議会局「軍師」論のススメ
議会局「軍師」論のススメ 第98回 議会は如何にして民意を反映すべきか?
NEW地方自治
2025.01.16
本記事は、月刊『ガバナンス』2024年5月号に掲載されたものです。記載されている内容は発刊当時の情報であり、現在の状況とは異なる可能性があります。あらかじめご了承ください。
言うまでもなく議会は、選挙で選ばれた議員を構成員とする合議制機関である。代議制民主主義における公選職は、選挙で選ばれた民主的正統性をもって住民の代表となる。
そのため、多様な属性の議員の意見そのものが民意であり、議会に住民広聴など必要ないとの意見もある。そこで今号では、選挙や広聴による民意の反映について考えたい。
■選挙と民意の反映度の相関性
日本国憲法前文では、「その権力は国民の代表者がこれを行使」する代議制民主主義を定めている。自治体でも同様だが、首長と議会では、制度の違いによって選挙による民意の反映度が異なる。首長選挙での被選挙人は、権力主体である執行機関そのものであるが、議会に関する選挙では、権力主体は議事機関だが、被選挙人は個々には権限がない議会の構成員たる議員である。つまり議会では、選挙結果と民意がズレる可能性がより高いと言える。
では、議会の民意の反映度を高めるには、「議員」選挙ではなく、たとえばA、B、Cの議員で構成される第一候補の議会と、D、E、Fの議員で構成される第二候補の議会を選択する「議会」選挙も考えられるが、なり手不足が問題となる現実の前では机上の空論だろう。
また、議員選挙は単記非移譲式だが、これを有権者が議員定数分の投票ができる完全連記制とすれば、民意の全体縮図により近づけるように思える。だが、人間の情報処理能力は選択肢が7を超えると急激に落ちるという「マジカルナンバー7±2」理論(注1)を前提に考えると、定数10を超える議会では実効的な選挙制度とも言えない。
注1 ジョージ・ミラー教授(ハーバード大学)による、人間の短期記憶可能な情報量は5から9が限界だとする理論(1956年)。
選挙制度改正の視点だけでは、議会を常に民意の全体縮図とすることは難しく、まして議員個人の意見を民意だと言い切るのは無理があるだろう。当選による民主的正統性は、住民からの白紙委任の根拠にはなり得ないのである。
■広聴結果のオーソライズ
では、どのようにして民意を反映すべきだろうか。それは課題ごとに、公式の場で住民意見を聴取することに尽きるのではないだろうか。
住民広聴を公式の議会活動の範疇で行うべき理由は、非公式の場では住民意見が公式会議録に残らず、議会の意思決定プロセスの妥当性を立証することが困難となるほか、聴取した意見を全体民意とみなす根拠に欠けるからだ。
たとえば議会報告会などでは、盛会であっても全有権者数を母数とした参加者比率は、ほとんどの場合1%にも満たないだろう。それを全体民意とみなす根拠なく、政策方針の決定要件とするのは、危ういと感じる。
もちろん法定公聴会であっても、参加者比率は同様であろうが、自治体の意思を確定することは公式の会議でしかできないことと同様に、住民広聴も公式プロセスで行うからこそ、その場での意見を全体民意とみなし、オーソライズすることができるのではないだろうか。
また、国際調査の比較では日本の有権者は、主権者意識が先進国の中では低く、自分では政治に参加しないが、生活の質に対して政治は責任を持つべきという消費者意識のようなものが高いとされる(注2)。
注2 谷口尚子・慶應義塾大学大学院教授「地方議会活性化シンポジウム2023」(2023年11月13日、総務省主催)での基調講演。
そのような傾向に対するアンチテーゼとしても、非公式のイベントではない公式の議会活動への住民参加こそが、期待されるのではないだろうか。
第99回 議会のステークホルダーは誰なのか? は2025年2月13日(木)公開予定です。
Profile
早稲田大学マニフェスト研究所招聘研究員・前大津市議会局長
清水 克士 しみず・かつし
1963年生まれ。同志社大学法学部卒業後、85年大津市役所入庁。企業局総務課総務係長、産業政策課副参事、議会総務課長、次長、局長などを歴任し、2023年3月に定年退職。著書に『議会事務局のシゴト』(ぎょうせい)。