最新法律ウオッチング
最新法律ウオッチング ― 旧優生保護法 補償金等支給法(一部を除き、公布の日(2024年10月17日)から起算して3月を経過した日から施行)
NEW自治体法務
2025.02.03
※2024年12月時点の内容です。
最新法律ウオッチング 第133回 旧優生保護法に基づく優生手術等を受けた者等に対する補償金等の支給等に関する法律
(『月刊 地方財務』2025年1月号)
2024年10月の臨時国会において、旧優生保護法補償金等支給法が成立した。
1948年制定の旧優生保護法に基づき、あるいはその存在を背景として、多くの方々が、優生上の見地から不良な子孫の出生を防止するという誤った目的の下、特定の疾病や障害を有すること等(特定疾病等)を理由に生殖を不能にする手術や放射線の照射(優生手術等)、また、人工妊娠中絶を受けることを強いられて、子を生み育てるか否かについて自ら意思決定をする機会を奪われ、これにより耐え難い苦痛と苦難を受けてきた。
特定疾病等を理由に優生手術等を受けることを強いられたことに関しては、2019年に一時金支給法が制定されたが、同法はこれを強いられた方々に対してその被った苦痛を慰謝するものであり、国に損害賠償責任があることを前提とするものではなかった。また、特定疾病等を理由に人工妊娠中絶を受けることを強いられたことに関しては、これまで謝罪も慰謝も行われてこなかった。
しかしながら、2024年7月3日の最高裁判決において、特定疾病等に係る方々を対象者とする生殖を不能にする手術について定めた旧優生保護法の規定は憲法に違反するものであり、当該規定に係る国会議員の立法行為は違法であると判断され、国の損害賠償責任が認められた。
これを踏まえ、法案が衆議院の議員立法として国会に提出され、成立した。
旧優生保護法補償金等支給法
●国会と政府の謝罪
法律の前文において、国会と政府は、特定疾病等に係る方々を差別し、特定疾病等を理由に生殖を不能にする手術を強制してきたことに関し、憲法に違反する規定に係る立法行為を行いこれを執行するとともに、優生上の見地からの誤った目的に係る施策を推進してきたことについて、悔悟と反省の念を込めて深刻にその責任を認めるとともに、心から深く謝罪するとした。また、これらの方々が特定疾病等を理由に人工妊娠中絶を受けることを強いられたことについても、心から深く謝罪するとした。
●補償金の支給
旧優生保護法に基づく優生手術等を受けた本人とその特定配偶者(優生手術等を受けた日からこの法律の公布の日の前日までの間に婚姻していた者や、優生手術等を受けた日の前日までの間にこれを受けることを原因として離婚した者)の損害を賠償するための補償金を支給する制度を新設し、国は、本人に1500万円、特定配偶者に500万円を支給することとした。また、これらの者が死亡したときは、その遺族が補償金を請求することができることとした。
●優生手術等一時金の支給
旧優生保護法に基づく優生手術等を受けた本人の被った苦痛を慰謝するための一時金を優生手術等一時金とし、国は、当該優生手術等を受けた本人であって、この法律の施行の日に生存しているものに、320万円を支給することとした。
●人工妊娠中絶一時金の支給
旧優生保護法に基づく人工妊娠中絶等を受けた本人が被った苦痛を慰謝するための人工妊娠中絶一時金を支給する制度を新設し、国は、当該人工妊娠中絶等を受けた本人であって、この法律の施行の日に生存しているものに、200万円を支給することとした。
●請求の期限・手続
これらの補償金等の請求期限をこの法律の施行の日から起算して5年を経過する日とした上で、請求の状況を勘案して期限の延長に係る検討を行うこととした。
また、これらの補償金等の支給の請求は、都道府県知事を経由してすることができることとするとともに、この請求がなされた場合は、こども家庭庁に設置される旧優生保護法補償金等認定審査会の審査を経て、内閣総理大臣が支給の認定をすることとした。
●調査・検証等
国は、旧優生保護法に基づく優生手術等や人工妊娠中絶等に関する調査を行い、これらが行われた原因やこれらを受けることを強いられる事態の再発防止措置の検証や検討を行うこととした。
また、国は、この法律の趣旨・内容について、広報活動等を通じて国民に周知を図り、その理解を得るよう努めるものとした。
●施行期日
この法律は、一部を除き、公布の日(2024年10月17日)から起算して3月を経過した日から施行される。
国会決議
国会では、法案についての質疑は行われなかったが、衆議院と参議院のそれぞれの本会議において、旧優生保護法に基づく優生手術等の被害者に対する謝罪とその被害の回復に関する決議が行われた。