時事問題の税法学
時事問題の税法学 第23回 賦課課税の功罪
地方自治
2019.08.06
時事問題の税法学 第23回
賦課課税の功罪
(『月刊 税』2017年9月号)
システムの盲信
報道によれば(毎日新聞電子版7月25日)、山梨県西部の自治体では、最長で15年前から家屋や土地の固定資産税を過徴収していた。
過徴収されたのは、約500軒分の家屋の固定資産税約1億4000万円になる。平成14年の6町村の合併で同自治体が誕生する前に税務システムを統合した際、築年数に応じて固定資産税の評価額を年々下げる経年減点補正率(耐用年数)の設定を誤り、工場や倉庫に対して、高い固定資産税を請求していたようだ。
発覚したきっかけは、本年3月、家屋を持つ法人から課税に関する書類の開示請求があり、職員が気付いた。対象額や軒数は集計中だが、1件当たりの最大過徴収額は少なくとも3800万円になるらしい。
一方、土地の固定資産税についても、347人485筆で計204万円の過徴収があった。課税額の算出には路線価を採用していたが、平成26年度に行った評価替えの際、下落修正率が正しくシステムに反映されていなかったことから、27年度、28年度において、過徴収が生じたという。
同自治体では、「税務をつかさどる立場として申し訳ない」と謝罪し、いずれもシステムが正しく働かなかったことが原因と弁明した。一方で「職員のチェックも不十分だった可能性もある」として担当者らから聞き取りなどを行い、原因を究明する姿勢を示している。そしてシステム不良の場合にはシステム開発業者に、還付加算金について賠償請求することも考慮に入れているという。しかし、サンプルを抽出して手計算すれば、システム不良はすぐ分かるはずであり、今回の事例も開示請求により視認した結果、明らかになったのだろう。まさしく、システムの盲信に違いない。
ただ気になるのは、過徴収は15年前から始まったとされるが、何年までさかのぼって還付するかは、報道では明確になっていないことだ。この還付年数は自治体の対応に差があり、公平性に欠ける。昨年、静岡県西部の自治体で、私有地に公道の舗装が侵食しており、その舗装部分にも固定資産税が、長年、課せられていた事案で、この自治体は20年分さかのぼって還付した。20年というのは、ある意味、画期的だが、地主にしてみれば、公道は、数十年前から舗装されていたわけであり、不満は残る。
課税ミス
賦課課税は、制度としては公平といえる。不動産、自動車など、いわば所有者名簿や給与支払報告書をもとに納付書を送付する至ってシンプルな方法だからだ。しかし、通知課税と揶揄されるのは、地方税制の基幹税である固定資産税の課税ミスが多いからだろう。全国紙で、年に数回は固定資産税の課税ミスの記事を目にする。地方版や地方紙ではもっと多いのだろうが、これも氷山の一角といっていいかもしれない。
用途や排気量の異なる車種の自動車税課税通知や所得額と異なる住民税の納付書が届けば、一目瞭然に課税ミスは分かる。しかし、固定資産税の場合は、複雑な固定資産税評価額の算定内容を理解するのは難しい。固定資産課税台帳の閲覧も有効的に機能しているとはいえない。つまり固定資産税では、納税者が課税内容を容易に把握できない。これが固定資産税の課税ミスの元凶といいたい。
家屋は建築費用などプライバシー議論が出てくるが、土地については、向かい三軒両隣ぐらいの評価額を付記して通知すべきである。路線価図も倍率表も公表されているし、登記簿も閲覧できる。土地の広さも用途も近隣には周知のことであるから、プライバシーはない。近隣の評価額と比較できれば課税ミスは発見しやすい。この方法だと税務行政が混乱するという発言があるなら、いうまでもなく本末転倒だ。
子どもの頃から通う床屋のオヤジに、町内会費は敷地面積に応じて決まっているらしいと町内会長を務める同級生から聞いたといったら、オヤジが、大昔は住民税か固定資産税に連動していたとか、国民健康保険料も町内で集金していたと、にわかに信じがたい話をしてくれた。東海道の宿場町で城下町でもあったふるさとの話である。