時事問題の税法学

林仲宣

時事問題の税法学 第25回 宗教活動と課税

地方自治

2019.08.06

時事問題の税法学 第25回

宗教活動と課税
『月刊 税』2017年11月号

宗教法人の収入

 菩提寺での彼岸法要が行われる秋分の日の朝、テレビの情報番組で、埼玉県下で、「みんなのお寺」と喧伝する寺院が紹介されていた。檀家制度を廃止して、広く門戸を開いたことで盛況だという。目玉は、戒名の料金表が開示されており、いわば明瞭会計が人気のようだ。確かに、「お気持ち」といわれても、お布施の金額は難しい。中学校の先輩で親しい菩提寺の住職でも礼儀は重んじる。ふるさとでも高額なお布施で評判のお寺があるが、これも小中学校の先輩の相続税申告で事実だと知ったのは最近だ。

 番組では、収入が4倍増加し、最近の純利益として正確な数値も示されていたが、ここで気になるのは課税である。

 法人税法では、宗教法人の営む宗教活動による収入は非課税である。おみくじ、お札の売上は宗教活動の一環であるが、絵葉書や写真集などの代金は、収益事業として課税対象となる。駐車料金、精進料理、宿坊などの収入も収益事業とされる。ただこの判別については、かつて論議をよんだ最高裁平成20年9月12日、いわゆるペット供養事件が思い出される。愛知県下のペット供養を専門とする寺院の活動が争点であったが、宗教性が否定され収益事業と認定された。その根拠のひとつが料金表であり、本来、「喜捨」であるべき宗教行為を、役務の対価として金額を示すならば、民間のペット供養業者と変わらないという指摘だった。

 この「みんなのお寺」のHPにも、ペット供養の表示があり、料金表が掲示されている。お寺では旧檀家との対立もあると報じられているが、国税当局との折衝も解決しているのだろうか、気になる。

伝燈院事件

 ペット供養の宗教性は国税では否定されているが、地方税では容認された事例として、回向院事件(東京高裁平成20年1月23日判決)がある。宗教法人に対する固定資産税は、宗教法人が専らその本来の用に供する宗教法人法に規定する境内建物及び境内地は、非課税とされている。そのため、宗教法人の目的である宗教の教義をひろめ、儀式行事を行い、信者を教化育成するために必要な固有の建物や土地であるならば、固定資産税は課されないことになる。裁判所は、江戸時代からペット供養の寺院として伝統がある宗教法人の行為について、動物供養に対する社会的な認知の度合い、民間業者の事業との類似性等の事実認定から民間業者と同等の営利性を否定し、宗教施設に対する固定資産税の非課税を容認した。歴史と伝統の重視であるが、新しいものには厳しい。

 最近何かと話題になっているのは、ビル型納骨堂、いわゆる納骨ビルの建設である。コンピューターによる自動制御をし、多くの遺骨を収容できる納骨堂は、利便性、効率性そして経済性から首都圏を中心に建設が進んでいる。ただ、同時に近隣住民による反対運動も起こっているらしい。その是非はさておき、課税問題も注目されている(毎日新聞電子版8月20日)。

 すでに紹介しているが(平成28年分地方税判例年鑑124頁本誌平成29年3月号別冊)、東京地裁平成28年5月24日判決の伝燈院事件では、裁判所は、5階建てのビルのうち、参拝所や納骨堂に使う2〜4階部分が主な課税対象になった。宗派を制限せずに遺骨を受け入れていることや、販売委託する会社にビルのスペースを提供して手数料を払っていることなどを考慮し、こうした運営方法が宗教行為に当たらないと判断して、固定資産税等の賦課を容認している。

 寺院側は、建物では、納骨された遺骨の供養、勤行、読経、法要又は布教などの宗教的活動が専ら行われていることから、建物や土地は、宗教法人が専らその本来の用に供する境内建物及び境内地に該当すると主張していた。

 いわば宗教法人の目的である活動の一部を民間委託していることは、宗教の本質を放棄しているという指摘だろう。安易な民間委託は、本質的なものを失わせるが、行政も同じかもしれない。

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