時事問題の税法学
時事問題の税法学 第24回 黄金の魅力
地方自治
2019.08.06
時事問題の税法学 第24回
黄金の魅力
(『月刊 税』2017年10月号)
黄金の相続税対策
30年以上前に、関東地方の大学教授で税理士でもあった人物から面白い話を聞かされた。東京近郊の資産家の家で、黄金の仏壇を見せられたという。宗派によっては、金銀の装飾が多い、煌びやかな仏壇を用いることもあるが、そんな程度ではなく、まさしく豊臣秀吉の黄金の茶室を想像させるような代物だったという。扉の桟も外せば金の延べ板になり、分解すれば、おそらく金の板に変わるような構造だったらしい。なかには燦然と輝く純金の仏像と仏具類が鎮座していた。いうまでもなく仏具は非課税財産とされる相続税対策のつもりだったようだ。その節税効果に否定的だった教授も程なく逝去されたので、その後の経緯や顚末は分からない。いまでも相続税対策と銘打って、黄金の仏像や仏具の新聞広告を見るたびに、教授を圧倒した仏像、仏具の大きさを想像したりする。
わが国のような自国の通貨を信頼している先進国では少ないようだが、通貨不安にさらされている国や地域の人々には、通貨を金に換える習慣があると聞くが、また信仰から大きな金製品を身につけている民族もある。
もっとも、わが国でも金の地金や金貨に対する投資の人気も根強い。投資とまではいかなくても、リサイクルショップなどで古い貴金属のアクセサリーを換金する話も耳にする。詐欺まがいの貴金属換金の訪問セールスも横行するらしい。まともな業者が相手なら、「金地金等の譲渡の対価の支払調書」の提出を守っているだろうから、多額の取引をする者は、譲渡所得の申告漏れに注意することになる。
消費税脱税
ところでいま、金取引に対する課税で話題になっているのは、金密輸による消費税脱税事件である。わが国に金を持ち込む場合には、入国時に8%の消費税を支払う。100万円相当の金地金について8万円となる。国内でこの金地金を売却したとしても、金の相場価格に大きな変動がなければ、取引業者の設定する売値と買値に若干の差はあるにしても、100万円前後での代金と8%相当額の消費税相当額を受け取ることになるから、損得は発生しない。しかし、消費税を払わず密かに国内に持ち込めば、転売時には8%相当額が儲かるという極めて違法性の高い行為である。
報道されているものは、反社会組織の資金源といわれる億単位、千万単位の金塊を密輸する内容が多い。なかには、アルバイト感覚で犯行に及んだ愛知県下の主婦たちが実行犯として逮捕された事件もあった。ただこれらは氷山の一角であることは誰の目で見ても明らかと思う。
地方の国際空港に勤務する税関職員と懇談する機会が多いが、帰国者の通関時における摘発は難しいと嘆く。例えば、50gの金なら24万円前後が相場だろう。貴金属販売業者のHPを見ると、50gの金地金の大きさは、40×25×3.5㎜と記載されているから、名刺を4つにたたんだよりも小さい。密輸という意識よりも軽い気持ちで、50gの金地金を持ち込み換金すれば、2万円弱は儲かる計算になる。かつて、四半世紀も前、南の島で購入したご禁制のグラビア雑誌を密かに持ち込み、同級生に転売した学生を知っているが、それと同じような感覚で、少量の金を換金して小遣い稼ぎをしている連中は多いはずだ。
金取引の消費税非課税化
くだんの税関職員は、金取引に係る消費税を非課税にすればいいという。同感である。金取引非課税に伴う消費税減収額は分からないが、闇社会への資金流出、違法行為の助長と摘発コストなどを比較衡量すれば、非課税化の効果は大きい。消費税の10%改正になれば、さらに問題は広がる。
金取引の課税では、8月上旬、東京秋葉原の免税店が、金製品販売を装い、消費税70億円を不正還付申告したという事件が各紙に掲載された。訪日外国人が消費税免税の対象商品を国内で購入した場合には、販売業者が申告すれば仕入れ時に負担した消費税が還付される制度を悪用したという。免税店は、課税処分を不服として、国税不服審判所に審査請求していると報じられている。