発信

野田遊

新型コロナウイルス感染リスク下の自治体の情報発信[2]

NEW地方自治

2020.04.21

新型コロナウィルス感染リスク下の自治体の情報発信[2]

同志社大学政策学部・大学院総合政策科学研究科教授 野田 遊(のだ・ゆう)

 第1回では、自治体が情報発信を行う理由と、住民がどのような情報を必要としているかについてまとめた。第2回は、自治体からの情報の発信手段と、情報発信のポイントについてである。 

1.情報の発信手段

 情報発信は、多様なツールを活用し、広く継続的に行うべきである。もちろん、あらゆる情報を一つに集約したサイト(通常は自治体のHP)が必要であるが、それに加え、既にある首長のSNSのアカウントから、また動画を駆使しながら広く発信するのがよい。首長のSNS、動画の双方とも、切り取りがなされる新聞等とは異なり、首長の言葉が直接届くからである。

 首長のSNSによる情報発信は即効性があるとともに、継続的に情報発信を行う姿勢を住民は感じとることができる。

 さらに、動画は効果的である。自治体や国からの情報発信の多くは文字の羅列で理解するのに時間がかかるし、データをビュジアルに示す工夫があってもやはり読む側の能動性がなければ読んでもらえない。これに対して、動画は首長の気持ちをダイレクトに住民に伝えるため、この首長のためにわたしたちも自粛しようという思いを強くもつ。アメリカのルーズベルト大統領が使った炉辺談話(当時はラジオであったが)と同じかそれ以上の効果をもつ。大阪府の吉村知事の誠実な人柄と強いリーダーシップを感じた住民も多かったと聞く。

 他方、動画は、知事の人柄とリーダーシップにマイナスの印象を与える場合もある。緊急事態宣言後の記者会見で度々メモを読みあげたり、話し方が自分の言葉になっていないような知事の印象は逆効果である。特に政令指定都市を包括する都道府県の場合、大きな人口シェアを有する政令指定都市の市長のプレゼンスの方が大きいため、市長が動画で話す方が説得力があり共感をよぶ。このため、政令指定都市を含む府県では、知事と市長が連携している姿を見せる意味でも、動画では2人(政令市が2つ以上ある場合はさらに多い人数)が同じ会見に現れ話すのが効果的である。

 なお、情報発信手段は、多様なツールを用意するとして、少なくとも自治体のHPでは、英語表記のページを作成しておく周到さも求められる。

2.情報発信のポイント

(1)明確な戦略

 発信した情報は住民の心に響かなければ納得してもらえない。特に感染症拡大リスク下では、早急に住民の活動量を減らし一気にゴールを目指さなければ、ほぼ失敗に終わる。このため、第1回コラムの「目標値のある感染症対策」で述べた明確な戦略が第1に求められる。

 いつまで何をすればどのような効果が期待されるか。難しい予測であるが、具体性は信頼を生む。また、具体性とあわせて、三密のようなキーワードの発信は、住民の意識に響く。

(2)対象別感染状況を意識した情報発信

 第2に、対象別感染状況を意識した情報発信が有効である。年代別の感染者数の割合を示す際に、実際の年代別人口割合も同時に示す方法はよくとられる。どの年代が人口構成よりも感染しているかが一目瞭然である。一時期、若者の外出自粛要請を単にお願いする声が多かった。若者は、年金受給面で将来受け取る額が減らされる懸念をもっていたり、高齢な国会議員や地方議会議員によるシルバー民主主義に不満を強く持っている。あわせて、仕事の生産性が明らかに異なる退職前の世代と若い人たちとの間の不公平感もある。こうした背景を想像すると、若者の外出自粛といわれると、若者だけが割を食うと思わせた可能性がある。

 そこで、実際の年代別人口割合と感染者年代別割合の比較を継続的に見せていけば、若者が多いかどうかや、飲みに出歩いている世代が多いのではないかといった点がわかる。「40代以下の人」などと世代に幅をもたせたデータの解釈は不正確であるため、自治体ごとの年代別比較を示すのである。都道府県別または市町村別で行えば、我慢して外出自粛を頑張っている地域かどうか、年代別特徴はどうかがより鮮明になる。

(3)ネガティビティバイアスを利用した情報発信

 第3、4、5は、近年注目されている行動行政学の研究で指摘されてきた知見に関係する。第3は、ネガティブな情報ほど大きなインパクトを与える点を意識することである。行動行政学ではサーベイ実験などに基づき、ポジティブな情報よりネガティブな情報の方が強く反応する住民のネガティビティバイアスを明らかにした。

 クラスター対策班の予測結果をもとに、活動を8割抑制しないと深刻の度合いが大きくなるというメッセージはよかったが、それを「できれば8割」「最低7割」と言うと、住民に対する効果が激減する。「8割以上を必ず守らないと大変なことになる」という政治家のメッセージが必要であった。深刻さで不安をあおるのはよくないとテレビのコメンテーターが話していたが、感染症リスク拡大下では、深刻さをわきまえた行動の徹底が基本である。

(4)継続的な情報発信

 第4は、継続的な情報発信である。住民はあらかじめ何らかの信念や態度をもっている。新型コロナウィルスの影響は、自分の地域では、おそらくそれほどでもないだろうと勝手に思い込んでいる。これは、大丈夫であろうという事前の信念である。深刻な情報を受けとっても、たまたま今回だけ深刻であって近いうちにすぐに解決するであろうと、自分の考えにあうように情報を主観的に解釈するバイアスをもつ。

 また、受けとった情報による効果が本人に一時的に響いたとしても時間の経過とともに、もともともっていた事前の信念や態度に戻ってしまうことも行動行政学の研究で明らかにされている。

 このように、事態の深刻さを確実にわきまえてもらうためには、定量的、定性的な情報を問わず、継続的な情報発信が求められる。さらに自治体への信頼が重要である。先述の明確な戦略動画による首長の誠実なようすは、自治体への信頼を高める。信頼は事前の信念の一つと言われている。信頼する自治体からの情報を住民はさらに信頼するという好循環を生む。

(5)エピソディック情報の発信

 第5は、エピソディック情報の影響力が大きい点である。客観的な数値による感染者数やその増加数、死亡率はもちろん必須の情報である。ただし、定量的データよりも個々の事例を紹介する方が、より大きなインパクトを住民に与えることが研究で明らかになっている。

 30代男性のA氏は〇月〇日に飲食店で会食したのをきっかけに高熱が続き、PCR検査の結果陽性が判明し、その後入院、そして苦しい呼吸を続けながらも何とか2週間で回復した。ただし、その後の検査で再度陽性になり、また2週間の入院を経験するなどといった事例をいくつか収集して公表するのである。このような事例の情報は定量的データよりも住民の行動抑制に強く訴えることができる。

 

 以上は、自治体が発信するあらゆる種類の情報に適用できるポイントである。住民が納得する情報発信を念頭におき、これらのポイントをふまえた情報発信を再確認されるのはどうだろうか。

 

Profile
野田 遊(のだ・ゆう)

同志社大学政策学部・大学院総合政策科学研究科教授

フルブライト研究員(2014、ジョージタウン大学)、豊中市経営改革専門委員ほか。専門は地方自治、行政学。近年の論文・著書は「大阪都構想の賛否の程度は情報提供で変化するか?」(『同志社政策科学研究』2020)、Trust in the Leadership of Governors and Participatory Governance in Tokyo Metropolitan GovernmentLocal Government Studies, 2017)、「公務員の対応、サービスの業績、市民の満足度」(『公共政策研究』2016)、『市民満足度の研究』(日本評論社2013)など。

 

 

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